5話 自立への道
たとえ貧乏男爵家出身でも。
学園で淑女の教育を受けた私のような女性を、自分の子供の家庭教師にするために。
雇いたがる貴族や裕福な商人(平民)はたくさんいると、女性神官たちに教えてもらった。
職業婦人に仕事を斡旋する、専門の紹介所もあるけれど。私の場合は実績が無いから、そういう場所で職を探すのは難しいらしい。
それに紹介所を使えば手数料を取られるのだ。
──そこで行き場を失い、神殿で保護された女性のために。
信徒の情報網を駆使して、神官たちが用意した職場を紹介してもらった方が確実なのだ。
「あわてて決めたりしないで下さい。どの雇い主のもとでマリエルさんが働きたいかは。じっくりと考えてから、決めた方が良いですよ」
「はい、神官長様」
「マリエルさんは働き者で、慈愛に満ちた優しい女性だと。責任を持って私が推薦状に書きますからね」
「ふふふっ…… ありがとうございます!」
『絶対に苦労するから』とお父様とセイン様に止められたり、脅されたりして。以前は良い就職先があっても、私は躊躇していた。
だけど結婚に失敗して痛い目にあい、私にはもう後がない。そんな甘えは捨てることにした。
私は自分が女神カルミーンの神殿にいることを、手紙を書いてギリスさんに送った。
「ギリスさんに、少しでも私と話し合う気があるのなら。私は始めからやり直す努力をしようと思っていたけれど……」
一週間が過ぎても、ギリスさんからの連絡はない。当然、私を迎えにも来ない。
『自分は考えを改める気はないから、嫌なら帰らなくても良い』
……と。それがギリスさんの出した答えなのだ。
「ギリスさんはきっと、家を出た私が悪いと。この結婚が上手くいかなかった原因は、すべて私にあると……」
(上司のセイン様にそんな言い訳を、しているかもしれないわね)
自立する手段を知らなければ。私は何の希望も夢も無い、ギリスさんとの冷たい結婚生活を始めていただろう。
「……セイン様と実家にも、このことを報告しないと」
(お父様も双子の弟たちも……きっとガッカリするでしょうね)
でも私はこれ以上、間違いを犯したくはない。
憂鬱なため息を、ハァ──ッ…… と何度もつきながら。
私は謝罪の手紙を二通書いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「これはいったい、どういうことだ⁉ 一週間前からマリエルが神殿にいるだと? なぜモリダール家ではないんだ?」
王立騎士団の本部で、マリエルから手紙を受け取り。私は執務室で怒鳴り声をあげた。
「ど、どうされたのですか、副団長……?」
運悪くちょうど私の近くにいた部下が、ギョッと目を剥く。ビクビクと怯えながら、怒り狂う私にたずねた。
高齢で引退間近の騎士団長よりも。厳しくて怖いと恐れられる副団長の私の前では、部下の騎士たちはみんなこの調子である。
「ギリスはどこだ───っ!」
「ギ、ギリスですか? あいつは確か……昨夜、伯爵邸で起きた強盗事件の犯人を追って、東部に行っていますが。二、三日は王都へ戻らないと思います」
(そうだった、思い出した。マリエルの手紙を読んで、あまりにも腹が立ち。完全に頭から抜け落ちていた)
自分でも呆れるぐらい、動揺している。思わずチッ! ……と舌を鳴らした。
「先にギリスから話を聞きたかったが。仕方ない! 私は神殿へ行く」
「は、はい。副団長!」
(とにかく今はマリエルに会いに行き、話を聞かないと……)
すばやく剣帯に剣を装着し。私は足早に執務室を出た。
そんな私の背中を、ビクビクッと怯えながら部下は見送った。




