19話 侵入者
執事から面談を断る意志を伝えられたにもかかわらず、ギリスさんは無断でガルフェルト侯爵邸の裏庭に侵入し。のんびりと休日を楽しんでいたセインと私の前に姿を現した。
「団長、お休みのところを申し訳ありません!」
「お前は……っ⁉」
セインは久しぶりの幸せな休日を、不愉快な休日へと変えようとしている憎らしいギリスさんを、ジロリと睨みつける。
「……ハッ!」
私も息をのみ。招かれざる客のギリスさんが突然、目の前に現れたことに緊張を隠せなかった。
「ギリス、今日は会わないと伝えたはずだ。勝手にここまで入って来るとは……無礼すぎるぞ!」
小さな子供と妻がそばにいるため、セインは大声で怒鳴りはしなかったが。静かな怒りが込められた厳しい声でギリスさんを非難する。
セインが小さな娘と私に気づかう姿をギリスさんにも見えているはずなのに。まったく配慮をすることなく、大声で怒鳴り続けた。
「ですが、団長‼ いつもあなたは忙しくて。オレが王立騎士団の執務室へ行っても、いつも留守なので。仕方なくご自宅まで会いに来ました!」
「……うぅぅぅっ…… ぅぅぅ……」
ギリスさんの大声に反応して、スヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた娘のルイーズが、セインの腕の中でビクッと震え、ぐずりだした。
怒鳴るように話すギリスさんの大声のせいで。ルイーズは夢の世界から引き戻されて、目を覚ましてしまったのだ。
「ギリス、許可なく私の自宅へ侵入し。妻と娘の前で大声をあげるとは……今すぐ騎士団に通報し、不法侵入者としてお前を連行させても良いんだぞ?」
娘の安らかな眠りを邪魔されて、激怒したセインはギリスさんに警告した。
「申し! ……ハッ! 申し訳ありません……」
ギリスさんは謝罪しようとするが。また大声を出しかけて、あわてて声をおさえて言い直す。
「セイン、ルイーズは私が……」
「すまない、マリエル」
手をのばすしてセインから娘のルイーズを受け取った。
「さぁ、ルイーズ。お母様のところへいらっしゃい。……ああ、かわいそうに。気持ち良く眠っていたのに、驚いて目が覚めてしまったのね?」
目覚めてグズる娘を抱き上げると。私は娘の眠りをもう一度誘うように穏やかに声をかけ、身体を呼吸に合わせてゆらゆらと揺らした。
「もう一度……ねんね、しましょうねぇ。ルイーズ……?」
娘のルイーズはすぐにグズるのを止めて、ふたたびスヤスヤと気持ちの良さそうな夢の世界へと戻って行く。
「おやおや。私の娘は、もう眠ってしまったのかな?」
「ええ……この子は、おっとりとした穏やかな子ですからね……」
セインはあまりの可愛さに頬をゆるめ、娘の髪にキスをしてから。私の唇にも軽くキスをする。
私はチラリと横目で見てギリスさんを観察した。
幸せそうな私たちの様子を無断で侵入したギリスさんは、羨ましそうにぼんやりと見つめていた。
少し前に近衛騎士をクビになったと、セインから聞いたけど。あのギリスさんの必死さを見ると、何か頼み事があって来たのだろうと予想がついた。
(──あの時……ギリスさんと結婚して初夜を迎えようとした時。怒りに任せて強引にモリダール家を飛び出したけど。これで私の判断が正しかったと証明されたわね)
私にしては大胆で、過激と言っても良いぐらいの行動だったけれど。
どちらにしても、ギリスさんと離婚を決意するのは時間の問題だっただろう。
あのままギリスさんと結婚生活を続けていたら。あの傲慢で自分勝手な人が騎士団を辞めた後まで、私の生活の保証をしてくれるとは思えないから。
私はやれやれ……と首を横に振って。ギリスさんに背中を向けた。




