馬車と睡魔はお友達
あの後僕達は、おじさんと一緒に食べられる雑草を摘みまくった後、おじさんにパンと雑草の炒め物を振舞ってもらって、焚火を囲んでみんなで食事を楽しんだ。
空腹は最高のスパイスだったかソースだったか。今まで食べたことのないレベルでカッチカチのパンも、塩で味付けされただけの雑草の炒め物も、涙が出そうなくらいに美味しく感じた。きっと今日のこの一食を僕は一生覚えていることだろう。
……おじさんの名誉の為に少し補足するなら。アク抜きらしき下準備を行っていたからか、雑草の炒め物は普通に食べていても結構美味しかったと思う。ミューさんも結構な量を食べていたように見えたし。
パンの味についてはノーコメントでお願いします。
「ご飯をご馳走になった上に馬車まで。本当に良いんですか?」
「何言ってるんだい。夜のこんな場所に、若者を置いて行くことなんてできないよ。それも命の恩人を、だなんてね」
「ありがとうございます……!」
「ははは、気にしないで。……護衛が増えて寧ろありがたいまであるし……」
そしておじさんは幸いにも僕達と同じ目的地に向かっていたらしく、このまま夜も走るということで、僕達を馬車に乗せていってくれることになった。
案外月明かりが明るいからか、馬車の灯りは点けずに走るのだとか。
そういえばこの世界にも月はあるんだね。
ミューさんがニッコニコで受け答えをしてくれている間に、僕は馬車の中に積まれていた木箱をいい感じに端に寄せて、スペースを作り。そこに僕とミューさんが隣り合って座る。
……あ、ミューさんにちょっと隙間を空けられた。すみません。
おじさんが堂々とカッコイイことを言ったかと思えば、その後に若干気まずそうな声音と共に情けない言葉が聞こえたのは。聞かなかったことにしてあげた方が良いのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えていると、おじさんが手綱を操ったと同時に、馬車がゆっくりと動き出した。
「頼むよ、エリー!」
エリーというのは馬の名前なのだろう。
おじさんの背中越しに、馬車を引くエリーさんの姿を眺める。
道の凸凹の上を通る度に、がたんがたんと馬車が揺れる。日本で乗れるような車に比べれば、お世辞にも乗り心地は良くないけれど。ここまで3日間毎日毎日歩きっぱなしだったのに比べれば、ただ座っているだけでいい、という時点でこれ以上の幸せはない。
馬車の端に寄せた木箱に、背もたれ代わりに身を預けてみる。
……緊張が解けたからか、ここまでの疲れが一気に来たらしい。身体が重い、ねむい。
流石に眠ってしまうのは良くない、何か考えよう……
「この調子なら日が昇る頃には着くかな」
「本当に助かりました。徒歩ならもう少しかかってたでしょうし」
がたん、がこん。
ミューさんは「善意だとかを期待できるような世界じゃない」と言っていたけれど、果たしてそれは本当なのだろうか。
この世界に来て3日目の超ルーキーな僕と、この世界に生まれ育った彼女とじゃあ、彼女の方がこの世界のことをよく知っているのは当然のことだけれど。少なくとも僕には、このおじさんにこちらを陥れようとする意思があるようにはとても見えないのだ。
もしかしたら僕の目が間違っているだけかもしれないし。このおじさんがたまたまお人好しなだけで、平均的な大人の皆様はそうでもないのかもしれないのだけれど。
火刑の時に石を投げられたことを思えば、後者がよりそれらしい、か……?
がこ、がたん。座席から腰がちょっとはねた。
どがっ!
「!?」
「わあっ!」
大きな揺れと共に馬車が急停止。目が覚めた。
危なかった、危うく寝る所だった。
「二人とも大丈夫かい?」
「こちらはなんとも」
「石に引っ掛けてしまったのかな……ちょっと待っていてもらえるかい、すまないね」
窓に視線を傾けて、外の景色を見る……前に進んでいないのだから何も変わらない。当たり前だ。なんなら前に進んでいる間もほとんど変わらないんだけども。
おじさんが馬車から降りて、車輪のあたりを確認したかと思うと、エリーさんの方に近寄って、彼……名前的に彼女っぽい?の頭を撫でているのが見えた。
「一応こっちもやっておこう────エリー。脚の方、触るよ」
「【治癒】」
おじさんがエリーさんの頭を撫でる手を首、背中、そして脚へと滑らせていき、最後に何か呟いたかと思うと。緑っぽい光が彼女の足元を照らした。
ヒール……ゲームだと回復魔法とかそういうのかな。気のせいかもしれないが、なんだかエリーさんがさっきより元気そうに見える。
ヒヒン!と鳴いたエリーさんの頭をおじさんがまたひと撫でしては、運転席に戻ってきた。
「待たせたね──、────う大丈夫なはずだよ」
「いえ──、────」
再びゆっくりと馬車が動きだす。
……仮面のせいで外見は怪しい人ではあるけれど。やっぱり僕には、この人は悪い人には見えないや。
なんなら今悪意を持っているのはどちらか、と問われればそれはきっと僕達の方だ。下心を持って助けに行った訳だし、自分達の身分もだましているのだから。
「──────、──?」
「────」
おじさんを助けるまでの一連の流れについての後ろめたささえ無ければ、料理をごちそうになったあのときにも、もっと心置き無くいっぱい食べられたのだろうか。ミューさんはどんな気持ちでたべていたんだろう……
……眠気をごまかそうと目をこすったり、なんどか強めにまばたきをしたり──────
まぶたがおもい、…………
「──────?」
…………




