たまには世間話を
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
冒険者の集団である自警団と違い、正規軍は本当に堅苦しい場所だった。
噂話はもちろん、私語は一切ない。おかげで、エリムレアの話を聞くことはなかった。
『それにしても……メイドさんなら、ちゃんとメイド服着てて欲しかったなぁ』
目の前で支度されている色鮮やかな食事に反して、給仕さんの服はみんなが着ているような地味装備。
自警団の寄宿舎の食堂の給仕さんは、メイド服とまでは行かないけど、ヨーンの一般市民が着ているのと同じ質素なワンピースに簡単なエプロン姿だったのに。
もしかしたら、彼女たちは当番制で給仕の仕事をしていて、本来は正規軍の兵士なのかなぁ。
「ありがとう、もう下がっていいぞ」
キュスト隊長にそう言われると、給仕さんたちは恭しくお辞儀をして、このピルーコ指揮官の私室から出て行った。
私の向かいにはキュスト隊長が座っているだけで、この部屋に二人きり。テーブルには手触りの良いクロスがかけられ、乳白色のお皿には豪華な食事が盛られている。
「さ、久しぶりのちゃんとした食事だ。たくさん食べると良い」
「ありがとうございます」
この数日間、地下の闘技場では出前のお弁当のような食事を摂っていたので、温かい料理がとてもありがたかった。
あぁ……、ヨーンの食事は何を食べても美味しいなぁ。
「旨いか?」
「はい、とっても!」
「そうか」
「特にこの焼き立てのパンと、熱々のスープ、すごく美味しいです」
昨日とうって変わってとても優しい笑顔のキュスト隊長。
「ナズナ、新しい装備が良く似合っていたぞ。剣も間に合って良かったな」
「あの……、甲冑の内側は少し古びてましたけど、新兵じゃないってバレませんか?」
「剣と違って、甲冑はみんな使い回しだ。持ち主を失ったものを修理し、磨いて新兵が引き継ぐんだ」
「そうなんですか」
「サラビも言っていただろう。死んだ者の想いが、継いだ者を強くする。剣も甲冑も使い続けると良い」
死んだ者の想い……。
魔導士たちが使う魔法にも関係しているし、この世界ではとても重要な要素なのだろう……。
「でも、名前がナズナで刻まれています」
「ナズナと名乗るのは嫌か?」
「ここで名乗るのは……嫌ですね」
だって、こんなにかっこいい容姿なのに、私の本名だなんて違和感しかないもの。
思わず両手で顔を覆った。
「おい、どうした……」
「いえ、こんなイケメンに私の本名は似合わないと思いまして」
「そういや、ナズナというのはお前の世界ではよくある名なのか?」
「本来は小さな白い花の名前ですが、人名としては珍しい方ですね」
姓は大葉、名はナズナ。
……名前に草が生えてると良く揶揄われた。
「花の名を? ……何か意味があって付けられたのか」
「……花言葉が『あなたに私のすべてを捧げます』なんです。両親は、私が誰かのために尽くせる人になるようにと意味を込めたそうです」
「花言葉?」
この反応……、花言葉はこの世界には存在しない概念だ。
「色々な花に対して、それぞれ意味のある言葉が紐づけされていて、誰かに花を贈る時にはそれで匂わせたりできるんです」
「ほう、花に意味を持たせるのか。面白い文化だな。それに、その花言葉とやらは、お前にぴったりだ」
「え……」
「そう変な顔をするな」
確かに、この作戦のために本名を名乗ったのは、意図せず私が自ら犠牲を名乗り出たようなものだった。
小学生の時の〝名前の由来について〟というテーマの作文に正直に書いてしまったため、何かと人柱のように嫌な役を押し付けられてきた思い出が蘇った。
なので、本名を名乗るのはこれきりにしたい。
「いっそ、ナズナと改名して本当にピルーコの甥になってしまうのはどうだ?」
えぇぇ……。
「ダメです。やっぱり嫌ですし、無理です……」
「ハハハハ」
キュスト隊長が面白そうに笑う。
「冗談だよ。さすがに第三王子の甥としてヨーンにいるのは、お前には重すぎるな」
えっ?
「第三王子って、誰がですか?」
「ピルーコだ。知らなかったのか」
えー……
「初めて知りました……」
強引だけど、どこか漂う気品は王子様だからだったのか。
「あいつも、それなりに気苦労が多い。兄貴が二人いるが、幼い頃から父上は自分に一番似ているピルーコを気に入っていた」
うわ、それは兄弟間での嫉妬で大変そう。
「それで、奴は外見以外でも自分の存在を証明するべく、奮励努力したんだ」
「努力、ですか」
「あいつは王都の魔法学院を首席で卒業し、剣術も強い。いわゆる文武両道だ」
もしかして、ピルーコ指揮官ってとても凄い人なの?
「あいつに斬られた時、痛みが無かっただろう」
「それ、とても不思議でした!」
「魔法を併用することで、相手に痛みを与えない慈悲の剣を振るう」
……ますますピルーコ指揮官が解らない。
強引を通り越して横暴だけど、気品があり、苦労しているけど歪まずに慈悲深い……。
「なんか、意外です。それに、確かに荷が重いですね」
どう反応して良いのかわからず、苦笑してしまう。
「ま、俺もその重荷が嫌で逃げているようなもんだ」
「どういうことです?」
「王都の暮らしはよほど暇なのか、父上はあちこちに子供を作りやがってな。俺もその一人だ」
ん?
「つまり、キュスト隊長って」
「ピルーコとは異母兄弟ということになる」
「えぇぇ?!」
「声がでかい!」
「はっ、いけない……」
私がここに来てから〝ピルーコ〟と呼び捨てにしているのはそういう事情からか。
じゃあ、この豪華な食事って、ピルーコ指揮官の甥のためじゃなくて、もしかしてキュスト隊長向け……。
「正直、私を自分の甥とか言い出して、すぐバレるんじゃないかと思ってましたが……」
「俺のような非嫡出子の兄弟姉妹が多すぎるから、何も不安要素はない。心配するな」
不安要素がないなら良いんだけど……。
あ、そうだ!
「いくら非嫡出子とは言っても、あんなに強いのに自警団の小隊長という立場なのは、どうしてなんですか」
「自警団の小隊長の方が、気が楽でいいからさ」
本来はガイダよりも強いのに……
「それに、俺の役目は部下たちの声を上層部に届けることだ」
「……その強さでその役目は、なんだかもったいないですね」
ふう、とキュスト隊長が息を吐く。
「俺は皆と揃いの装備より、好きなものを身に着けて戦いたいんだ」
確かに、正規軍では皆同じ剣を持つことになるし、お姉様の形見の文様を入れることは出来なくなってしまう。
って……。
「……キュスト隊長、それがオシャレですよ」
「え?」
「自分が好きな格好をするって、良いことですよね」
「そうか……言われてみたら確かにそうだな」
肩を竦めつつも、いつもより楽しそうに見えた。
でも、本当は平和的なところでオシャレを楽しんで欲しいなぁ。
推敲を重ねて、納得できる部分とそうでない部分がまだまだあり(つまりもっと文字数が増える)、仕事なども忙しくて中々更新まで持って行けない状態です。
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