意味
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
私たちは再び地下の闘技場に降りた。
「良く耐えてくれたな。ナズナ」
「耐えないと、すべてが……台無しですから」
「さあ、再開だ」
ポンと背中を叩かれ、私の目から涙が零れた。でも、泣いている時間はない。
「……はい!」
キュスト隊長だって、キージェに責められた立場なのに。私ばかりが泣いていたらいけない。
戦闘での立ち回りについては、ほぼ実戦に近い訓練が良い。それは二刀流の時に経験済だった。
「集中しろナズナ。大怪我をするぞ」
避け損ねたキュスト隊長の剣が私の首を掠めた。
「すみません……」
どうしても、キージェ達が、私のことをどう話しているのかが気になってしまう。
「負担をかけている側としては、あまり強いことは言いづらいが、この先、俺は手加減をしなくなるぞ。戦闘に集中してくれ」
「わかりました。頑張ります」
「良い返事だ!」
一通りの攻撃や防御については教わったものの、そんなに即座にできるものだろうか?
時に剣を持つ手に鋭い痛みが走り、時に腹に蹴りを入れられて横転する。
いつも訓練施設で教えてくれていた時とは、比べ物にならないくらいに激しく、そして厳しいキュスト隊長の指導。
『頑張らなきゃ……』
背筋を汗が流れて行く。
長くて重い剣を振り回し続けていると、どうしても腕が疲れてしまう。
「ずっと両手で握りっぱなしだと、疲れるぞ」
「え、両手剣だから両手で握るものじゃないんですか?」
「必要に応じて、片手の力は抜くんだ。その方が小回りが利く」
そう言って、キュスト隊長が利き手を軸にしてもう片方の手で刀身を操作して見せてくれた。
なるほど、ずっとがっちり握ってたらダメなのか……
「お前は呑み込みが早い方だから、このまま打ち合いを続けて行くぞ」
「……はい!」
大人になってから褒められることってあまりないから、少し嬉しくなった。でも、これは、エリムレアの体の潜在能力なのだろう。
自分でいうのもおかしいけれど、初めて手合わせをしてもらった頃に比べたら、驚くほど体が動く。
予告通り、キュスト隊長の本気度が増して行き、受け止め損ねた剣が当たると、甲冑を通しても激しい衝撃が体に走る。きっといくつかの痣ができているだろう。
「大丈夫か?」
「えぇ。まだまだいけます!」
「良いぞ、ナズナ!」
はじめのうちは、治癒魔法をかけに来てくれるレイリーさんを、天使のように優しい存在だと思っていたのだけれど……
「ナズナ様、もう痛みも疲労も無いはずです」
疲労は無くても、気力がない。
休憩の時、気を抜くとすぐにキージェ達のことが気になってしまうし。それでさらに気力が衰退していく。
「レイリー、ここまでされたらナズナの気が狂うぞ」
「何を仰るんですか。あと5日しかありません。ディプリミスを自在に使いこなせなければ、エリムレア様が死んだ意味がありません」
そうだ、私が死んだ意味がない。
「……キュスト隊長、頑張りましょう。私のためにも」
「お前、言うようになったな」
少し困った顔でキュスト隊長が笑う。
「何もかも、叔父上の無茶振りのせいです!」
「お前には怒る権利はある。だが、いつも言っている通り、感情で剣を振るうなよ」
「はい!」
そうだ、冷静でいなければ形勢はすぐに不利になる。
そして、私は再び立ち上がる。
日付も変わり、明け時も間近。だけど、長すぎる一日はまだ終わっていない。
次にレイリーさんが来た時は、さすがに就寝時刻のお知らせだった。
ヘトヘトではなかったけれど、キュスト隊長の言う通り、あれ以上続けていたら発狂していたかもしれない。
指揮官室のドアからは灯りが漏れていた。
「私物を引き取りに入りますか?」
「良いんですか? こんな時間に」
「えぇ、今なら大丈夫です。他に誰もいません」
ノックの後、指揮官室のドアを開ける。
シンと静まり返った室内の照明の殆どが落とされて、机の上のランタンだけがぼんやりと明るい。
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