希望
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
「アイリスをここに呼べだと?」
「はい。あの時、私はアイリスのためにって思っていたので……」
ふむ、と顎に手をあてて、キュスト隊長が考え込む。
「やっぱり、ダメですか?」
「確かに、異なる世界から来たナズナにとっては、カルツよりもアイリスたちの方が重要で守るべき存在なのだろう。ならば、レイリーが言っていた〝祈りの心を剣に乗せる〟という仮説を当てはめてみるのは、試す価値はありそうだ」
さすが、キュスト隊長。
「それに、アイリスが作戦の内容を知らずにいて、ナズナを警戒して現地で不用意な行動をとられるよりも、アイリスも協力者になってもらう方が色々好都合だな」
「では……」
「すぐにピルーコに話を付けてこよう」
キュスト隊長は、闘技場から出て行った。
どうか、許しが出るといいのだけど……。
急に訪れた一人の時間で、たった数日前の別れ際の挨拶を思い出す。
『またねエリ、ウィンウィン!』
そわそわしてしまい、落ち着くために素振りをしながら待っていると、ガチャガチャと甲冑の音を鳴らしてキュスト隊長が戻ってきた。
「どう……でした?」
「ピルーコも賛成だ。今、レイリーが寄宿舎に向かっている。治癒士が事前に作戦会議に参加させられるのは良くあることだから、すぐにやってくるだろう」
不意に、涙が流れた。
「アイリスに、会える……」
「待て、まだ話の途中だ」
「え?」
「お前がディプリミスができるようになるまで何日も要するようであれば、アイリスの拘束時間が長くなる。キージェ達だけじゃなく、他の連中にも疑問に思う者がでてくるだろう」
「では……」
「今日中に、いや晩飯前までに体得しろ!」
「分かりました!」
絶対にやって見せる!
「さあ、アイリスが来るまでもうひと勝負だ!」
予告通り、キュスト隊長の攻撃はどんどん激しさを増す。
剣がぶつかり合う音は、地下の闘技場の壁に当たって反響を繰り返す。
本当に以前とはまったく気迫も違うし、これが戦場でのキュスト隊長なのだろう。
どうか、キュスト隊長にも、武器を置いてゆっくりと過ごせる日が来ますように。
ほどなくして、レイリーさんに連れられてアイリスがやってきた。
「あ、キュスト隊長……」
既に戦闘用の装備を身に着けていた。
「アイリス、突然すまないな」
「……なんで、こんなところに」
あぁ、ついさっきまでずっと泣いていた目だ……。
何か言いたげで、でもそれを堪えるかのように眉間に皺を寄せている。
「ここにいる、ナズナに協力してやってくれ」
「ナズナ……?」
「正規軍の新兵で、ピルーコの甥だ」
ピルーコ指揮官の名前を出した途端、あからさまに嫌そうな顔を見せた。
「アイリス殿、お願いします」
私は兜を脱ぎ、お辞儀をする。
「……」
アイリスは、俯きながら黙っている。
「ううん……。アイリス、お願い!」
「……え?」
しばしの間、ぽかんとした表情。
「私だよ。ほら」
黒い前髪を隠して見せると、アイリスが訝しんで下からじっと覗き込む。
「え、まさか……エリ……?」
「うん」
「本当に?」
「うん」
アイリスが、私の首にしがみついた。
「エリ……」
半泣きで再会を喜ぶアイリスの背を、あやすようにトントンと優しく撫でた。
「アイリス、ごめん……。驚かせて、悲しませて、ごめん。裏切るようなことをしてごめん……」
「ううん……ううん、エリ、エリ! 生きてた、エリが生きてた!」
アイリスが腕を解き、私を見上げる。
「エリが指揮官の甥って、なんだよぉ」
あぁ、可愛い顔が台無し……。
「ごめんね、本当に突然で」
「実は、次の制圧戦って前から噂はあったのに、公示の後まだ招集がないから、何かあるのかとは思ってたんだけど、まさかエリが巻き込まれてるなんて……」
「私も、最初はどうしようかと思ってた」
「お二人とも、再会の挨拶は後回しです」
レイリーさんが、つんとした声で私たちの間に入った。
「アイリス、あなたも今回の作戦の重要な役どころになります。良いですね」
「重要なって?」
「ナズナ様のために、ここで夕飯までの間、戦闘訓練に参加してもらいます」
「ナズナって……、エリのこと?」
「あ、そうなの。今はピルーコ指揮官の甥で、ナズナと名乗ってるから、アイリスも私の事はしばらくの間ナズナと呼んでね。絶対に間違わないように」
「わかった。で、何をすればいいの?」
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