個性
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「アイリス、俺は今からお前を本気で狙う。ナズナはアイリスを庇いながら俺と戦え。いいな」
「え、まさかキュスト隊長と、本気の手合わせ?」
「うん。ディプリミスを完全に体得するために……ね」
「ディプリミス? エリ……じゃない、ナズナが?」
驚きを隠せないアイリスの、複雑な表情。
「ナズナはアイリスの名誉のために決闘をした結果、偶然ディプリミスができたそうだ。それでお前を守るためならできるのではないか、という仮説を立てた」
「僕の名誉のためにって、何があったの?」
「えぇ、まあちょっと、変な男にアイリスの陰口を聞かされてね」
すべてを言う必要はない。アイリスを二度も傷つけることになっちゃうから。
「なんとなく想像つくけど、僕のためにそんな……」
「アイリスは、私を何度も助けてくれた。優しく気遣ってくれた。だから、私はアイリスのために戦うから」
「ひぇっ、なんだか照れることいわないでよォ」
まだ腫れた目をしているのに、はにかんだ笑顔はやっぱり可愛い。
「ピルーコ指揮官が僕たちに話したことって、半分は本当だったんだね」
「うん……。でも、私は――」
「武器は要らない……だよね?」
「そう、相手を傷つけずに戦意を喪失させるために、ディプリミスを使う」
アイリスは、目を閉じて〝うん〟と頷いて、キュスト隊長に向き直る。
「じゃあ、ナズナに治癒魔法を使っても良いよね?」
「もちろんだ。その代わり、俺にもレイリーが付くぞ」
あの寄宿舎の食堂で会った日から今日まで、キュスト隊長の戦闘訓練を受けてきたけれど、互いに治癒士を付けての戦闘訓練は初めてだ。
しかも、今回は標的のアイリスを守ることが目的。
「いいか? これは手合わせじゃない、本物の戦闘だ。それを忘れるな」
戦場では真っ先に治癒士が狙われるから、これは模擬戦以上の本気の訓練だ。
「ナズナ、がんばろう!」
「うん!」
闘技場の中央で、2対2で互いに向き合う。
治癒士は、それぞれ援護の治癒魔法を味方のために使うことのみがルールだ。
「行くぞ、アイリス!」
「させません!」
ギィン! と激しい金属音が響く。
すぐにキュスト隊長は私の剣を打ち払い、身を返しながら私のわき腹に不意打ちの蹴り。私はそれをギリギリ躱して体勢を立て直す。
アイリスがどの位置にいるのかも見極めながら、自分の剣の攻撃範囲でその時できる攻撃と防御を行う。
キュスト隊長は、アイリスを狙うだけではなく、時に私に対しても激しい剣撃を繰り出し続ける。受け止めて避けるだけで精いっぱいだ。
「これぐらいやらないと、アイリスを本気で守る気になれないよな?」
『これが、キュスト隊長の本気の攻撃……』
そんなキュスト隊長は、息が乱れている。
あれほどの激しい動きなら、当然体力を消耗する。頃合いでレイリーさんがキュスト隊長の傍で治癒魔法を使う。
あの強さで、ほぼ無限の体力だったらすぐにこちらが負けてしまう。
って……あれ?
どうして、私はそれほど疲れていないのだろう。
振り返ると、アイリスがニッと笑う。
「アイリスの強みは、レイリーと違って動き回りながらも少量ずつ治癒魔法を使いまわせることだな」
「私の治癒魔法は、小出しには向いていませんので。それゆえに拠点での重傷者の治癒に当たることが多いのです」
「別にお前を下げているわけじゃないぞ、レイリー」
「承知しております」
なるほど、治癒士によっても、色々な個性があるんだ……。
「ナズナ、アイリスはお前のことを治癒士として誰よりも気にかけている。相性は抜群のはずだ」
キュスト隊長の言葉に、アイリスがにっこり笑う。
ピルーコ指揮官が許可してくれたのは、そういう相性も考えてのことなのかもしれない。
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