表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にかけ女と猫のぬいぐるみ  作者: 明星 志
第4章 犠牲の灰
72/85

深い溝

※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています

「ナズナとレイリーか。どうした?」


 ピルーコ指揮官は、机で本を読んでいるところだった。


 少しラフな姿は初めて見たけれど、いつもどこか気品が漂う不思議な人だ。


「ナズナ様の私物を受け取りにきました」

「あぁ、そこにある。が、表向きは証拠品だ。最小限を持って行くように」


 机の上に置かれていたものが、ちゃんと一式あった。


 裁縫道具やスモノチの毛皮、作りかけのネコチャンの他、最初に作った猫のぬいぐるみと、光源結晶を替えたばかりのランタンまで……。


 でも、今は裁縫をするほど時間に余裕はない。


「では、このぬいぐるみとランタンを」


 レイリーさんが、着火器具でランタンに灯を入れて、光源結晶の入った小箱も出してくれた。さすがに屋内ではこれらが無いと歩くのもままならない。


「……それがぬいぐるみか」

「えぇ。私がガイダに渡したものとは少し形が違いますが」

「報告書を見て、どんな物か気になっていた」


 差し出すと、ピルーコ指揮官はそれを両手で受け取った。


 作品を丁寧に扱ってもらえると、それだけで良い人に思えてしまう自分を、本当にチョロイなと思った。


「これはカルツか……。偶像(ぐうぞう)とも言えるものを作ったのは、末裔だからか?」

「いえ、そういうわけでは……」


 キージェが見せてくれた報告書の写しに描かれていたカルツは可愛いと思ったけれど、私自身にはカルツに対して信仰心はない。


 そもそも一体何の神様なのかもわからないし……


「ふむ。カルツが本当に存在していたなら、このような感じだろうか」


 猫の額あたりの毛をわしゃわしゃとなでながら、ふっ、と指揮官が笑う。


 ……ぬいぐるみは不思議だ。いきなり切りつけて、無理やり私にこの責務を負わせるような人まで、優しい笑顔にしてしまう。


「大した技術だな。この国には、色んな地域や他国の物が集まるが、こんなものは見たことが無い」


 やはり、この世界では私にしか作れない物だ。


「いえ、まだ改良の余地しかありません」

「ほう? 改良とは、これ以上どうするのだ?」


 少し、意地の悪い口調だ。


「目玉をガラスにしたり、毛皮じゃなく専用の織物を開発したり……。そしてカルツや動物たちを自分の目で見て作品にしたいんです」


 笑われるだろうか。叱られるだろうか。


 所詮、私のやりたいことはこのヨーンでは不要なことだと、諦めるべきだろうか。


「……いいだろう。この作戦が終わったら許可を出そう」


 意外過ぎる回答に、一瞬思考が停止する。


「えっ……?」

「……便宜を図ると約束する」

「あ……ありがとうございます!」


 ディプリミスの特訓に対して、私の()()()を出させるためかもしれないと半分くらいは思っているけど、それでも私が進む道へ辿り着けるなら、私は頑張るしかない。




 レイリーさんが指揮官室の隣の部屋のドアを開け、中に入る。


 真っ暗な中、ランタンの中で光る光源結晶が、いつもより暖かい光に感じられた。


「こちらはピルーコ様の仮眠室になります。少し狭いですが、お使いください」


 狭いと言っても寄宿舎の個室より広いし、壁はむき出しではないし、床には絨毯が敷かれていた。


「レイリー、ありがとう」


 丸い小さなテーブルに、ランタンとぬいぐるみを置く。


「ナズナ様は、職人を志望しているのですか?」

「えぇ……。今は修行中です。なので、探索をこなして生活費を稼いでいます」

「そうですか。私の母も、私が幼い頃はよく服を作ってくれました」


 そう言いながらレイリーさんはぬいぐるみを手に取って、眉ひとつ動かさずに眺めている。


「お母様は、器用な方なんですね」

「はい。ですが、メーニスは治癒士として駆り出されますから」


 クールな表情を崩さなかった理由が、うかがい知れた。


「ナズナ様、ピルーコ様の仰った通り、この作戦が終わったら、あとは好きなことをなさってください」

「はい、そのつもりです」


 レイリーさんが、私の目をじっと見つめる。


「……古ヨーンの末裔はどうしても好きにはなれません。冷たく当たってしまうことについては……申し訳ありません」


 ドーヴァと同じような思いを抱く人間は、ヨーンでは本当に珍しいことではなさそう。


 長い間争ってきた末裔たちとの深い溝は、埋められるだろうか。


「ですが、あなたが本件についてご協力くださる以上、私も全力でお仕えいたします」


 あぁ、もしかして……、レイリーさんは単に真面目な人でもあるのかな。


 私も彼女を笑顔にできるよう、治癒士拉致の犯人を捕まえるために今できることに全力で挑もう。


「3時間後に起こしに参ります。おやすみなさい」


 たったの3時間……


「分かりました。おやすみなさい」

「では、失礼いたします」


 レイリーさんが部屋を出て行くと、ガチャリと鍵のかかる音。


『……監禁生活かぁ』


 甲冑を脱ぎ、ベッドに倒れこんだところで、その日の記憶は途切れた。

本作を気に入っていただけたら、ブックマーク登録・評価をいただけるととても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ