6話 セインとマリエル
孤児院で暮らす子供たちの、服やシーツを綺麗に洗濯して干していると。
険しい表情を浮かべたセイン様が、物干し竿に掛けられた洗濯物をかき分けてあらわれた。
「マリエル、元気にしているか?」
「まぁ! セイン様……」
セイン様と会うのは、ギリスさんとの婚姻の儀式以来だ。
「手紙にはギリスとは暮らせないとしか、書いてなかったが……」
毎日、部下たちを怒鳴りつけている人だとは思えないほど。セイン様は優しい声で慎重に私にたずねた。
「それは……」
(とても、あんな……ギリスさんに言われた屈辱的なことを、セイン様には言えないわ。あまりにも恥ずかし過ぎるもの)
私はセイン様の問いかけに言葉が詰まる。
『マリエル、オレは君を愛す気はないから。君もオレに愛情は求めないでくれ』
『どうせ君だって結婚の適齢期を過ぎてしまい、嫁ぎ先が無くて困っていたのだろう?』
初夜にギリスさんと交わした会話を思い出すだけで、私の目から悔し涙が滲み出て唇をかみしめた。
そんな私を見て、セイン様は心配そうな顔をする。
「それで、マリエル……いったい何が起きたんだ?」
「ギリスさんとの結婚は間違いでした。あの人は妻はいらないそうです」
(恥ずかしくても理由を言わなければ、セイン様はきっと納得しては下さらないでしょうね)
「ギリスに、何を言われたんだ?」
「子供も、家庭も必要ないと……」
「何だって? クソッ! 私がギリスと話す。あいつはマリエルの素晴らしさを、知らないだけなんだ!」
セイン様はグッと拳を握りしめた。
「いいえ。セイン様、それはやめて下さい。私はこのままでも良いです。もう、誰とも結婚をする気はありませんから」
「あきらめてはダメだ、マリエル! ギリスが嫌なら他の部下を……!」
私の肩に大きな手を置き、セイン様は私を説得しようとするが。
「どうか、それはやめて下さい! 私には愛する人がいます。その方への愛を抱いたまま。私は他の男性と結婚をしてはいけなかったのです!」
「……愛する人⁉ 君には恋人がいたのか? それは一体どこの誰なんだ」
セイン様に問い詰められても、私は上手く答えられない。なぜなら愛するその人はセイン様自身だから。
「どうかこれ以上は、私を結婚へと追いつめないで下さい!」
(セイン様……私はとても弱い人間です! 愛する人に結婚しろと言われれば、間違っているとわかっていても、愛する人の言葉に流されてしまいそうです。だから、どうか弱い私をこれ以上追い詰めないで下さい)
「マリエル! 君が愛する人とは、誰なのだ?」
動揺しているのか、セイン様は髪をかき混ぜるようにガシガシと頭をかく。
「言えません、セイン様。ごめんなさい!」
「マリエル……っ」
「まだ仕事がたくさんあるので……セイン様、私はこれで失礼します」
「待ってくれ、マリエル!」
追求に耐えられなくなり。私の告白に驚き呆然とするセイン様を、その場に残して逃げ出した。
「マリエルに思いを寄せる男がいたなんて…… 気づかなかった。クソッ! いったい、どこの誰なんだ?」




