優しい時間
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
「俺も冒険者上がりだ。籍は正規軍だが自由でいたいし、奴らの面倒を見たいという気持ちが強い」
「キュスト隊長って、冒険者だったんですか!」
「意外か?」
「ちょっと意外でした。最初から小隊長かと」
「なんだそれは。俺にも子供時代はあったぞ」
「じゃあ、子供の頃から強かったんですか?」
「いや、どうしょうもないくらい泣き虫だった。いつも姉に助けられていたよ」
……お姉様を懐かしむような優しい微笑みだった。
思えば、キュスト隊長とこんなに和やかに雑談めいた話をするのは初めてだ。ピルーコ指揮官とレイリーさんがいたら、こういう話は出来なかった。
「そういえば、叔父上とレイリーは食べないんですか?」
「あいつらは指揮官室で食べてる頃だろう」
「そうですか、何か打ち合わせしながらですか?」
「いや、俺が追い払ってやった」
「え?」
「……あの二人は幼馴染で、本来なら今頃は結婚していた仲でな」
「え、叔父上とレイリーがですか?」
「あぁ。時間がある時は、出来る限り二人きりにさせてやりたい」
確かに、お似合いの二人だとは思う。
「キュスト隊長、そういうところ凄い気を回すんですね。意外です」
「指揮官と治癒士と言う立場上、いつ片割れになってしまうかもしれん」
あ……
「ピルーコは、レイリーの母親のハレイズを死なせてしまった事を、ずっと負い目に思っている。そして互いにいつ死ぬとも知れない」
「それで、ご結婚を断念されたんですか……」
「あぁ。レイリーはそれでも献身的に尽くしている」
戦が無ければ、幸せな家族は、ずっと幸せを紡いで行けただろうに……。
キュスト隊長だって、奥さんがいたっておかしくはない年齢だ。でも、ヨーンで暮らす人にそれを聞くことは禁忌だということを、私はルートンさんご夫妻の時に学んでいる。
「そういえば、お前は日本に残してきた女はいるのか」
「え、女……?」
……キュスト隊長には〝私が女だった〟とは話していなかったかもしれない。
「いえ……」
「おっと、聞いちゃいけないことだったか」
「えぇ、まあ」
キュスト隊長はちょっと憐みを含んだ目。
……元彼と別れて2年。仕事とぬいぐるみ漬けの生活だったからなぁ。
それに、性別が変わったとなれば多方面で気まずい話にもなりそうだから、元の性別はこのまま伏せていよう……。
「母を一人残してきたことが気がかりです。今でも元気でいると良いのですが」
「そうか……」
きっと、死別をするよりは、ずっとマシなのだと思う。
中身がエリムレアに変わっていても、お母さんの目の前でナズナは今も生きている。目の前からいなくなっていないなら、キージェ達が私に言ってくれたように、生きているだけでもいいと思ってくれているはず。
「ナズナ、ピルーコ達がいたら、こんな話しは出来なかったろう?」
「そうですね……」
エリムレアが末裔だったっていうだけならまだしも、まったくの他人と入れ替わってるなんて信じてもらえることのほうが奇跡だ。
「あの日から、お前には気を遣わせてしまっていたようだな」
「えっ?」
「エリムレアが、もうここに居ないということは俺の中では納得している。今後も二人でいる時は、また色々と話してくれ」
キュスト隊長……。
「はい。ありがとうございます。……本当のことを話せたのがキュスト隊長で本当に良かったです」
気遣いはとても嬉しいけれど、その少し寂しげな顔に胸が痛む。
「キージェ達には、いまだに話せていないんだな?」
「やっぱり、私からは言えません。彼らを知れば知るほど、言えません……」
「そうか。今、あいつらと上手くやれているのなら、わざわざ明かすことはないだろう」
「はい」
キュスト隊長は、自分自身を諭すかのように何度か頷く。
そしてとても和やかに、優しい時間が過ぎて行った。
新規ブックマークと10,000PVありがとうございます!
最近、更新停滞していて申し訳ありませんが、本当にとっても嬉しいです。
これからもがんばります。
本作を気に入っていただけたら、ブックマーク登録・評価をいただけるととても励みになります。




