兜の下の鬱屈
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
1時間ほどして、再びレイリーさんが戻ってきた。
「ナズナ様、至急指揮官室までお越しください」
「レイリー、稽古の中断は聞いていないぞ?」
「キージェ・クィンクが、仲間と一緒に司令本部1階に来ています」
「え……」
もう噂がキージェの耳に。
「ナズナ様は、他の衛兵と共に応接室の隅で控えているようにとのことです」
きっと私に対しても怒るよね……。アイカを殺し、シャルに大怪我を負わせたガイダと私が結託していたと言われたら。
「キュスト様は、彼らを連れてくるようにとのことです」
「分かった。ナズナ、何があっても黙って聞いていてくれ」
「……はい、覚悟はできています」
心の中で、私だと気づいて欲しいと思いつつも、それでは意味がない。今は……今はとにかく耐えなくちゃ。
……キージェたちの反応が怖い。
指揮官室で、レイリーさんがかき集めて来てくれた正規軍の甲冑に着替えて、私は他の衛兵と共に応接室の隅に立つ。
私は、部屋の隅でその話し合いを見守るだけだけど、場合によっては泣きたくなるかもしれない。あらかじめ兜の面ぽおを下げておいた。
アイリスの、そして治癒士のためだもの。
私が素を出したら全て台無しになる。
ノックの音がし、キュスト隊長がキージェとアイリスとグランを連れて入ってきた。
「……そちらに掛けたまえ」
無言で入ってきた3人は、促されたソファに腰かけた。
ちょうど私に背を向ける位置で、彼らの表情は見ることができない。
キュスト隊長がピルーコ指揮官の隣に座る。
「エリは、今どうしているんですか」
棘のある言い方で切り出したキージェに、重々しくピルーコ指揮官が口を開く。
「噂を聞いて来たのだろう? エリムレアは既に死んだ」
「死んだ? 二人が殺したの間違いじゃないですか?」
「キージェ、落ち着け」
グランが静かに窘める。
「なぜエリが殺されなければならなかったのか……、納得が、できません」
キージェの声が震えている。
「エリムレアは、遠征時にガイダを手引きして、君たちを危険に晒した。そしてその正体は古ヨーンの末裔だ」
「そんな馬鹿な話、あるわけないでしょう!」
「君たちの報告書も読ませてもらった。古ヨーンの末裔が一方的に有利になるように受け取れる内容だった。それから……倒したはずのガイダの遺体は無かったそうじゃないか」
「ガイダは大剣を残していきました。エリに完敗したと認めた証です」
「奴が一体どこから侵入し、どこから脱出したのか等、不明瞭な点が多い」
「それでも! エリはガイダから俺を助けてくれた。身を挺してまで」
「それも芝居だとしたら?」
今、迫真の演技をしているのはピルーコ指揮官、あなたですよ……。
「芝居であんな命がけなことするはずが――」
「君たちは、彼が古ヨーンの末裔だということは知っていたか?」
「それは…………」
「寡黙な男ではあるが、いつも行動を共にする君たちにすら話せなかったのは、謀反の考えがあったからじゃないのか?」
「いくら何でも、その憶測は行きすぎだ! ……あいつはヨーンに来てからずっとヨーンのために戦ってきた。どんなに傷だらけでも、重傷を負っても、すぐに立ち上がっていたのは、キュスト隊長もピルーコ指揮官も見てきたじゃないか!」
キージェが、言葉を荒げてかつてのエリムレアの断片を話し、擁護してくれている。
「謀反について本人を呼んで審理するところだったのだが……、あれは10時ごろだったかな。彼が他の冒険者と決闘をしていた。その相手をディプリミスで打ち負かすところを、偶然通りかかった私が目にした」
「ディプリミス? アイツは二刀流だ。そんなことができるなんて聞いたことがない。それに、そもそもエリが決闘なんてするわけがない」
「果たしてそうかな? 彼は制圧戦でモデトンを殴って負傷させたこともあっただろう。挑発に乗りやすい性格じゃないのか?」
ピルーコ指揮官が語る筋書きがしっかりしていて、これではキージェたちもすっかり信じ込まされてしまいそうで怖い……
いや……、信じ込ませないと意味がないんだ。
「まずはキュストに話を聞くために闘技場に行った。ちょうどそこにエリムレアが現れたので、本人に末裔との関係を問うた途端、その黒い大剣で斬りかかってきた。……それでやむなく私たち二人でエリムレアを返り討ちにしたという流れだ」
「嘘だ……」
キージェの声に涙の色が混ざる。
「嘘だ!」
大きな音を立てて、キージェの拳がテーブルに打ち付けられた。
……キージェの反応で予想以上に胸が張り裂けそう。
「これは事実だ」
きっぱりと言い切るピルーコ指揮官の声に、一切の濁りがない。
これで、私は……。
「……ピルーコ指揮官、お時間を頂きありがとうございました」
苛立っている時の、キージェの低い声。
でも、声は震えている。
「さあ、帰るぞ」
「このことは近々公表される。事実としてな」
私にも無慈悲に響くピルーコ指揮官の言葉。
3人は無言で立ち上がり、ドアへと歩いていく。
私はそれを目で追う。
「招集はまだだが、既に公示はされた。制圧戦を前にしての自警団離反は謀反と見做される。3人とも行動には気を付けるように」
立ち止まり、背を向けたままキージェが言う。
「……そんなことぐらい、分かってます」
そして、また歩き出すキージェと、それに続くグラン。
最後尾を歩くアイリスが……膝から崩れ落ちて床に手をついた。
長い髪が床に垂れる。
「エリが……、なんで? ……どうして」
いつもしっかり者だと思っていたアイリスが、こんな姿を見せるなんて。
「キュスト隊長……なんでこんなこと……」
「アイリス、立て。しっかりしろ」
グランがアイリスの腕を掴み、抱え上げるように部屋を後にした。
彼らのことだから、これから人に聞かれないところで話し合いをするかもしれない。
『本当に、どうなってしまうんだろう……これから』
「くそっ!」
廊下からキージェの大きな声が聞こえた。
その怒りは、ピルーコ指揮官へ? それとも、私へ……?
いつもお読みくださり、ありがとうございます。
おかげさまで7,000PV突破しました。
土日で旅行に行って、妄想に必要な種をたくさん拾ってきました。




