11話 ギリスの移籍
以前からギリスが希望していた近衛騎士団(セインの古巣)へ移籍できるよう、私は王立騎士団の副団長として推薦状を出した。
それが通り正式にギリスは近衛騎士団への移動が決まった。
「ありがとうございます、副団長!」
「礼を言うのは、まだ早いぞギリス」
「いいえ、副団長が推薦してくれただけでも、感謝しています!」
「そうか」
少し前まで私に不貞腐れた態度を見せていたギリスが、満面の笑を浮かべて私に握手を求めて来た。
私は内心の嫌悪感を隠し、求めに応じてギリスの手を握った。
「お前がそうやって喜んでいられるのも、今のうちだけかもしれないぞ。本当に良いのか?」
ギリスは近衛騎士団へ行くのは大出世だと喜んでいるが。私の本音はギリスの顔を、毎日見るのが嫌だったから近衛騎士団に推薦した。
──つまり王立騎士団から、ギリスを追い出すのが目的だった。
「ギリス、何度も言うが。私が知る限り、お前に近衛騎士団は不向きな場所だ。今までのように気楽にやれるとは思うなよ。本当に良いのか?」
(今まで、可愛がって育ててきたやつだから。一応、忠告だけはしてやろう。だが私は、これ以上お前の面倒を見る気はない)
「当然です! 副団長が推薦してくれるなら、喜んで行きます!」
「お前にそこまでの自信があるのなら、二度と王立騎士団には戻って来るなよ。お前には戻る場所はないと、覚悟して行け。良いな、ギリス?」
近衛に移籍したら文字通り二度と、王立騎士団にギリスを受け入れないという私の意志表示だが。
どうやらギリスは、自分への叱咤激励だと勘違いしているようだ。
「もちろんそのつもりです、副団長! 戻る気などありませんし、戻れと言われても王立騎士団には戻らないとお約束します!」
「ギリス、今のその言葉を忘れるな!」
「はい!」
「……」
(これは私の一方的な八つ当たりだと、わかってはいるが……お前はマリエルを傷つけた。それがどうしても許せない。お前は目障りなんだよギリス! だから二度とここには戻って来るな)
「王族や外国からの賓客を警護する、近衛騎士団は王国の騎士団の中でも花形だが。お前が思っているよりも特殊な騎士団だ。そうやって目立つぶん、特別な気づかいを要求される」
「はい、理解しています」
「そうか、なら私は他に言うことは無い。下がって良いぞ、ギリス」
(……いや、ギリス。お前は何もわかっていないさ)
私が王立騎士団の団長候補に指名され。ようやく近衛騎士団を辞められると知った時は……どれほど喜んだことか。
近衛騎士団の煌びやかな見掛けに惑わされているお前は、そのことを知ろうともしない。
(これからお前が世話をする王族という人種は、この王国でもっとも我がままな奴らのことだと。お前はまだ、理解していない)
近衛騎士団で一番、重要視される能力は……剣の技や有能さではない。忍耐力なのだ。
王族の警護につくことが、どれだけ忍耐が必要になるのか。想像力が足りないギリスには予想もつかないだろう。
「今までお世話になりました、副団長!」
「ああ、精々頑張ると良い。推薦した私の顔を潰すような、無様な真似だけはするなよ」
「はい、肝に銘じます」
(プライドの高いお前は、近衛に行けばアッという間にボロボロにされるはずだ。……だが、その道をお前自身が望んで選んだのだから。後悔は無いはずだ)
執務室を出て行く、ギリスの後ろ姿を眺めながら。ついつい私は、意地の悪いことを考えてしまった。




