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死にかけ女と猫のぬいぐるみ  作者: 明星 志
第4章 犠牲の灰
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ディプリミス

※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています

「なんだ、手合わせか?」

「そうみたいだな」

「いや、喧嘩みたいだぞ」

「防具も付けずによくやるなぁ」

「初心者同士じゃないか?」

「いや、あれってエリムレアだろ?」

「あいつは二刀流だろ」

「あ、じゃあ違うか」


 幾度となく剣を交えるうちに周りに人だかりができていた。




 練習台になってもらうどころか、慣れない剣のせいもあって焦りもでてきた。


『初めてキュスト隊長と手合わせした時って、こんなに疲れたっけ……?』


 何かが間違っているのかもしれない。でも、何なのかが分からない。


 今までの人生で、両手で竹刀すら振り回したことがないから見当もつかない……。


 キュスト隊長の構えと何が違う?


 何がダメ?


 どうしよう、このまま私の体力が尽きたら負けちゃう。


 周囲(まわり)の指摘通り防具もろくに身に着けていないから、その時はきっと大怪我してしまう。また死にかけるなんて恥ずかしすぎる。




「なんだあの黒い剣、カッコいいな」

「お、本当だ」


 周囲がこの剣に注目している。


「剣だけは強そうだなぁ」

「持ち方がなってないな!」

「スモノントの兄ちゃんの方が、ちょびっとばかし有利だよな」


 え……?


「そうだな! ほんのちょっとな!」

「ワハハハ 確かにな!」


 そうか……そういうことか。


「うるせぇな! 邪魔するな!」


 相手の男は揶揄(からか)われたことに腹を立てて、野次馬に対して怒鳴り返す。


 どうすればいい……この男には絶対勝ちたいのに!


「うるせえとはなんだ!」

「そうだそうだ!」


「見せもんじゃねえ! さっさとどっかいけ!」


 男の視線と意識が外野に行った隙に、私は自分の手元を見る。


『これは……!』


 使い込まれた剣だからこそ、真っ黒になるほど染みついた手の痕が、握り方を示してくれていた。


 ありがとう、ガイダ!


 急に肩の力が抜けたこともあって、構え直した剣はとても軽く感じた。


「あーッ! お前らが邪魔するからだぞ!」


 相手の男が私の構えを見て、明らかに焦りの色を見せた。


「お、いいぞ! 黒剣の兄ちゃん!」

「そんな腰抜けなんかやっちまえ!」


 これだ! これが正しい持ち方だ!


「もう一度、かかってきて」

「なんだと、この野郎……ぶっ殺すぞ!」


 また同じように斬りかかってくる男。


 受け止める力は、今までより格段に少なく済んだ。


「アイリスのためにも、私は負けるわけにはいかない!」


 体の血が沸き立つ不思議な感覚。


「ヒィッ! 参った!」


 男は剣を落として尻もちをついた。


「うぉ……」

「なんだ……、あいつ」


 周囲が騒然となって、私は初めて相手の男の剣を斬り落としていたことに気が付いた。


「ヒィィィ 許してくれ! アイリスのことは謝るから!」


「アイリスだけじゃない。キージェやグランのことも、2度とあんな風に言わないと約束してください!」

「わ、わかった。約束するから」


 それだけ言い終わると、柄と刀身を拾って逃げて行った。


 そして見物人たちは舌打ちをして、足早に立ち去って行く。


『見世物じゃないんだけどな……』


 ま、いいか。勝ったし!




 早く鍛冶屋さんに行って、用事を済ませなきゃ。


 芝生の入り口に置いていたホルダーと、エリムレアの剣が入った袋を拾い上げる。


「エリ……!」


 どこかで聞いた声。


「エリ、一体どういうこと?!」


 駆け寄ってきたのは、ドーヴァだった。


「あ、ちょっと言いがかり付けられちゃってね……」

「違う。あなた、今何をしたか分かってるの?」

「何って……?」

剣砕(ディプリミス)

「ディプ……?」

「古ヨーンの言葉で『剣の破砕』……末裔が使う技よ」


 え……

 まずい、まずいまずいまずい!


「えっと、これはその……末裔の人の大剣だから……それで多分」

「貸して!」


 ドーヴァは私の手からガイダの剣を取り、代わりに自身が持っていた剣を私に寄越した。


「今、エリがやったことと同じことをするから斬りかかって来て。あなたの力を利用するから思いっきりやって良い」


「えぇ? でも」

「大丈夫だから!」


 ドーヴァの剣で、あの男と同じように斜めに振り下ろす。


 大きな金属音を響かせて剣が交差する。


『わ……』


 さっきの男よりも、明らかにドーヴァの力の方が強い。


「エリ、そのまま絶対に動かないでね。危ないから」

「わ、分かった」


 ドーヴァが、私があの男にしたように交差したところを支点にして剣の向きを切り替えると、私の首の手前でその剣の動きを止めた。


「本来はこの技の守攻の反転は、こんな感じで一連の動作を終えるの。両手剣の初心者が最初に覚える簡単な動作よ」


 そして、私が持つドーヴァの剣には変化は見られないままだった。


「これで分かったでしょ? この黒い剣を使っても、どんなに力いっぱいやっても、あたしじゃ無理なの。大剣をあんなに簡単に斬れるのは末裔しかいない」

「ごめん……」

「……あたしもね、デジエントの国境で剣を斬られて負傷した」

「そうだったんだ」


 ふぅとため息をついて、ドーヴァは剣を納めた。


「ドーヴァって、剣士だったんだね」

「うん。でも前線に出てくるような末裔(あっち)の剣士には、私たちは魔導士の援護なしでは絶対に勝てない。だから、(グラン)からは盾や弓も使えるようになれって言われてる」

「そっか……かっこ良いのに、もったいないね」

「へ?」

「あ、ドーヴァが両手剣を構えた姿、凛としてかっこ良いなって思ったから」

「……可愛いって言われなきゃ、ヨーンの女は落ちないよ」

「あ……ごめん」


 厩舎で抱き着いて来た時のドーヴァは本当に可愛かったけれど、今日のドーヴァは本当にカッコ良かった。


「じゃあまたね、ドーヴァ」

「エリ……」

「ん?」

「……両手剣は、もう二度と使わないで」

「え?」

「あなたを嫌いになりたくないから。……だから、他人事(ひとごと)みたいな言い方も……やめて」


 それだけ言って、ドーヴァは職人街を走って行った。

余談ですが、作者は日本刀(模造刀)を構えるとテンション上がります。



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