4話 マリエルの事情
まだ双子の弟が小さい時にお母様が亡くなった。
お父様は少しでも私と弟たちのそばにいるために、騎士団を辞めて領地の運営に専念することにした。
だから私もお父様に協力して、幼い弟たちの母親代わりとなって二人を育てあげた。
弟たちを育てるうちに。ギリスさんが言った通り、結婚適齢期を過ぎた私は“行きおくれ”となってしまった。
……そのうえ貧乏な男爵家の長女では持参金も少ない。とても良い結婚は望めない状況だった。
弟たちを育てると決めた時に、私はどこかへ嫁いで自分の家庭を築くことを諦めた。もちろん、そのことで後悔したことは一度も無い。
お父様は……
『お前が少しでも幸せを感じられるのなら、無理して嫁ぐ必要はないよ』
……と言ってくれたけど。
『でも、お父さま。将来、タムワース男爵家を継ぐ弟に、迷惑をかけたくないから。私は働きに出ようと思っています』
働きに出ることを見越して。私は家事の合間に神殿へ通い、神殿に併設された孤児院を手伝った。
そこで女性神官たちと仲良くなり、就職先への紹介状を書いてもらえるよう頼んでいた。
──でも近いうちに私が自立するために、働きに出ると聞いたお父様の元上司セイン・ガルフェルト侯爵様が、私のことを心配した。
そこで有能な自分の部下の、ギリス・モリダールさんとの縁談を持って来たのだ。
(結婚は失敗したけれど。元々立てていた計画を、実行すれば良いだけだわ)
神官たちを手伝い、神殿裏にある孤児院の子供たちに文字を教えながら。私は自分のこれからについて、ぼんやりと考えた。
「私の幸せを願って、セイン様が結婚相手を探してくれたのは嬉しかったわ。でも……やっぱり、ダメね」
思わず苦笑いをした。
(セイン様自身に結婚をすすめられて。これも運命だとセイン様への愛を、諦める理由にしてみたけど。自分で自分の気持ちを騙すことは出来なかったわ)
……だからこれからする自分の選択は、正しくあって欲しいと願うばかりだ。
(たとえ愛する人にすすめられても。今後は自分の判断力を信じよう)
自分の将来を、人任せにしてはいけなかったのだ。
「勝手にギリスさんの家を飛び出してしまったから。セイン様に叱られるかもしれないわね」
(モリダール家に大人しく戻れと言われたらどうしよう?)
もちろん私は戻る気はないけど。
(……でも、ギリスさんを結婚相手に紹介してくれた、セイン様の顔を潰したことになるわ)
初恋の人に嫌われるのは嫌だけど。ギリスさんの元へ戻るのは、同じぐらい嫌だ。




