04
皆の評価が低評価だ。いずれ表舞台から早めに消えてしまう定めなのかもしれない。ああいうのは見限られたら一瞬なのだ。
聖女になって祖国の王は今頃鼻たかだかだろうと思っていたが、彼女が祖国と縁を切っており恩恵はない。
本人が嫌がっているのだから、繋がる再起の芽はないので実家に再三連絡を取れと言っているが、王命で養子として縁を切らされたので無理ですと言い切っている。
押し切れないわけではない。縁は切ったように見せて、今も豊穣の魔法を実家にかけているので、不幸になる予感は一切ない。
今も家族を思っていて、本気で会いたいなら会えるように制度は整っている。
手紙もやりとりしていて、帝国の居心地もいいとかなり気に入っている。
「責任を取ってっていうのなら、普通は二人を婚姻させるわよね?矛盾してない?」
「それがですね、お姉様。彼女、彼を捨てたのです。当主になることが取りやめになったら、海の満ち引きよりもサァッと」
満ち引きよりも早いなら、令息も追いかけるのは無理だったろうな。
「それでも、無理矢理婚姻が責任の取り方ではないの?それに、相思相愛だったはずだけれど」
すごく仲睦ましくて、ところ構わず手を繋いでいたのに。
「それが……ね?」
夫が意味ありげにいう。彼女も困ったように目を閉じた。
「ここ、読んでみて」
「ん?……令息の補佐をする分家の側近と……恋に落ちた???」
嘘でしょう、一年も立たないうちに二度目の真実の愛が成立した。誰か真実という言葉を辞書で引いて彼らに突きつけてやってほしい。
分家男子と真実の愛を育むとなれば、今まで付き合った子は無用な代物と化す。
当主として外されること、一年足らずで退学か中退をする男の子。うーん、控え目に言って不良債権というか不良在庫。恋に恋しているからこそ、切り捨てるのは早い。目が覚めたのか、はたまた熱量に差があったのか。自分から見ても、彼女は確実に恋をしていたけれど?
周りも両親も許さないかと思ったけれど、子息の方の親はホッとして領地に下がらせた。
王が無体な命令をする前に、籍を殆ど抜くというか、別の家の養子にして再び家に養子として引き取った。
回りくどいことをしたのは、王のやり方の軽さを貴族たち全てが見たからだなとわかる。
いくらなんでも、被害者の男爵令嬢に王として詫びも気遣いもせずに、気に入られたからと差し出した。
考えなくても傷心で他国へ留学したと世間は認識して、王族も王も学園での国立学園の不祥事なのに。
国立の意味を、辞書で引いてきなさい。とまあ、そんなわけで被害者令嬢にムチをさらに打った王というレッテル。
「残された浮気相手の令嬢は王命に近いもので、二度目の愛の相手と結婚をしているのね」
紅茶を飲む。落ち着かないと。
「あとは、浮上することもない、王宮で仕事があるわけでもないから、なにか特筆した内容はないらしい。ここで終わりだ」
「罰らしい罰は与えられてないわね」
「お姉様ったら。お優しい」
褒められたけれど、褒める内容がおかしい。どんな顔をすればいいのか。笑えばいいのか、笑わない方がいいのか。
報告書は確かにそこでおわっているけれど、まだ続きがありそうだ。
聖女筆頭候補もなにか知っていそうだが、より知っていそうな夫に目を向けた。
しかし、彼は何か知っていても教えてくれはしないだろう。
残念ながら。なんせ、彼はこちらを危険な目に遭わせようとは思っておらず、安全なところから離れさせておきたい人なのだ。わかるけどそれでも教えて欲しい。
なんだか、釈然としない。どうしてだろう。自分だけ除け者だから?
先を知りたいと思うことは罪ではないし、在学中のことなので遠い無関係なことではない。結末を知りたいのだ。
二人は元留学生を見て、フフフと笑う。微笑ましい顔をして。そんなことでは、こっちも誤魔化されやしないんだから。
むくれそうになる気持ちで睨みつけるフリをしていると、彼らは仕方ないなと目配せをする。
目線で会話していないで、人類の武器の口というものを使って欲しいのだが?
腕を組んで(さぁ、言いなさい!)と二人に胸を張りふんぞり返る女。その仕草は愛らしいのではないかとまた二人は忍び笑いをするけれど、やってる本人はそのことに気づかない。
やはりまた可愛いわ、かわいいねと目で会話すらしなくなった。その間に一人が説明していく。考えつつも頭を回転させる器用さは周りの学者に驚かれるほどだ。
「はい。実は聖女の力に値段表を作りまして」
将来の聖女が、分厚く作られた固いメニュー表を頬を染めて、渡してくる。頬を染める箇所などない内容だが?
首を傾げながら、メニュー表の中身を拝見していく。まだ正式にも世間的にも筆頭候補だからこそ、メニュー表などが許されるのだよと、婚約者だった、今は結婚した相手に進化した彼が付け加える。
今のうちにお金を搾り取れるだけ搾り取りたいという願いにより、帝国から受理され済みらしい。中身の値段は聖女ではなかった。どこにも慈悲がない。
「高くないかしら!?」
こんなの払う前に、身を破滅させそうな内容だ。危機を覚えて彼女を見遣るけど。ふふふ、と笑う。
「これは祖国の貴族用です。さらにいうと、細かく王侯貴族、私を中傷したと調べて把握した家などにかなり細かく、細部に渡り値段を上げに上げているのですよ。これは真ん中くらいです」
渡されたメニュー表の表紙を見ると、高位貴族の分家にあたる、高位ではないが権威は高位に寄っている貴族。
この家の次女が、在籍中に男爵家へわざわざ婚約者の仲睦まじい浮気の情景を、詩にして送ってきたのだという。
「え、被害がもう出ていたの?」
驚き、怒り、悲しみが帝国夫人に襲いかかる。メニュー表の値段を見てまなじりを釣り上げる。
「この値段、低くないかしら?」
据わった瞳で意見を言う。




