12話 初恋の人
セイン様への手紙を書きながら、出会った頃のことを思い出すと……自然と笑が零れる。
一五歳の時に初めて会ったその日から、セイン様は私のことを子供扱いしなかった。一人の女性として扱ってくれた。
そんなセイン様だからこそ、私は恋をした。
「ふふふ……」
(だからセイン様の前でだけ、私は素敵な淑女になれる気がするの)
本当はセイン様が礼儀正しくて高潔な騎士だから、私を淑女として扱ってくれただけだとわかっているけれど。
一人の女性として扱ってくれても。セイン様に私の恋心のような、特別な感情があるわけでは無いことも理解している。
(それでも嬉しかった。いつも嬉しかった)
セイン様への手紙を書き終え、変なところは無いかじっくりと見直す。
神官長様が教えてくれた就職先を厳選し、私は候補先を二つ選んだ。
※家庭教師の場合、その家に住み込みで働くことになる。
候補先の名前を手紙に書いてセイン様に報告する。
騎士という職業柄、セイン様は王都に住む貴族たちについて詳しいから。私は助言が欲しいとお願いするつもりだ。
そしてセイン様の助言を参考にして、どの家に働きに行くかを、決めようと思う。
「きっとセイン様も、お父さまと同じように。私が自立することを反対するのでしょうね」
(それでも私が選んだ就職先の候補が、どんな人たちかたずねたら、セイン様ならきっと丁寧に教えてくれるはずだわ)
──セイン様はそう言う人だから。
「ふふっ」
出来れば直接、王立騎士団の本部までセイン様に私が会いに行ければ良いのだけど。あそこには、ギリスさんもいるから、行きたくない。
それにセイン様はとてもお忙しいかただから、迷惑になっても嫌だし。
「私もセイン様に会えば、きっと辛くなるでしょうね……」
(このまま、なるべく会わない方が、良いのよ)
『ずっとあなたを愛していました。さようなら』
……と本音では言いたいけれど。でも、最後まで愛の告白はしないと決めている。
「いざ、会えないとなると寂しいわ。今までだって、たくさん会っていたわけでは無いのに。……私ったら、おかしいわ」
息子のガブリエルは今も弟たちに会いに来るから、週に一度は会っているけれど。
父親のセイン様の方は、最近は騎士団のお仕事が忙しいらしくて。滅多に会うことが出来なくなった。
「……私が住み込みで働くようになれば。増々セイン様との距離が開いて、そのうち疎遠になって行くのでしょうね……」
ジワリと目が熱くなり。私は涙がこぼれ落ちる前に指先でぬぐう。
「もう、嫌だわ! 本当に困ったわ。ふふふ……」
ふと、目を閉じると脳裏にセイン様の凛々しい姿が浮かんだ。
王立騎士団の金糸の刺繍が入ったロイヤルブルーの騎士服。
見上げるほど大きな背中。
ギュッと引き締まった逞しい腰には、ガルフェルト侯爵家の紋章が刻まれた剣を下げている。
そんなセイン様を思い出すたびに、きっと今のように涙があふれるのだろうと……私は苦笑いを浮かべた。




