代償
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
私はこの世界での当たり前のことを、全く分かっていない。
急に一人放り出されたみたいに不安な気持ちになった。
ううん、私は本当はこの世界で異質な人間。一人で当たり前なんだ。
ただ、エリムレアが遺した人たちに、救われて甘えていただけ……。
あの騒ぎをずっと見ていた鍛冶屋のファバーさんは、自身も末裔の血を引いていると言い、エリムレアの剣の修理は快く請け負ってくれた。
「ここでは末裔との戦で命を落とした人の仲間や同僚、そして家族もたくさん暮らしているからね。大事なものがこの町にあるのなら、お前さんは両手剣は使わないほうが良い」
「……そう……ですよね」
「二刀流でやってきたのは、末裔であることを隠してのことかな?」
「え?」
「末裔の剣砕は、両手剣のみで発揮される奥義なんだよ」
「そうなんですか……」
「早く記憶が戻るように、私もカルツにお祈りしておくよ」
囁くようにそう言って、ウィンクしたファバーさんの優しい笑顔を思い出す。
それでも、ドーヴァの言葉が胸に刺さって、作業が手に付かない。
「末裔とヨーンの人たちが友好関係になるのは、難しいのかな……」
私は文字通り、頭を抱えた。
政府に当てた報告書を判断するのは、もちろん政府だ。
それに、ドーヴァが末裔の私の事をどう思っているのかも、私がどんなに考えたところで分かるはずがない。
どちらも私が一人で悩んでいても仕方がないし、今は止まっているより、とにかく無心になって手を動かしていた方が良い。
「よし! 切り替えて行こう!」
もう一度水浴びをして、淹れ直したお茶を一口飲んだ。
この世界に来て3体目のネコチャン。ガラスの目を付けたらもっと猫っぽくなるはず。
みんなが帰るまで、私はしっかり作品に向き合って、もっと技術を磨いておこう。
自分が出来ることをしよう。
私の手は、誰かを笑顔にするために、ぬいぐるみを生み出すためにあるから。
「あっ」
机の上のランタンが消えたことで、我に返ると時刻は14時だった。
「やばっ! 訓練施設に行かなきゃ!」
新しい光源結晶に取り換え、すっかり冷めたお茶を飲み干す。
ガイダの大剣は悩んだ末、キュスト隊長に使ってもらうために持って行くことにした。
『受付で片手剣を借りよう……』
戦闘用の身支度を整えて玄関の鏡を見ると、元気のないエリムレアがいた。
「ごめん。強くならなきゃ……ダメだよね」
アイリスがしてくれたように、指で頬を持ち上げて、無理やり笑って玄関を開けた。
家を出て職人街の大通りに出ると、さっきよりも多くの冒険者や正規軍の兵士が行き交っていた。
皆、本格的に戦支度だ……。
『みんなを見送る時なんか、永遠に来なければいいのに……』
どうしても、そう思ってしまう。
よく訓練施設で見かける数人の冒険者たちが訓練施設の方から歩いて来た。
「せっかく肩慣らししようと思っていたのにな」
「まったくだ……」
いつもと少し様子が違うなと思っていたら、訓練施設から続々と人が出てくるのが見える。
「今日は演習でもやるのか?」
「そんな話聞いてないぞ」
最後に歩いてきたのはフェンナだった。
「フェンナ、何かあったの?」
「あ、エリ! 久しぶり! 急に正規軍の人がやってきて、俺達みんな追い出されたんだ」
え……、キュスト隊長もいるはずだけど……?
「ありがと! またね!」
「あ、今行っても入れないっすよ!」
走って訓練施設まで行くと、入り口の前に何人か正規軍の兵士が立っていて、数名の野次馬もいた。
……何か事件でもあったのかな。
「あの、キュスト隊長は?」
「お前は……エリムレアか?」
「そうですけど……」
「入れ」
木製の大きなドアを開けると、無人の受付の前にいたのは、キュスト隊長とピルーコ指揮官だった。
「やぁ、エリムレア。待っていたよ」
「え? 私をですか?」
ピルーコ指揮官が?
「エリ、話がある。闘技場へ行くぞ」
静まり返って、異質な雰囲気に包まれている訓練施設を歩いていく。
『ピルーコ指揮官が出てきたってことは、自警団へ戻れと言う事だと思うけど……』
2人は闘技場の真ん中で止まり、ピルーコ指揮官が剣を抜きながら振り返った。
「エリムレア、君にはここで死んでもらう」
え?
血まみれになった体を拘束されて担架に乗せられ、ヨーンの象徴的な空を眺めながら運ばれている。
周囲からはザワザワと人々の声が聞こえる。
「なぁ、あれ……エリムレアじゃないか?」
「嘘だろ……?」
「いや、エリムレアだ……」
「下がれ、道を開けろ」
キュスト隊長の声が響き、頭まで毛布を掛けられ、目の前は真っ暗になった。
私はどこかへ運ばれて行く。
どこかへ……
『一体、どうしてこんなことに……』
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