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けれど、だからといってここまでは考えに及ばず。
「あなたが聖女候補なのは、初耳なんだけど」
好物のチョコケーキのフォークを置いて、彼女へ問いかけるときょとんとした顔で首を傾げる。
「そうなのですか?家族は皆知ってましたもので、皆様もご勝手に調べて知っているとばかり」
「いや?私は知らないし、王も知らないし、元婚約者だって知らなかったわよね?」
婚約者だった、今は結婚して夫となった男に目を向けると肩を緩くあげた。癪に障るからやめろ。
「子爵に援助ができるくらい安定して領地を豊穣させられる使い手だよ?僕は知ってるし皇帝ももちろん」
「私がどこにも見当たらないわ」
責めるように告げると、ふふふと男爵令嬢が、今は養女となった聖女候補が笑う。
「お父様は元より、帝国に保護していただく予定だったらしいのですが、隣領が具合を悪くして、元婚約者のご両親に頼まれて期限付きの婚約を条件にしていたのですが、期限よりも早く契約違反を当人の息子がやらかしたので。このままだと、がんじがらめになると教えてくださったお二人には、感謝しております」
ぺこりと男爵令嬢とは思えない綺麗な作法で頭を下げる女性。いやいやと首を振る。
「聖女の自覚があったから、困ってたのかしら?」
「はい。ツテもないので。自国の王の耳に入れば王子を宛てがわれそうでしたし。ほら、彼の方って、流されやすいというか、目先しか見ていませんでしょう?」
めちゃくちゃ王の悪口言ってる。でも、言いたくなる気持ちは激しくわかった。彼女の人生は振り回されてばかり。
女傑に気に入られても、即日人身御供並みに身を差し出させる王が用意するものなんて、粗悪すぎて胃もたれが起こりそうだもん。
「まあ、妃にでもしそうね」
顎に手を当てて、ゾッとするような未来を思う。うんうんと二人も頷いていることから、王子よりも自分のものにしようとしそうだと皆、思っているわけだ。
そうよね、と同じく目が痛くなりそう。ケーキを再度食べる。糖分を取らないと、頭が痛くなりそうだから。
「だから、帝国に早く逃げられて本当に感謝しているんです」
目を潤ませる彼女に抱きしめたくなる魔性が、手首をうずうずさせる。
「元婚約者たちについて、一応ちょっと覚えておいたから気になってるから、教えて」
もう色々知ってるんだろう夫に、フォークを突きつけた。
手をあげて、ヒラヒラさせてから魔法を使ったのか、執務室辺りから何枚かの紙が舞う。
「これだよ」
「持ってたのなら、教えてくれたらよかったのに」
「今教えたけれどね」
「寝ている時にポーションを一滴鼻に垂らすわよ」
相変わらずな屁理屈に、ムッとなりながら読み込む。元男爵令嬢聖女はすでに中身を知り得ているのか、興味がない顔をしている。
知らなかったのは自分だけなのが、なんだか蚊帳の外で嫌だ。遅れたくないと内容を確認。
「予測通り中退。理由は成績不振と交友不純による処罰……いままで、この理由で辞めさせられることなんてあったのね?」
「不名誉中退だ。貴族としては完全に終わってるよ。恥晒しというか、見せしめだろう」
「見て見ぬ振りして、子供に全て被せたの?」
いくら、浮気をした方が悪いと言っても、彼らを応援した彼らにお咎めなしなのは、流石に納得がいかないような。イライラする。
「ああ、また血圧が上がる。いけないよ」
旦那が紅茶を勧める。
「続きに書いてあると思うけど、彼女が聖女候補……養女になった時点で煽った人たちの家に、不利益を被せたことはしっかり覚えてるよ、といった抗議を送ってある。聖女になるかもしれない女性に、少しの汚点もいらないという養子先の、あの方の意向だ」
男爵令嬢から養子として目をかけられた理由の当主が、気合いを入れて皇帝と共にがっちり囲い込んだらしい。
なんだかなぁと思う。自分が先にファンになったのに。
「お姉様には先輩聖女としての恩もありますし、私を助けてくださったという慕う気持ちもあります。わかっておりますよ」
慰めるようにチョコケーキの大きい飾りを、さりげなくくれる彼女からのチョコをもそもそ食べて、笑う。
皆、よくチョコをくれる。好きなのを知っている人は必ずというほど上に載るものをわざわざ分けてくれるのだ。
「ありがとう。美味しいわ」
「お姉様は変わらずお可愛らしい。帝国に来たかった理由が聖女よりもお姉様がいるから、というのが大きいのです」
頬を染める二人の女性。帝国に元より生まれた妻の顔を見てから、聖女候補を見た男。
他国へ留学してきた今は祖国に戻っている女も、そもそも聖女候補ではあるが、力が弱く候補にすら上がらない。
しかし、そんな人間は帝国にゴロゴロいるので特別なものではなかった。だからこそ、他国に留学が許されたのだが。
それなのに、かなり強い聖女を連れてきたという大きな功績を得てしまい、直々に皇帝から褒められた。
褒められても嬉しくなかった。単に嫌な気持ちになったからどうにかしたかったのに、婚約者に先を済まされたから、何かした気もない。
だが、皆は知っている。
聖女筆頭候補が帝国にい続けているのは、留学先から助けられたと知り人柄が好ましいと思われたからだと。
「あ、恋愛関係の子爵令嬢は、相手の男の子をおいかけるのかと思いきや、別の人と結婚してる」
照れながら再び用紙を読んで、内容に目を開く。
男の子の方は領地で長男として弟に当主の座を譲って細々と暮らしているから、結婚は許されやすい。なのに、片割れが別の人と結ばれている。
「王がまた令嬢だけに責任を押し付けたんだよ。あそこの王は本当に、責任を取らないのが好きだから」
呆れてものが言えないと顔が、半目で終わっている。




