ベリタントと共に
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
皆を見送って、歯を磨いて顔を洗ってベッドに横になった。
久しぶりの一人の夜。静かすぎて眠れる気がしなくて、持ち込んでいた本を開いた。
〝ワドレン……遺跡や洞窟の地下に住む毛の長い生物。毒はない。体は小さくて肉は食べる箇所が無い。毛は防寒着や靴の中敷きに使われる〟
羊のような動物を想像していたけれど、挿し絵は毛の伸びたプードルみたい!
「肉は食べる箇所がない、となると、この毛のためにこの子たちは狩られてるということか……」
プッシー生地の値段は安かったから、捕まえるのも簡単でたくさん生息しているってことなのかもだけど……
「毛のためだけに殺すのは、なんだか嫌だな」
そして生息しているのは、かなり北の方。王都に近い禁足地や洞窟だった。
「えぇ……寒そう」
寒い地域に住んでるからこそ、この毛なんだろうけれど……慣れない土地な上に寒冷地に一人で行くなんて、難易度が高い。それに先日の遠征先である南ヨーンの2倍以上はある距離だ。
「私の個人的な用事のために、探索業務を休ませてまで皆を付き合わせることはできないな……」
ワドレン……、家畜化できないかな。
この世界では牧畜ってやってるのかな。
少なくともヨーンの市街地や周辺には、畑はあっても牧場はない。
肉は、一番美味しいスモノチがそこかしこに生息しているし、ラニゴも1頭倒せばかなりの肉の量だし、家畜化する必要がない……?
えーっと……生物学といえば……
「カーナ先生!」
カーナ先生に相談してみようかな。
あ、いや待って。まずは牧畜文化があるかとかキージェに聞いてみようかな……。
……図書館とかないのだろうか。一応学術都市でもあるわけだし。
「あぁ、知りたいことが日に日に多くなる……」
それは、この世界に少しずつ馴染んでいる証拠かもしれない。何も分からない時は何から尋ねて良いのかも分からなかったから……。
いつの間にか眠ってしまって、目が覚めると明け時を過ぎた頃だった。
今日は探索に行かず、それぞれが別行動の日になっていた。
訓練施設では、武器は受付でレンタルできるけど、外に出るには自分のものが必ず要る。
鍛冶屋さんへ行って、剣の修理をお願いして、もし即納品があれば探索用の剣を買おう。
遠征に持って行った乾パンの残りとお茶で簡単な朝食を済ませて、水浴びをして身支度を整える。
ひとまず鍛冶屋さんが開くまでは、新しいネコチャンを作り直す予定だったけれど、その前に一つやることができた。
まだ開店前のルートンさんの工房に行くと、住み込みの職人さんが皮を鞣しているところだった。
「おはよう、いつも早いですね」
「おはようございます! って、エリムレアさんどうしたんですか」
「えっと、薄くて柔らかい革の端切れと、革紐が欲しいんです」
「あぁ、それなら好きなのを持って行って!」
「ありがとう。でも、ちゃんとお代は入れておきますね」
帳簿に記入して代金を箱に入れて、すぐに家に戻る。
こういう時、工房の裏に住んでいるのは本当にありがたいなぁ。
革で小さい巾着袋を作り、それに革紐を通して首から下げられるようにし、キージェからもらったベリタント鉱石を入れた。
これなら、お守りとしてしっかり身に着けていられる!
ネコチャンは既に型紙はあるし、ネコチャンを縫いながら、頭の中でラニゴのぬいぐるみのデザインを考える。
ラニゴの毛足は長いし、毛皮で作るなら相応の大きさにしないと毛に本体が埋もれてしまう。
耳まで含めて50センチ以上が理想の大きさだ。
切りの良いところで手を休めて時計を見れば、9時少し前だった。
「あ、鍛冶屋さんがそろそろ開く!」
グリップの革がボロボロになっているガイダの大剣も、修理してもらうために持って行くことにした。
鍛冶屋さんは職人街の中央通り沿いで、市場が開かれていた正規軍の用地のすぐ近く。
粉々になった剣が修理できるのは驚きだけれど、この世界でのもの作りにとても興味がでてきた。
『もし、材料の在庫が無ければ、グランがくれたこの鉱石をありがたく使わせてもらおう』
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