初めての両手剣
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
店の軒先に「ファバー工房」という看板。剣がクロスしている意匠が、何とも異世界っぽい。
「ごめんください」
ドアを開けて中に入ると、すでに先客が1人。
「いらっしゃい。ちょっとそこに座って待ってておくれ」
壁際に長椅子があった。
腰に下げるにしても背中に背負うにしても、剣を持ち歩く時はこういう時にちょっと面倒だなぁ。
ひとまずガイダの剣のホルダーについたベルトを短く縛り、肩に立てかけるようにして腰かけた。
「いやぁ、新しい剣ってのはいいもんだねぇ」
先客の男は、ちょうど新調したと思しき剣を受け取ったばかりの様子。
「満足かい?」
「あぁ、ありがとう。スモノントの剣は、一度持ってみたかったんだ」
「硬さと切れ味は保障するよ」
男はその白銀色の剣を鞘に納め、カウンターに硬貨の入った袋をドサっと置いた。
店主はその袋を開けて勘定をしている。
「17万ツバンか。……お釣りが2千ツバンだな。それじゃ、用意してくるから待ってておくれ」
店主はそう言い残して店の奥へと入って行った。
『スモノントの剣って言ってたけど、そんなに高いんだ……』
先客の男が店内を見回し、目が合うとこちらにやってきた。
「あぁ、エリじゃないか。久しぶりだな」
……私とは初対面の冒険者と思われる男が、親し気に「エリ」と呼んだ。
「あれからどうした、記憶は戻ったか?」
そう言いながら隣に座り、なれなれしく私の肩に腕を回す。
ヒィィ! 無理! 無理無理! 見知らぬ男からこんな事されるとか、絶対無理!
「あの……、すみません。どちら様?」
その腕を退けながら、尋ねると……
「……まだ思い出せないんだ?」
真面目そうに話していた男がニヤリと笑う。
うっ……なんだかめんどくさそうな人。
これは対応を間違えたかも。黙ったままでいれば良かったかな。
「ごめんなさい。……記憶はたぶん戻らないです」
「……アイリスにも治せない病気か」
というか、病気じゃないし。
「役に立たないヤツだなって思ってるなら、アイリスをクビにしてくれないか?」
「は?」
「ウチの治癒士が死んじまったんだよ。ウチらで引き取るぜ」
黙って聞いていれば勝手な事を。
「さっきから何言って――」
「あー、やっぱ汚い浮浪児みたいな治癒士はウチでも要らねーわ。戦力外でクビになったお前にピッタリだもんな」
いやらしく歪んだ顔は、本当に大嫌いだ。
「浮浪児と馬鹿魔導士と記憶喪失の組み合わせか、グランも物好きだな」
この男……!
「私の仲間を侮辱しないでください!」
私は男を押しのけ立ち上がる。
「んだと?! 本当の事じゃねえか!」
そう言って男も立ち上がり、真新しいスモノントの両手剣を構えた。
『やばい……』
私、こっちにきてから煽り耐性なくなっちゃったな……。
「こらぁ! 喧嘩なら外でやってくれ!」
「す、すみません」
「すぐそこの軍用地へ行け! ここいらの店を少しでも傷つけたら役所に突き出すからな!」
「オヤジさんのいう通りだな。行くぞ」
成り行きで決闘みたいなことになっちゃった……。
「早く来いよ。勝負だ」
言われるがまま外に出て、軍用地の芝生に入る。
しかも両手剣なんか使った事ないし……本当にどうしよう。
『ううん、みんなを侮辱したことは絶対に許さない!』
落ち着いて……。両手剣はキュスト隊長の剣技を見てきたし、ガイダとの戦闘でも絶対に得るものはあったはずだ。
「エリ、お前二刀流だったよな? それも忘れちまったのか?」
これ以上挑発には乗らないように。とにかく落ち着いて。
ガイダの剣を構えながらエリムレアの姿を映す。
『力を……貸して!』
慣れない重さの両手剣のグリップをしっかりと握る。
「殺しはしないから、安心しな」
ニヤリと笑いながら間合いを詰めてきた相手が、真正面に剣を振り下ろす。
素早く受け止め、相手の剣を打ち払う。
『力はそんなに強くなさそう……でも、油断は禁物だ』
キュスト隊長は、両手剣は武器であり盾の役割も果たすと言っていた。
攻撃をすれば相手はそれに対応せざるを得ない。今の私がそうしたように。
でも、受け止めた刃の交差する点を支点にして、向きを変えて攻撃に反転することができる。キュスト隊長からは油断をするなと何度もそれを実演してくれていたけど……、その動きを、今ここでいきなりこの私ができるかどうか。
「くらえ!」
相手のフットワークはとても軽く、何度もしつこく斬りかかってくる。
こちらの刀身が長い分、小回りが利かない。受け止めて打ち払うのが精いっぱいだ。
もし、私がいつもの二刀流だったなら、相手を上回る速さで交わして、お腹に柄頭で一発食らわしてしまえば、もう勝負はついていたかもしれないのに。
まだ手に馴染まないグリップを度々握り直す。
相手は単調な攻撃しか打って来ないし、力は弱い。それなら、私は刃の向きを切り替えて攻撃へ反転させることに集中しよう。
この男に……練習台になってもらう!
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