I offer you my all
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
キュスト隊長は掛け声すらも発さくなり、荒い息遣いしか聴こえない。
私とアイリスのどちらを狙っているのかも、どのタイミングで誰に攻撃を仕掛けるのかもわかりにくくなる。
本当に、これで〝小隊長〟を名乗っているのおかしくない?
何度も、何度も、激しく金属音が鳴り響く。
アイリスが援護してくれなかったら、とてもじゃないけど私では相手にならない。だからこそ治癒士の援護は戦況を左右するんだと、キュスト隊長は教えようとしてくれているのだろうか。
夕飯前までというタイムリミットまで、あと少しだ……。
どうすればいい……。アイリスに負担をかけているのに、それでもできないとなれば私には才能がないということだ。
ここまでしても出来ないなんて、あの男の剣がまがい物だったのだろうか。いや、ファバーさんが新品を手渡しているのを私はしっかり見た。
「余計なことを考えるなと言ったろう!!」
キュスト隊長の怒鳴り声とと共に繰り出された攻撃で、腕に衝撃が走る。
私には、やっぱり無理なのかもしれない。
「お前の覚悟を見せてみろ」
――そうだ、まだ早い。
歯を食いしばれ、ナズナ。強いイケメンになると誓ったはずだ!
アイリスが少しでも離れていると、キュスト隊長はアイリスを狙いに行ってしまう。
私が近くで庇い続けていれば、私の後ろに回り込まない限りキュスト隊長がアイリスに直接手は出せなくなる。
それに、あの日ディプリミスが出来た時、私は真正面から相手の剣を受け止めていた……。
試してみよう、この身を使って。
大丈夫……、もしも負傷しても、アイリスがいるのだから。
「アイリス、私のすぐ後ろにいて」
私はアイリスに目配せをした後、剣を大振りに構え直した。
キュスト隊長はそれを隙と捉えて、素早く突進してくる。
守ってみせる。アイリスに怪我はさせない!
血が沸き立つ不思議な感触。
体から腕へ、腕から手先へ、手先から剣へと、熱いものが流れて行く!
キュスト隊長は左に構えていた剣を逆に構え直し、右斜めから振り下ろした。
『今だ!』
キュスト隊長の剣を、渾身の力で横から打ち払った。
「ぐあっ!」
ジャキっと鈍い金属音を響かせた後、刀身が地面に落ちた。
額を抑えて跪くキュスト隊長。
「キュスト隊長! 大丈夫ですか……あうっ!」
私の足に激痛が走った。
「馬鹿野郎! 武器を放り出して敵方の心配をする奴があるか!」
「うぐぅ……っ」
「これが戦場だったら、お前は死んでいたぞ」
足の装備の隙間に刺さった極細のナイフを抜き取ると、血が溢れた。
痛い……
「キュスト隊長! ここまでする必要ある?」
すぐに私の手当てをしながら、アイリスが抗議する。
「記憶を失くしたナズナに、戦場がどういう所か教える必要もあるんだ」
「……アイリス、ありがとう。でも、キュスト隊長の言うことが正しいよ」
「それはそうだけど……」
私の事情を知っているキュスト隊長だからこそ、制圧戦までにそこまで叩き込むつもりなのだろう。
平和な環境で育った私には、たった一度だけ見ただけでは戦場がどういうところか理解が及ばない。
いつだって敵は、隙を狙っているということを忘れてはいけない……。
「相手が持っている武器が、一つだけだとは思うなよ」
「分かりました」
キュスト隊長は、脛当てにナイフを納めた。
「ディプリミスを食らった時のために、お前も補助武器くらいは仕込んでおくといい」
そうだ、もしディプリミスを喰らい丸腰になってしまったら、私はその場で殺される……。
傍らに落ちていた刀身を、キュスト隊長が拾い上げた。殺気を残したまま微笑む彼は、正直な感想として……とても怖かった。
「ナズナ、ディプリミスが出来たじゃないか」
「あっ!」
「レイリー! ピルーコに報告だ」
「承知しました」
そして、キュスト隊長の額には浅い傷がついていた。
「あの、額は大丈夫ですか?」
「ただ掠っただけだ。ディプリミスを喰らった場合は、自分が絶望する前に次の対処を考えるもんさ」
「あぁ、良かった」
「お前は自分の心配をしろ」
そうだ……。誰が敵で、自分が何のために戦っているのか、それは絶対に忘れてはならない。
「ディプリミスの発動条件、ちゃんと掴んだのか?」
「はい!」
私の想いを、剣に乗せられた。
「すごい! ナズナ、やったね!」
「うん!」
私はアイリスと両手でグータッチ。そしてキュスト隊長から、背を叩かれる。
「ナズナ、本当によくやった」
「ありがとうございます。みんなのお陰です!」
「アイリス、突然の呼び出しに応じてくれて助かった」
「ううん、ナズナに会えてよかったよ」
「そうか……」
キュスト隊長は、武器庫から3本の両手剣を持ち出してきた。
「アイリス、あと少しだけ付き合ってくれるか」
「もちろん!」
「ナズナ、まぐれで終わらせるな。この3本を斬ったら晩飯だ!」
「はい!」
多少苦戦したけれど、3本の剣をディプリミスで斬り落とした。
「ナズナ、凄い強くなったね。見違えちゃったよ」
「え……、そうかな」
すんなり3本を斬れたわけじゃなくて、最初の2本は時間がかかってしまった。
だけど最後の1本は、アイリスが闘技場の柵の外へ出た状態で。正面からではなく横からの斬撃だったから、しっかりマスターできたんだと思う。
「僕は、またしばらく部屋に引きこもる。ほんとはキージェとグランにも安心して欲しいって言いたいけれど……、重要な作戦だからちゃんと黙ってるよ」
「ありがとう、アイリス。あの……キージェとグランは今はどうしてる?」
「……ずっと顔を合わせてないよ。一度だけそれぞれの部屋に行ってみたんだけど、居なくて」
「え、まさか寄宿舎から出て行っちゃった? このまま二度と会えないなんてことは……」
「ううん、そうじゃないみたい。二人とも荷物も本も、鉱石や結晶もそのままだったし、どこかに出かけただけだと思う」
「じゃあ、たまたま不在だっただけかな。アイリス、二人のこと頼むね」
「うん、任せて」
次に会うのは、制圧戦の当日だ。
「またね、アイリス」
「またね。ウィンウィン!」
「ウィンウィン!」
そして、アイリスはレイリーさんに連れられて闘技場を後にした。
「……ウィンウィンとは何です?」
階段を昇る足音と共に、レイリーさんが不思議そうに尋ねる声が小さく聞こえてきた。
活動報告にも書きましたが、タイトルを「死にかけ女と猫のぬいぐるみ」に変更しました。
いわゆる「ぬい」と違うということを分かりやすくするためと、ストーリーでは「猫のぬいぐるみ」がメインで登場するためです。
今後もどうぞよろしくお願いします。
ちなみに、我が家の猫ちゃんは20歳になりました!
そして、私も猫派です(笑)




