贈り物
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
「そうだ、エリ。ガラス工房の件だが、北東の制圧戦が終わってからでいいか?」
「うん、もちろん」
本当はすぐにでも行きたいし、制圧戦なんて永遠に始まらなくていいと思っているのに。
「ついに公示があった」
「もしかして、すぐに出発……?」
「いや、事前に入念な準備が必要な場合は公示がある。その上で詳細が決まったら招集だ」
「デジエントの時は、緊急招集だったからな」
「そっか……」
「でも、今回は国境守備云々とかじゃないし、ちょっと規模が大きい制圧戦だからさ」
「楽しみに待っててくれ。ちゃんと必ず帰ってくるから」
グラン、死亡フラグなんてやめて……
「なんだよ、泣きそうな顔して」
「大丈夫。僕たち、必ずちゃんと戻るから!」
「うん……」
「それと、お前にこれを持って来たんだ」
ゴトと音を立ててグランがテーブルに置いたのは、白いゴツゴツした石だった。
「これは?」
「スモノントだ」
「スモモ……?」
「スモノチの牙に似た色だからスモノント。恐らくお前の剣の材料になっている鉱石だ。修理の時に鍛冶屋に渡すと良い」
「良いの? 大事な物じゃないの?」
「いや、そこまで珍しいものではない。ただ、このご時世だし、不足していたらすぐに修理もできないだろう」
そっか……、みんなが戦支度をしているから。
「グラン、ありがとう!」
グランの握りこぶしよりも大きな鉱石は、持ってみると意外にも軽かった。確かにエリムレアの剣はとても軽いし、原料としての見立ては正しそう。
「いや、最優先で報告書を書かせたお詫びも入ってる。先に剣を修理に出した方が良かったよな」
「よし。じゃあ、俺からはこれだ」
今度は小さい赤い鉱石。
「キージェ、これってベリタント?」
「アイリス、良く知ってるな」
「僕の指輪の色と似てたから」
そう言って、アイリスが首にかかっている紐を手繰ると、服の中から赤い金属の小さな指輪が出てきた。
「この鉱石は、古ヨーンの時代からお守りとして重宝されているそうだ。何度も大怪我をするから、お前に持たせてやろうと思って」
……エリムレアが古ヨーンの末裔だからなのかな。
「アイリスみたいに指輪なんかに加工してもらうといいかもしれないな」
「あ、う……うん」
いきなり指輪の状態で渡されなくて良かったというか、残念だったというか。
「時間があったら彫金工房に行きたかったんだが、さすがに今は無理だな」
ヒョエ……。元カレとすら指輪を作りに行ったことなんてないのに。
「そ、それよりキージェ、私がもらっても本当に良いの? そんな意味があるものなのに」
「エリ、キージェの気持ちだし、何も言わずにもらっておけ」
「うんうん!」
「……わかった。こんなに素敵な石をありがとう、キージェ!」
「じゃあ、僕からはこれ!」
小さなガラスの器には、薄紅色の軟膏が入っていた。
「鎮痛剤入りの傷薬だよ。エリがケガをした時はもちろんだけど、もし探索に同行する冒険者がケガをしたら、使ってあげてね」
「……ありがとう、アイリス!」
本当なら、私が皆の安全を祈願して、こういった物を贈る側なのに。
「さ、もっと飲もうぜ!」
これじゃ打ち上げというより、壮行会みたい。それも留守番の私に向けての……。
前のデジエント戦へ行く皆を見送った時よりも、距離が近くなった分本当に辛い。
「エリ、そんな顔するな」
「そうだよ、だから」
アイリスが両頬を指で押し上げて、スマイルを作ってみせる。
「うん、分かった。皆強いし、信じて待ってる」
「そうだよ、僕たち名指しで特命の依頼が来たくらいだし!」
「あぁ、確かにな!」
お酒も料理も全て綺麗に平らげ、みんなも帰り支度。
「酒樽は、俺が責任もって返しておくよ」
「え、良いの? 明日私が……」
「俺が一番飲んだしな!」
いつもより上機嫌のグランがうんうんと頷きながら言った。
「ありがとう。じゃあ気を付けてね」
「あ、ねぇねぇ、エリ! ウィンウィンってどういう意味?」
「えっと、〝勝つと勝つ〟って意味だよ」
win&winの直訳で言ってしまったけど、ビジネス用語の意味で言った方が良かったかな。
「どういうこと?」
「さっきの話的に、お互いに利益があるってことか?」
「そう! それだよキージェ」
「へぇ……エリの夢は本当に面白いね!」
「ウィンウィンか、良いな」
「俺達もウィンウィンだな」
「またねエリ、ウィンウィン!」
「またね!」
笑いながら帰って行った。
酔っている時の皆は、特に陽気でいいなぁ。




