私にしかできないこと
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
「あーっ!」
「元気か?」
黒髪に黒ずくめの服。……生き神だった。
「ちょっと! いつからそこに居たんですか!」
「さて、いつからだろうね?」
ニヤっと、少し意地悪そうに笑う。
ぐぅ……これは見られた……。
顔が熱くなる。
「……もう二度と会うことは無いと言っていたのに」
「気まぐれな性格なんでね、固いことは言わないでくれるとありがたいな」
そう言いながら、この住居を見まわす。
「……だいぶこの世界に馴染んできたな」
「友人には……とても恵まれていますので」
「そうか」
「もし、私の気持ちを一つ彼に伝えてもらえるなら、とても感謝しているって……お願いします」
私はポットをコンロに乗せてお湯を沸かす。
「あぁお構いなく。あんまり時間もないしな」
私のお願いに対する返事はない。
「今日は何の用だったんです?」
「そうだな、特に何も」
「何も……ってことは無いでしょう?」
目を細めているだけの生き神は、なんとなく楽しそうだけど……?
「じゃあ一言だけ。……嬉しいことがあったんだ」
「……もしかして、私があげたネコチャン?」
「当たらずとも遠からずだな。ありがとう」
なんとなく、楽しそうというより幸せそうに見えた。
「前回、その笑顔にお礼を言えませんでした。あなたにも色々と感謝していますよ」
「こんな世界に送り込んだこの俺に?」
「それとこれは、別問題です」
「世界が違い過ぎて、中々思うように作品を作れないかもだが、とにかく頑張れ。どんなに困難でも」
「そのつもりです」
「お前にしかできないことをやってくれ!」
生き神は私の胸に拳を当てた。
「元気でな!」
そしてまた、自分が言いたいことだけ言って姿を消した。
気まぐれか……。
その気まぐれで、私が言った事をエリムレアに伝えてくれるといいんだけどな。
最初こそ、絶望するくらい野蛮な世界に来たと思っていたけれど、今はキージェやアイリスやグランに出会えたことには、本当に感謝している。
せっかくお湯を沸かしたし、お茶……飲もうかな。
エリムレアが好んで飲んでいたというロクガンのお茶を淹れ、市場で買った絵本を開いた。
お茶を飲みながら本を読むなんて、とても久しぶりだ。
青色の表紙はどうやら夜空で、そこに銀色の星が散っていて、この地で見える空とは少し違う。
なんとなく、父の田舎の夜空を思い出した。
「そっか……日本の夜空に似ていて、それで惹かれたのかな」
ページをめくると、詩のようなお話が綴られている。
大きな流れ星が落ちて、泉が湧いて、その水を飲んだ者は人を助ける力を得た、という内容で、その物語に結末は書かれていなかった。
澄み渡るような青色がとても綺麗で、詩のようなお話と相まって、全体的になんだか夢の中にいるかのよう。
『不思議な気持ちになる本だなぁ……』
表紙のデザインがとても可愛いので、表紙が見えるように棚に置いた。
「よし、片付けちゃおう!」
外套と野営に使った敷布を裏庭に干す。この世界はほとんど夜だけど、暖かい風が吹くからこうしておけばたいていの物は乾いてしまう。
そして大きなカバンを開けて中身を取り出す。
キャンピィの毛皮は、ぬいぐるみの資材を入れている木箱へ。
後は探索で使ったキャンプ道具や転写魔法の道具類を元の位置へと戻していく。
「あ……、これは」
皆が私の剣の破片を回収して、袋に入れておいてくれたんだ……。
「ごめんねエリムレア。あなたの剣、こんな姿になっちゃった」
でも、剣ってこんな風に砕けるもの? キュスト隊長の剣も折られたし。
……普通、曲がるとか刃が欠けるとか、そういう具合になるんだと思っていたけど。
これは、鍛冶屋さんで元通りにできるのだろうか……。
ガイダは、私にとって初めての制圧戦と先日の遺跡で、二度に渡って私の剣を弾き飛ばした。
制圧戦の時の私はただただ恐怖に震えていたし、あんな状態の私なら一瞬で殺されていたはず。
それに遺跡の時だって、本気で殺すつもりだったなら、剣が砕け散った時や、階段から落ちた時にどうにでもできたはず。
……もしかしたら、私から武器を奪い、戦意を喪失させた上で腹を割って話をしたかったのかな。
ガイダの大剣は黒い刀身で、刃の付け根に金色の装飾がある特徴的なデザインだった。
これでガイダのように相手の武器を封じることが出来るなら、無駄な殺生はしなくて済むかもしれない。
第4章、ほぼ終わりまで書いてあるのですが現在細かいところの調整を行っています。
頻度は少なめですが、よろしくお願いします。




