13話 苦肉の策?
マリエルから手紙を受け取り、私は慌てて神殿へかけつけた。
「マリエル、就職先の候補を決めたと手紙には書いてあったが……本気なのか?」
「はい、セイン様。そのつもりです」
「うう~ん……」
(どうやってマリエルを引き止めようか。一体どうすれば良い? クソッ! 良い考えが、何も浮かばないぞ!)
前回、マリエルが自立するために働きに出ると言った時は。私が結婚相手を見つけることで引き止めることができたが。
その結婚相手にギリスという不適格な男を紹介するという、致命的なミスを犯したから…… 私の発言力は地に落ちた状態だ。困った。
私は眉間に深いしわをよせて必死で考えたが。やっぱり何も浮かばない。
「それで……セイン様。私は商人をされているソリフル家か、ウィチボールド伯爵家で働きたいと思っているのですが。セイン様はご当主や奥様の人柄をご存知ですか?」
確かにマリエルから届いた手紙にも、そう書いてあったが。……当然、私はどちらの家も反対だ。
マリエルが苦労するとわかっているのに、黙って行かせたくない。
(だが、質問に答えてやらないと、マリエルも納得しないだろう)
「ソ、ソリフル家……あそこは絶対にダメだ! 報酬が大きいから選んだのだろう?」
「はい」
「ソリフル家の当主は女ぐせが悪い! それでよく女性の使用人が入れ替わるんだ! 特にマリエルのような美人は、屋敷に入ったとたん愛人にされてしまうぞ」
(危ない、危ない! やっぱり気持ちを変えさせないと、あまりにも危険すぎる!)
「え⁉ わ、わかりました! ソリフル家は除外します」
「ああ、そうしなさい」
(ああ、心配だ!! クソッ!)
私の眉間のしわが、さらに深くなった。
「もう一つのウィチボールド伯爵家は、どんなご家族ですか?」
「悪いうわさは、聞いたことはない。……だが、私が知らないだけかもしれない」
「王立騎士団の副団長の、セイン様がですか?」
「う~ん……」
(確かウィチボールド伯爵は私が学園生時代の知り合いで、真面目な人柄だったはずだが。でも……だめだ! マリエルをこのまま、行かせるなんて!! どうすれば良い! どうすれば……)
拳をにぎり、私はグッ……と歯をくいしばり、知恵を絞った。
「セイン様…?」
追いつめられた私は不意に思いついた。
「……マリエル。君がどうしても働きたいと言うのなら……うちはどうだろう?」
「うち⁉ セイン様のおうちですか? でも、ガブリエルには信頼できる、家庭教師がついているでしょう?」
あくまでもマリエルは家庭教師の職をさがしている。だが私が考えた代案は──
ゴクリッ……と唾をのみこみ。乾いた唇をペロリとなめてから私は慎重に答えた。
「つまりだ……マリエル。つまりだな……私のそばで……妻として働いて欲しいとだな」
(うう、クソッ! これではギリスと同じだ。自分が恥かしい!)
だが私の目が届かない場所で、マリエルを苦労させるぐらいなら。……たぶん、好きな男がいると言っていたから、きっと断られるだろう。
(……それでも、言わずにはいられない!)
ギリギリで思いついた、苦肉の策だが……マリエルから愛する男がいると聞き。年甲斐もなく私は嫉妬心がふつふつと湧き。
マリエルの思い人に負けたくないと、張り合う気持ちが少なからずあった。




