試練
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「お前の私物は、一旦指揮官室に持ち込んである。頃合いを見計らって必要な物を持って行け」
「ありがとうございます!」
「新しい剣が来るまでは、こいつがお前の相棒だ」
キュスト隊長は、手近にあった大剣を私に手渡した。
少し古びた正規軍の大剣を受け取る。
「ナズナ、その姿、なかなか様になってるぞ」
「え、そうですか?」
そんなこと言われたら鏡を見たくなる……!
「父親の形見の古びた甲冑を持ち出して正規軍に志願した、まだ何もできない新兵そのものだ」
そっちかぁ。
でも、確かに味方を欺くというのなら、強そうに見えてはいけない。
「あ。この甲冑はレイリーさんの物ですが、大丈夫ですか?」
「あいつのことだ。剣のついでに甲冑も揃えてくるだろう。サイズの調整は追々すればいい」
キュスト隊長は大剣を担ぎ、闘技場の中央へと向かった。
「さあ、これから時間の許す限り、ぶっ通しで稽古だ」
「……はい!」
「食事は1日3回、俺達はここで運ばれてきたものを食べる。正直時間があまりないから、寝る時と用を足す時以外はここから出られないと思ってくれ」
「……わかりました」
「さぁ、もう考えている暇はない。始めるぞ」
「はい!」
最初はひたすら素振り。
今までと全く違う剣の扱いではあったけれど、不思議と自然に体が動く。
……もしかして、体が覚えてるのだろうか。
この世界に来たばかりの頃に比べたら、これまでのキュスト隊長の指導のお陰で、戦い方のイメージはしやすい。
「末裔は魔法が使えない代わりに、剣技ではこのヨーンの剣士を上回る」
「……武器をダメにしてしまうってことですものね」
ドーヴァも、魔導士の援護なしでは絶対に勝てないと言っていた。
「いや、ディプリミスができるのは、前線に出てくるような者の中でも稀だ」
「そうなんですか」
「だが、お前は軍用地でいとも容易くやってのけたそうじゃないか」
「容易く……」
うーん、必死だったからなぁ……。
「あ、そういえば持ち方が悪いと野次を飛ばされて、それでガイダのグリップ痕の通りに握ったんです」
「……それはさっき教えたように正しいポジションで、俺も同じ持ち方だ」
「むー…………」
「とにかく、お前はディプリミスを完璧に使いこなせるようになれ。ピルーコは、お前が誰も殺したくないということは理解している」
え……
「そうだったんですね」
「……俺も先日は油断してディプリミスを喰らった。実際、頼りの武器がなくなれば戦場では絶望しかない」
「絶望ですか……」
「殺さずして相手を殺したも同然にできるんだ。ディプリミスの使い手になれば、それが可能だ」
司令本部の地下にあるこの闘技場は、レイリーさんがカギをかけてしまうので部外者が入ってくることは無い。
私はピルーコ指揮官の身内として、初陣である制圧戦までに力をつけるための厳しい訓練を受けているということになっている。
実際、厳しい訓練には間違いないのだけど、この地下闘技場にいる間だけはキュスト隊長とは普段通りに話ができるのがまだ救いだった。
ピルーコ指揮官、キュスト隊長、そしてレイリーさん以外には、私の素性は隠し通す。ここにいる時以外は、誰に対しても今の役柄を演じ続けたほうが良い。
味方を欺く必要があるということは、内部にはまだ裏切り者がいるからだし。
途中でレイリーさんが戻って来て、回復魔法をかけてくれたおかげで疲労はすぐに消えて行った。
食事を挟んでからは打ち合いの稽古になり、私は一通りの基本の動きを教わった。




