二度目の転生
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
「しばらく嫌な噂が耳に入るだろうが、そこはどうか耐えて欲しい」
そうだ、問題はそこ。風評被害なんてネットの世界だけで十分なのに。
……いや、耐えなきゃ。
「それで、これから私は何をすれば良いんですか」
「この後は、身支度を行う」
「身支度?」
「正規軍の兵士にふさわしい格好をしてもらう」
あぁ、そうだ。冒険者の集まりである自警団と違って、正規軍には揃いの甲冑があるんだった。
「血まみれのままでは気分も悪いだろう。そこに浴室がある。体を洗ったらこの服に着替えて来てくれ」
この部屋、浴室までついてるんだ……。
「わかりました」
闘技場で受けた首の傷は塞がっているけど、血は服の中まで浸み込んでいて、作ったばかりの革の巾着袋も変色していた。
キージェがくれたベリタント鉱石……。
『キージェ、私……ついに死んじゃったよ』
いくら作戦だからって、いきなり斬りつけるって本当に横暴過ぎる。痛みが無かったのは幸いだったけれど、ほんとに賠償物だよ!
「……はぁ」
もう生きているのか死んでいるのかさえ、曖昧な存在になってしまった。
またね、って言って皆と別れたのが遠い昔みたい。
「会いたいな……」
今後の皆との関係を考えると、心に重たい石を置かれたようで、沈んでしまいそう……。
久しぶりの一人で入る湯舟なのに、全然嬉しくない。
……でも、後には引けない。引いたら、きっとそこで本当に死んでしまう。
何より、アイリスのためだ! 私はそのためにこの件を承諾した。
「強くならなきゃ……!」
涙と体を拭いて、受け取った服に袖を通す。
戦闘用の装備の下に着用するいつものゴワゴワした地味な服は、エリムレアの私物と違ってやや明るいグレーで、内側の肌触りはとても良かった。
『良い生地を使ってるのかな』
浴室から出ると、目の前にいたのは古びた甲冑に身を包んだ冒険者らしき人だった。
「えっと……」
「初めまして、レイリー・アルンと申します」
女性の声!
「彼女は、私付きの治癒士で錬金術師だ。先ほど闘技場で、君の首の傷を塞いだのも彼女だ。安心して良い」
レイリーさんが兜を脱ぐと、青い瞳の気品がある女性の顔が現れた。
年の頃は20代半ばぐらいだろうか。滑り落ちた髪は銀髪で、とても繊細で神秘的な光を放っていた。
「レイリーはナズナのフリをして入ってきた。つまり替え玉ってやつだな」
……なるほど、だから顔を隠していたのね。
私が載せられてきた担架も、床に垂れていた血も、綺麗に片づけられていて、部屋の隅に小さな箱が置かれていた。
「その箱にはエリムレアの灰が入っている。明日、イェットに引き渡す」
それで、世間にエリムレアが死んだと公表されるのだろう。
『作戦のためとはいえ、本当にすごいことするなぁ……』
でも……エリムレアが死んだという証のあの灰は、一体どうなるの?
遺族に引き渡し?
それより、遺族と呼べる人はいるのだろうか。
エリムレアはカザンのさらに隣の国から来たと、キージェは言っていたけれど、どこかに家族はいるのだろうか。
「では、失礼します」
レイリーさんは甲冑を脱ぐとエプロンを身に纏った。
女性にしては背が高く、私と入れ替わるのにはちょうど都合が良かったのだろうか。
「ナズナ様のお姿を変えるよう、仰せつかっております。少しの間、髪をいじりますので我慢してください」
用意された椅子に腰かけると、レイリーさんは私の髪を触り始めた。
「少々幼い風にしてくれると、説得力がでるだろう」
「承知しました。……それでは」
アッシュブロンドの少しクセのある無造作ヘアとも呼べるこの髪型、この顔に似合っていて私は好きなんだけどな。どのくらい切り詰めちゃうんだろう。
洗ったばかりの髪に薬品を振りかけ、櫛で丁寧に梳いていく。
「お色はこのくらいで良いでしょうか」
「そうだな」
「かしこまりました」
その次にまた別の薬品を振りかけてまた櫛で梳いていく。
ハサミの音が響いて、しばらく後に見せられた鏡には、ピルーコ指揮官と同じ黒髪のストレートヘアの姿があった。
『やだ……ちょっと可愛いかも』
少し幼く見えるけどとても似合っている。
さすがイケメンだなあ。顔の造形が良いから本当に何でも似合う。
「ナズナ、大丈夫か?」
「え? あ、はい!」
いけない、つい鏡に夢中に。
「どうみてもお坊ちゃまだな。私の甥として自然でいいだろう」
「あの……これで私は何をすれば?」
「来週、北東において、大規模制圧戦を装った作戦を予定している。ナズナはそれまでにキュストから両手剣の扱いを叩きこんでもらい、ディプリミスの技に磨きをかけろ」
「え……?」
「早速だが、ナズナの準備が整い次第、地下の闘技場に行ってもらう」
急すぎるこの計画、本当に上手くいくのだろうか……。
「北東において、末裔たちの後ろに付いているのはロジオン公国だ。南部と違い、ロジオン公国と北東の末裔は豪傑ぞろいで手強い相手であるが、治癒士は非常に少ない」
「もしかして治癒士を拉致しているのは、北東の末裔とロジオン公国ということですか?」
「私はそう推察している。ロジオン公国は、古来からメーニスの一族が暮らしていた地域だ。治癒士の発祥の地でもあるのに、内戦によってその数は激減し、ロジオン公国のメーニスは既に絶えている」
え……?
「あの、アイリスの故郷は……ロジオン公国ですか?」
「本人は、幼い頃の記憶はないらしいが、恐らく……」
じゃあ、アイリスの家族は……?
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