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死にかけ女と猫のぬいぐるみ  作者: 明星 志
第4章 犠牲の灰
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ひと筋の光

※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています

 倒れるくらいまで稽古をしてはレイリーさんが体力を回復してくれる。それを一日中繰り返したおかげで、2日目の稽古が終わる頃には、キュスト隊長と高度な打ち合いができるようになった。




 わずかな睡眠を挟んで、今日で3日目。


 レイリーさんが、本日2回目の回復にやって来て、私たちが飲み終えた水や回復薬の空き瓶を持って闘技場を出て行った。


「どうだ、慣れてきたら二刀流より楽だろう」

「えぇ……なんとなくですが、そう感じます」

「カザンで出会ったばかりの頃、エリは両手剣を使っていたんだ」

「そうなんですか。てっきり最初から二刀流かと思ってました」

「当時から素質はあると思っていた。……もしかすると、エリはヨーンに来る前にはディプリミスができたのかも知れないな」


 もしそれが事実なら、空白の数年の間にエリムレアが二刀流になったのは、ファバーさんが言っていた通り、末裔であることを隠そうとしていたのかもしれない。


「でも、どうして私には出来ないんだろう」

「出来ないってことはないだろう。ピルーコが見たのは(まぼろし)だったのか?」

「いえ、本当ですけど……たった1回だけですし」

「相手の剣がボロボロに錆びていたわけではないよな?」

「それはないです。相手の男の剣は、ファバー工房で受け取ったばかりのスモノントの剣でした」

「そうか……。ところで、一体何があって決闘になったんだ?」

「工房で、知らない男に絡まれて、その男がアイリスを侮蔑(ぶべつ)したんです」

「アイリスを?」

「えぇ……。アイリスの過去を知っているようでした」

「ふむ」


 私の口からは言えないような酷い言葉で……。


「アイリスが何と言われたのかは、大体察しがつく。どうせアイリスにフラれた奴だろう」

「フラれた……?」

「治癒士は慢性的に不足している。毎日、探索組合で新しい治癒士が来るのを待ち続けているヤツだっているんだ」

「そうなんですね」


 そこまで探索組合にいる人たちを気にして見たこと無かったな。


 でも、治癒士の居ない編成は無謀の一言に尽きる。


「治癒士は、引く手数多(あまた)な一方で、嫉妬や逆恨みを買いやすい。アイリスのような無邪気なヤツにも、批判的なことを言うやつはいるもんだ」


 アイリスは、そんなことおくびにも出さなかったけれど……。


「本当に、どこの世界でもつまらないことで争っていて、人間って本当に馬鹿ですね」

「そうだな……エリがお前と入れ替わるきっかけになった負傷の影にも、似たような理由があったんじゃないかと思っている」


 エリムレアにも……


「あいつは不愛想だが、悪いヤツではなかったんだがな」


 確かに、キージェ達の話からは、単に不器用なイケメン像しか思い浮かばなかった。


「どうして、皆が笑っていられるようにならないんだろう……」

「本当にな。しかし、家族や仲間を失うとそうも言っていられない。キージェやアイリスだって、エリが死んだと知ったらあの有様だ」


 いつも冷静なキージェが、あれほど言葉を荒げる姿は私も初めて見た。


「……ごめんなさい。キュスト隊長もお姉様を……」

「いや、いい。愚か者が愚か者だと気づくまで、この世界は変わらない。ナズナから異なる世界の話を聞いて、色々と考えたよ」

「キュスト隊長……」

「子供たちが笑顔になり、皆がぬいぐるみを傍に置く日が来るよう、気づいた者がどうにかするしかない」

「……そうですね」


 私は、この世界で真実を話せたのが、キュスト隊長で本当に良かったと思う。


「キージェはお前を信じてあの報告書を書いたんだろう? 既に、お前の想いが伝わっているんだよ。キージェだけじゃなく、俺にさえも」


 想いが……?


「キージェは、なんて書いていたんですか? 私、まだ写しを読んでいなくて……」


 キュスト隊長は、彼の報告書の締めの言葉を伝えてくれた。


〝エリムレアはガイダを攻撃するよりも説得を続けていた。その結果、ガイダは大剣を置いて行った。良好な関係にするためには、まずは武器を置くことだ。死にかけながらも説得を試みたエリムレアに、俺達は感銘を受けた〟


「良い仲間を持ったな」

「はい」


 キージェ……。ありがとう、胸の奥が温かくなったよ。


「ただ、お前たちの報告書は、上層部に混乱を招いたのは確かなんだ」

「混乱……?」

「今まで、互いに力でぶつかり合うのを当たり前としていた我々に、学者でもない一介の冒険者と自警団員が、突然〝争うな〟などと言い出したんだ。さすがに裏を疑う声もあった」

「大昔、末裔とヨーンの学者さんが仲良くしていたという話が当たり前になるといいなと、思ったんです」


 キュスト隊長は、私の胸を拳で叩く。


「お前のその想いを、剣に乗せるんだ」

「はい。やっぱり、ディプリミスは重要な切り札ですね」


 話し合うのに、武器は要らない。


 ガイダも本当はエリムレアと話をしたかったのだと、そう信じたい。


 なんとしても、体得して極めなきゃ。


 治癒士の、そしてアイリスのためにも。


「あ……」


 そうだ……〝アイリスのために〟だ……


「どうした?」

「あの、試してみたいことがあります」

いつもお読みくださり、ありがとうございます。


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