14話 苦肉の策?2
王立騎士団の騎士たちを、自他ともに認める厳格さで統率する有能な副団長。セイン・ガルフェルト侯爵の普段の姿からは程遠い不器用さで、私はマリエルに求婚をした。
「マ、マリエル……君をどこにも行かせたくない。タムワース男爵家を出てどこかへ行くなら、私の元に来て欲しい」
「セイン様?」
「…………妻となって」
カァッ! ……と、言葉を一つ紡ぐごとに顔がどんどん熱くなる。騎士服の下はじっとりと嫌な汗をかいている。
(昨夜も屋敷に帰れなかったから。マリエルが汗臭くなければ良いが…)
もっと心に余裕があり、前もって準備をする時間があったなら。
今よりもずっと洗練された言葉を選び、贈り物と美しい大輪の赤い薔薇を用意して。……それに相応しい場所と服装を整えてから、じっくりマリエルに求婚したことだろう。
「マリエル……」
ふわりと頬をバラ色に染めて、私の求婚に驚くマリエルの小さな手を取ろうと腕をのばすと。
上着から出た白いシャツの袖に、見苦しい青インクの染みを見つけてギョッとする。
(私は子供か⁉)
焦った私はマリエルの手を取るのは止めて、上着の袖を引っぱり下ろしてベッタリと付いた青インクの染みを隠した。
ここへ来る前。
マリエルの手紙を執務室で受け取り、急いで内容を確認しようとして、袖にインク瓶を引っ掛けたが、そのまま放置して出て来た。
執務机は青インクに浸食され真っ青に染まった報告書は、恐らく全部書き直しだろう。
シャツの袖までインクが浸食していることまで、私は急ぐあまりに気付かなかった。何もかもグダグダだ。
(たとえ服がグダグダで格好が悪くても。始めたからには最後まで、やり通さなければ!)
「妻……ですか? セイン様の? でも侯爵様のセイン様と男爵の娘の私では、大きな身分の差という問題が……」
顔をまっ赤にして、私の求婚に反応するマリエルに。私は自分の言葉に力を込めて、マリエルが心配する問題をはっきりと否定した。
「それなら、一度結婚に失敗して離婚歴のある私の方が、ずっと問題がある。年も君より一四歳も上だし。身分の差など気にならないほど、マリエルよりも私の方がはるかに条件が悪い」
「で……でも、セイン様は……」
「……」
ジッ……と私がマリエルを見つめていると。
「セ……セイン様が、私と白い結婚を考えておられるのなら……お断りします!」
「マリエル……」
(ああ、やっぱりダメかぁ―――っ………?)
私は大きく落胆し、ガックリと肩を落として下をむくと……続けてマリエルが告白した。
「私はセインさまの子どもが欲しいのです」
「……んんっ⁉」
(今……マリエルは何と言った? 私の聞き間違いだろうか)
一瞬、自分の耳が信じられず。パッ! と顔を上げて、マリエルを見た。
「/////////…っ」
マリエルはさらに顔を赤くして、下をむく。
上から見下ろすと。うつむくマリエルの細いうなじや耳まで、真っ赤に染まっている。
「……私の子?」
「はい、セインさまの子どもを産みたいのですっ!」
マリエルは勇気をふり絞って、最大限の愛の告白をした。
「……っ」
マリエルの告白を聞き、私の全身は燃えるように熱くなる。
「セイン様……?」
「マ……マリエル! 君が望むなら……君の…希望をできるかぎり、私は叶えるつもりだ! それが夫の仕事だからね」
「本当ですか? 白い結婚ではないのですか?!」
「本当だ、約束する!」
(マリエルが望めば、白い結婚を貫くことになっても、受け入れるつもりだったが。望まないのなら私もその方が良い)
私は熱い顔で、コクッ、コクッ、とマリエルにうなずく。
「セイン様!」
「うおぉっ…?!!」
ギュウゥゥゥッ……!! とマリエルに抱き付かれ、私はあわあわと振り回した。
「マ、マリエルは本当にそれで良いのか?」
「はい! そうなれば良いと。初めてセイン様とお会いした時から、思っておりましたから!」
「はっ…… マリエル!!」
(今……私は夢を見ているのか? こんな幸運はやっぱり私の妄想だろうか⁉ いったい何がおきているんだ。奇跡なのか⁉ 私に奇跡がおきているのか⁉
自分の目も耳も、まったく信じられない。
私は迷ったあげく、試しにマリエルの唇にキスをしてみた。
マリエルは頬を染め、うっとりと私を見上げている。
私の体温はさらに上昇した。




