2話 屈辱の初夜2
昼間、神殿で婚姻の儀式をとりおこない夫となったギリス様は、私に厳しい口調で責められると。
壁際に寄せてあった椅子を引きよせ、子供のように不貞腐れてドスンッ! と乱暴に腰を下ろした。
「とにかくオレは……副団長の好意を断り続けるのがだんだん面倒になって、君と結婚したんだ!」
「……面倒になって結婚したですって⁉」
(なんて無責任な人なの? これでも本当に騎士なの⁉ 時々貴族の男性には、こんな性格の人がいると聞いたことがあるけれど。まさかセイン様がすすめてくれた人が、こんな人だったなんて)
「そうだ、この結婚に他の理由はないさ」
「理由がないですって? 子どもが欲しいだとか、温かい家庭をつくりたいだとか……そういった普通の理由もないのですか?」
怒りと屈辱でブルブルと震える手で、ベッドの上掛けをギュッと握り締めてギリス様にたずねた。
「オレは跡取りではないから、子供は必要ない」
「ええ! それは結婚前にお聞きしました。確か……騎士爵は一代限りのものですから。旦那様に子供がいても、受け継げないことは私も知っています」
私の双子の弟たちもお父様から男爵位は継げても、騎士爵は継ぐことが出来ないから。そのへんの法的事情は、詳しくはないけど私も知っている。
「……とにかくオレは家庭だとか、子育てだとか。そういった面倒なことに、時間をとられるのが嫌なんだ! 本当は結婚もしたくなかったのに。副団長が強引に君を推薦してきたから、オレは仕方なくこの結婚を受け入れたんだ」
「そんな大切なことは、結婚前に言って欲しかったわ! なぜ言ってくれなかったのですか?」
(断わるのが面倒だからですって? 嫌々、私との結婚を受け入れた? 何てひどい言い人なの! それになんて迷惑な人‼ そんな考えを持っていると知っていたら、私の方が断ったわ)
私は子供が欲しくて、温かい家庭を築くことを夢見て。この結婚に希望を持っていたのに。
唇を噛みしめ、悔し涙がこぼれそうになるのをこらえていると。さすがにギリス様も気まずそうに、私から視線をそらす。
「どうしてこんな……」
「上司の好意を断って、オレの印象を悪くしたくなかったからさ」
「……そんな理由で」
「どうせ君だって結婚の適齢期を過ぎてしまい、嫁ぎ先が無くて困っていたのだろう?」
結婚した理由で私に責められたギリス様は、卑怯にも私の弱みを攻撃して、私の言葉を封じようとしている。
王国での結婚適齢期は十五~十八歳。 私は二十三歳。
「君は妻だから、夫のオレが生活の保証をしてやるんだ。他に何の文句があるんだよ」
私と目を合わせようとしないで。ギリス様はフンッ! ……と鼻を鳴らして嘲笑する。
「ひどいわ……!」
(こんな人だったなんて)
結婚前のギリス様は騎士団の仕事に追われて、私と会う時間がほとんど無かった。
──その時は、私と会えないのは……『ギリス様は真面目で、仕事熱心な人なのね』と思っていた。
騎士の娘に生まれた私は、元騎士のお父様の忙しい現役時代を思い出して。『ギリス様は立派な騎士だ』と尊敬の念や親しみまで感じていたのに。
単にギリス様は私と合うのが面倒だったのだ。
「……っ」
(このことを勝手に良い方向に評価して、私が追及しなかったのも悪いけれど。……でも!)
こんな気持ちは、やりきれない。私の一生の問題だから、簡単に納得も出来ない。
「だから君は、こうしてオレと結婚出来ただけでも幸運だったじゃないか」
「幸運ですって……?」
「ああ。オレと結婚出来て君に礼を言ってもらっても良いぐらいだ」
「……っ」
(この人はなんて恥知らずなの。なぜ私をここまで侮辱するの⁉)
ギリス様は自分の言葉で傷ついた私を、バカにするように嘲笑い続けた。
「私をそんなふうに見ていたのね……」
「とにかく、そう言うことだから」
「あなたは、なんてひどい人なの?」
「この結婚に多くのものを、オレに期待しないでくれマリエル。妻の君はオレが騎士の仕事に集中できるように、してくれれば良い!」
「ええ、あなたの考えはよくわかりました、ギリスさん! どうぞご自由に!」
(私のささやかな夢を壊したあなたなんて、大嫌いよ―――っ! この話をしていたほんの数分の間に、私はあなたが大嫌いになったわ)
尊敬の気持ちと親愛の情をあらわし、“旦那様”と呼んでいたけど。私はあなたを尊敬する気など、すっかり失くしてしまった。
「フンッ!」
(あなたなんて、ただの“ギリス”と呼ぶことにするから!)
「おい! なんだその無礼な言いかたは……オレはお前の夫だぞ? もっと敬意をはらえ、マリエル」
カッ! 怒りで顔を赤くして、ギリス様は私を睨んだ。
「ギリスさんが妻は必要ないとおっしゃられるのなら。私との初夜も必要ありませんよね? でしたら私はこれで失礼させていただきますわ!」
座っていたベッドから飛び降りると、椅子の背にかけてあった友人に結婚祝いにと贈られた、新しいローブを羽織る。
「何だと、おい!」
「フンッ!」
(こんな寝室になんて、これ以上一瞬でもいたくないわ! この結婚は間違いだった)
くるりとギリス様に背を向けて、私はドスドスッと荒々しい足音を立てて寝室の扉へ向かった。
「おい、どこに行くんだ?」
「あなたがいない場所です!」
「フンッ! 勝手にしろ! どうせ後でオレに泣きつき、謝ることになるのはお前のほうだ」
私は屈辱に震えながら寝室を出た。
他サイト様で2年ほど前に投稿した作品ですが。
今回も大幅に加筆修正しながら投稿しているので、コチラのお話が最新の改訂版となっています。
良い暇つぶしになれば幸いです(^^)/




