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死にかけ女と猫のぬいぐるみ  作者: 明星 志
第4章 犠牲の灰
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レグラドの領地

※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています

 食器を片付けてもらった後、キュスト隊長はテーブルに地図を広げた。


「では、本題だ。この作戦を成功させるためにも、お前に説明することがある」


 あくまでも朝食はおまけのようだった。


 今回の大規模制圧戦は、ラニゴの住む草原周辺の禁足地ではなく、さらに北東にあるレグラドという土地にある砦の周辺。


「レグラドは、かつては農作物が良く実る肥沃な土地だった。元々は古ヨーンの末裔たちの自治領の1つで、ほんのひと昔前まではロジオン公国の領地になっていた」


「じゃあ、それを後からギンナザムが?」

「あぁ。戦で勝ち取り、近接するヨーン市の一部として我が国に統合した。今でもロジオン公国が築いた砦跡(とりであと)の近くに集落がある」

「集落……、ということは、そこで暮らす人たちがいるんですよね?」


 当たり前の事なんだけど、確認せずにはいられなかった。


「……もちろんだ」


 ロジオン公国の狙いは、古ヨーンの末裔を焚きつけて、その豊かな土地を奪還することなのだろうか。


「レグラドがまだロジオンの支配下にあった時、当時の領主はそこで()()()()を企て、実行していた」

「……末裔の虐殺、ですか?」

「いや……。メーニスの血筋を増やすため、彼らを監禁して子を作ることを強要したんだ」


 え……?


「どういうことですか」

「どうもこうも、言った通りだ。レグラドに連れて行かれたメーニスたちは、まるで家畜のように扱われた」

「な……」

「昔、ロジオン国内の内戦が自国のメーニスの血を根絶させたことは知っているか?」

「えぇ……、叔父上から聞きました」

「ロジオン公国は、国外の各地で暮らしていたメーニスの血を引く者を〝恒久的に保護し、暮らしを保証する〟という誘い文句でかき集めた。だが……実際には拉致された者も多かった」


 ……騙して連れてこられた上に、そんなことをさせるなんて。


「奴らの愚行は、レグラドに住んでいた末裔たちによって偶然明るみに出た。そして囚われたメーニスを解放するためにギンナザムに協力を求めて来たんだ。我々はメーニスの奪還のためにレグラドを総攻撃し、ロジオンの馬鹿どもを一掃した」

「総攻撃……」

「あぁ。その時のギンナザム側の被害も酷いものだった。そして、レグラドにいたロジオンの領主は、撤退する時に砦だけでなく近隣の農村や畑にまで火を放った」

「そんな……」


 それじゃ、末裔たちもロジオンの被害者だ。


「ロジオンは、その火災をヨーンの魔導士たちの仕業だと主張している」


 ロジオンは、どこまで卑劣なのだろう。


「今のロジオン公国は、かつてのレグラドの領地全てを末裔に返還すべきだと主張し、末裔の後ろ盾に回っている」

「なんですか、その身勝手な主張」

「あの総攻撃がもとでレグラドが焼け野原になったのは間違いない。その上、我々の遺跡調査のことも含めてギンナザムに遺恨もある。奴ら(ロジオン)はそれも理解した上で末裔達を煽っているんだ。虫唾(むしず)が走る連中だよ」


 聞けば聞くほど、メーニスも末裔たちもロジオンに翻弄(ほんろう)されているようにしか見えないのだけど、どうにか平和に解決できないものなのだろうか。


「砦に攻め込んだ時、ほとんどのメーニス達はロジオン本国へと連れ去られ、今も行方知れずだ。だが、ハレイズだけは……、砦で遺体で発見された」

「え?」

「……助け出す直前に、突入隊の目の前で末裔に殺害されたらしい」

「そんな……」


 レイリーさんのお母様が、拉致の被害者だったなんて。


「その末裔はすぐさまその場で切り捨てられたそうだが……。ピルーコにとって、それが初陣でな。……レイリーに、ハレイズを見つけて必ず連れ帰ると約束していた」

「そうだったんですか……」

「我々は、今回の拉致事件について重く見ている。治癒士の拉致はピルーコにとっては宿怨そのものだ」


 15年もの間、抱き続けた怨み……。


「もし、あの時に末裔がギンナザムに協力要請をしなかったら、ハレイズは今でも生きていたかもしれんと――」

「いえ……。生きていたとしても、穢された尊厳を背負ったままでは、もっと辛かったかもしれません」


 ……レイリーさんはお母様を失い、大切な人と幸せになる未来をも奪われたなんて。

 これが、彼女が末裔を好きになれないという一番の理由なのだろう。

 でも、違和感がある。

 どうしてハレイズさんだけが殺されたのか。


「あの、ハレイズさんは、本当に末裔に殺されたんですか?」


 (ナズナ)は部外者だからそう思えるのだろうか。それともエリムレアが末裔だからそう思えてしまうのだろうか。


 他にも過去からの因縁があるから、ヨーンの人たちは末裔に対して感情的になるのかもしれないけど……。


「説明の手間が省けた。俺もピルーコもお前と同じ意見だ。その時の状況は何一つ詳細な報告書がない」

「え?」

「しかし当時、レグラドを取り戻したかった末裔の仕組んだことだとして公に発表されている」

「ひょっとして、ハレイズさんの殺害はでっちあげの可能性も?」

「……15年前の総攻撃については、俺たちはもっと計略を練るべきだったと思っている」


 生きていたとしても、辱められた事実は無くならないけれど……もっとうまく奪還できる方法があったのなら良かったのに。


「あ……だから、今回は――」

「ああ。今度こそ被害者を奪還し、首謀者を捕えて見せる。そのための()()()()()()だ」


 この後の軍議で一体どんな話をするのだろうか。


「砦付近の集落にいた末裔たちは、あの場所を忌み地としてほとんどが出て行ってしまった。今、北東の禁足地やあの集落に居るのは各地から集まった反ヨーンの過激派だ」


 過激派か……。過去にキュスト隊長がディプリミスを食らってしまったほどだ。本当に強者揃いなのだろう。


「奴らの対処については俺達に任せて、お前はお前にしかできないことに集中してくれ。詳しくはピルーコから話があるだろう」

「分かりました」

新しい用語が出てきたので整理しておきます!


・ロジオン公国→ヨーン市街地から北東にある禁足地よりさらに北東の国家

・レグラド→ヨーン市街地の北東、ロジオンとの間にある土地。元々は古ヨーンの末裔たちの自治領だった場所


・ハレイズ→レイリーの母親

・ヨギナム→元正規軍の治癒士で、アイリスの育ての親

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