魔導士の名誉
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
「……ところで、どうしてあの時、地下で幻炎魔法が使えたの? 本当は使えるのを隠してたり?」
「いや……あれは、たまたま仮説が上手くいっただけだ」
「仮説?」
「あの遺跡にあった結晶が天然の光源結晶だって、グランが言ってただろ?」
「うん」
「子供の頃に読んだ古いおとぎ話では、魔導士が洞窟の奥深くでも幻炎魔法を使っていたし、何か方法があったんじゃないかとずっと考えてた」
それで沢山の本を読んでいたのかな。
「ステイラを光源結晶に充填することは日常的にやっているが、今回は、その逆をやってみた」
「へぇ……おとぎ話にヒントを得て仮説を立証するなんて凄いよ」
やっぱりキージェはエリート魔導士だ。
でも、なんだか浮かない顔。
「いや……、制御が難しかったんだ」
「制御……?」
「ガイダを倒せたら、と思ってみたものの……制御ができない幻炎魔法を放っていたら、俺達も遺跡も、全て丸焦げだったかもしれない」
「え……」
「エリも閃光を見ただろ? 照明魔法のつもりだったのに、あんなに眩しくなるなんて想定外だった」
私はちょうど曲がった通路にいたから直視はしてないけど、あの閃光が照明魔法のつもりだったなんて。普段の野外での照明魔法は、人を温かく包むような光だから。
「そっか……。それを聞いたら、止められてよかった」
「修練すれば使いこなせるかなとは考えたんだが、その修練のためには地下深くまで行く必要もでてくるし、制御できないものを地下でぶっ放したら生きて帰って来れる自信がないからな」
「じゃあ、もう二度と……?」
「あぁ。だから、誰にも言わないでくれ」
「分かった。絶対に誰にも言わない。約束する」
「ありがとな。この方法が知れると結晶の乱獲が始まるかもしれないし、資源を巡って激しい戦や遺跡の破壊にもなりかねない」
「ちなみに、光源結晶からステイラの解放? っていうのは誰にでも簡単に出来そうなの?」
もしそうなら、キージェの懸念はいつか現実になってしまうかもしれない。
「いや……たぶん、そう容易じゃないと思う。むしろ俺だからできたっていうのはあるな」
「なんだ、やっぱりキージェはエリート魔導士だよ」
「よせよ。……前に親父や兄貴と折り合いがつかなくて家を飛び出したと言っただろ」
「あ、うん」
……魔法について何の知識もない私からすれば、凄い発想だなって思えても、専門職の人からみたらそうじゃないのかな。
「うちは、一応魔法の名門と言われているクィンク家だ。……学生の時にこの研究をしていて、家の恥とまで言われたんだ。おかげで俺は王都はおろかヨーンでも良い笑い者さ」
「えぇ、酷い」
「……同情は別にいい。俺は自分の仮説が正しかったことが解れば、もうそれで十分だ」
そっか……。
「悔しいのは、それを公表できないってことだけだな!」
キージェが自分の名誉よりも、今後のヨーンのことを優先してくれた。
「というわけで、これからも地下にいる時は、仕切るしか能がない出来損ないの魔導士だ。だからよろしく頼む」
「ねぇ、キージェ。今〝仕切ることくらいしか〟って言ったけど。……それって大事なことだよ?」
「え……」
「それに、グランがあの影魔法は大いに役に立つって言ってたじゃん」
「いや、俺はただの出来損ないだ。ガイダも言ってただろ」
「あのね、キージェ。周りに気を配れるオカンタイプが一人いるっていうのは組織ではすごく大事だから」
「オカン……?」
「夢で見た、面倒見が良い人の呼称」
「またそれか」
「とにかく、キージェは出来損ないなんかじゃない。結果的に私たちが生還できたのはキージェの機転のお陰だよ」
色々言いたいことはあるけど!
「……いや、エリのネコチャンと、瀕死になりながらも止めてくれたお前のお陰だよ」
またそっぽを向いてしまった……。
「キージェ、拳をだして」
「え?」
「ほら! はやく」
「……そういえば、まだだったな」
こつんと、グータッチ。
「ありがとうキージェ」
ようやくキージェが笑う。
「こちらこそ、ありがとな」
私たちは翌日、前哨基地を後にした。
最深部の調査については、一度ヨーンに戻って今回のガイダとのやり取りも含めて報告して、それから末裔たちを束ねる者に改めて許可と協力を仰いでみてはどうかと探索組合と学術協会、そしてヨーン政府に働きかけてみることになった。
「色々穏便に運ぶといいな」
「そうだね」
「手つかずの場所、行ってみたかったな~」
「アイリス、ひとまずは無事に帰らないとだよ」
ノイの背に揺られ、北へと帰る。
私は、まずはネコチャンを作り直さなきゃ。
早く新しい型紙も作りたいし、ガラス工房にも行きたい!
「エリ、帰ったらまずは報告書が待ってるからな」
「え?」
「今回、エリが一番書くこと多そうだもんな」
「まとめ、頑張って!」
えぇ! そんなぁ……!
※第1部完! です。
まだ納得のいく文章表現ではないので、微調整など入ると思います
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