打ち上げ
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
遠征の出発前、私の家にみんなで集まって食事をしたことが、とても快適だったので、今夜は遠征の打ち上げをこの家でやることになっていた。
「荷物は片付けたし、お皿は買ってきたし、簡単な料理は作れたし。……あとはみんながお酒や追加の料理を買って来てくれるから――」
「エリ! おまたせ!」
「いらっしゃい!」
アイリスとグランが入ってきた。
「グラン、今日の酒樽……大きくない?」
「こないだは遠征の前日だったからな!」
そう言って、テーブルのすぐわきに酒樽を置いた。
アイリスの手には、いつもの酒場〝山の蛍亭〟で作ってもらった串焼きの乗ったお皿。
「あっ、スモノチの串焼き! 嬉しい!」
「美味しいもんね!」
「ねー! ……って、キージェは?」
「一度部屋に戻ったよ。我慢できなかったら先に始めてくれって」
「そう……」
着席してもらって、料理を皿に盛っているところでキージェが入ってきた。
「待たせたな」
「あ、意外と早かったね」
「あぁ、探し物がすぐに見つかったから」
「キージェの部屋だと、失くした物を見つけるの大変そうだよね」
「俺は探し物はするが、失くし物はしないぞ」
「物は言い様だな」
「あはは、本当に!」
「少し本が多いだけだろ。ああ見えて何がどこにあるのか分かってるんだぞ」
オカンタイプのイケメンは、自分の面倒もちゃんと見れるのはさすがと言う感じ。
「少しって量じゃないじゃん!」
「寄宿舎の個室に収まる程度だから、少しだ」
キージェは本当に本が好きなんだなあ。
次に市場に本屋さんが来る時はおススメの本を教えてもらおうかな。
私たちは料理とお酒を楽しみながら、冒険の想い出を振り返った。
アイリスが捕ったキャンピィがとにかく大きかったこと。
私の裏声にみんながびっくりしたこと。
末裔の子供たちの笑顔が可愛いかったこと。
遺跡の入り口の荘厳ともいえる結晶の美しさのこと。
そして……遺跡で起きた事件のこと。
出発前と同じく、誰も欠けることなく、こうしてまた一緒にいられることが、本当に幸せだと思った。
ヨーンで暮らす冒険者や自警団、正規軍の皆は、日々のこの時間が生きていることだと実感できて、幸せに感じられる時間なのかもしれない。
……ヨーンの人々に、ぬいぐるみを愛でる余裕は……あるだろうか。
「そういや、さっき俺と入れ違いでシャルが寄宿舎に帰ってきたぞ」
「シャルが?」
「あぁ。あの時は世話になったと、改めて礼を言われた」
「歩けてた……?」
「いや、さすがに仲間に支えてもらっていたな。明日、義足を作りに正規軍の医療部に行くって言ってた」
アイリスが腐敗したシャルの片足を持ち帰ったけど、あれはどうしたのだろう。
「骨があれば、ピッタリの物を作ってくれるだろうし、ひとまず安心だね」
「あ、だからあの片足も持って帰ったんだ」
「そういう事!」
この世界は本当に不思議。
日本で便利だなって思ってた技術はないけれど、それ以上の技術もある。骨から義足が作れるならば、シャルも再び冒険者として復帰できるかもしれない。
……でも、あの時の苦しみに満ちたシャルの顔を、私は忘れることは無いだろう。
次回以降の探索は、どんなに近場でも、どんなに簡単そうなものであっても、緊急事態が起こり得るということを忘れないようにしなければ……。
「みんな……本当に無事で良かった。そして、私の事も助けてくれてありがとう」
「どうした、エリ……」
「言葉通りだよ。今回の遠征で改めてそう思った」
「そうだね……僕も拉致事件の時、助けてくれて嬉しかったよ」
「改まると気持ちが悪いぞ」
「でもな、キージェ。伝えたいと思った時に伝えられなかったり、伝えることが出来ないままになる方が後味が悪いし、気持ちが悪いもんだぞ」
私たちは、今回の遠征で1名の犠牲者を目の当たりにしている。
キージェは皆の顔を見回す。
「そうだな。気持ち悪いっていうのは撤回だ!」
こうして、お互い理解していくことが、とても嬉しかった。
「早速だが、エリ、報告書を書いてくれてありがとな。さっき無事提出してきた」
「こちらこそ、色々教えてくれてありがとう」
「特命の報酬は、明日以降に受け取れる。これが報告書の受領書だ。それと、探索の報酬の計算は、3日くらいかかる」
そう言って、キージェは報告書の受領書をみんなに配った。
名刺ほどの大きさのカード状の受領書には、金額が記されていた。
「え、何この金額。間違えてない?」
一人当たり20万ツバンって……。
「特命って……こんなにもらえるのか」
特命は初めてと言っていたグランも驚いている。
「ま、南部への遠征だからだろうな」
「近場の特命はもっと安いよね」
「良いな、特命って……」
グランが金額を見たまま呟いた。
「だから無理してでも受けたがる奴が出てくるんだよな……」
「無理してって……どういうこと?」




