アイリスの薬
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「やっと終わった……」
ペンを置くと急に力が抜け、バタンと机に伏せた。
「お疲れさま!」
ヨーン市街地に戻ってから数日間、報告書に追われる日々だった。
特命の報告書は書式が色々と細かく、キージェとアイリスが教えてくれると言うことで、寄宿舎のアイリスの部屋に泊まり込みで書いていた。
寄宿舎には露天風呂もあるし、疲れた体を癒せるのもありがたかった。
……ただし、みんなと一緒にだけど。
「慣れないことして疲れたでしょ?」
「そうだね、パソコンならまだしも、手書きは辛いなぁ」
横に積まれた報告書の束は、そこそこの厚み。
「パソコンって?」
またやってしまった……。
「えっと、夢に出てきた道具……」
「でた! エリの不思議な夢!」
お決まりの誤魔化し方を、疑うことなく笑ってくれた。
文字を読むことや会話は出来ても、この世界の文字を書くことはあまり慣れていなくて、それも時間がかかった理由だった。
でも……それで、重度の記憶障害だとキージェから心配されてしまった。
「エリ、これ飲んで」
アイリスが差し出したのは、小さなカップ。
「サクトで作った滋養の薬だよ!」
「ありがとう、アイリス」
南部で負傷した時に作ってくれた薬だ!
「これ、懐かしい味がして好き」
……ちょっとオロナミンCに似ているから、日本にいた頃を思い出しちゃう。
「エリが大怪我した時とかは、必ず飲んでたからじゃない?」
「え……? あ、うん、そうかも」
とても嬉しそうに微笑むアイリス。
記憶のどこかにアイリスの薬の味が残っているって勘違いさせてしまったかな。
そういえば、アイリスがキージェ達と出会った時、薬草を採ってた時だと話していた。治癒魔法が使えるなら、薬は必要なさそうなのに。
「ねえ、アイリスは、どうして治癒魔法が使えるのに薬草を採って薬を作るの?」
「お金儲け!」
「え……?」
「クククク……」
そんな悪い顔して笑わないで……
「なーんてね! 本当は念のため」
「念の……ため?」
「魔法は絶対じゃないからって、ヨギがそう言ってた」
「ヨギ……?」
「ヨギは、僕を拾って育ててくれた人で、本名はヨギナムって言うんだ」
家族とはぐれたアイリスがどうやって生きてきたのかと思っていたけど、良い人に保護されていたんだね。
「……優しい人でね。同じくメーニスの血を引く治癒士で、若い頃は正規軍にいたみたい」
治癒士は血筋とセンスって、キージェが話してたっけ。
「ヨギは、一緒に旅をしながら薬草のことや、治癒魔法を教えてくれたんだ」
「そうだったんだ」
「今だから優しい人ってわかるんだけど、僕にはすっごく厳しくてさ」
と、顔を歪めておどけて見せた。
「ヨギナムさんは、今はどうしているの?」
「もう死んじゃった!」
とても重いことをカラッとドライに軽く言うアイリス。
「ごめん……」
「ううん。僕を拾ってくれた時にはもうお爺さんだったし、悔いなく生きたと言ってたよ」
「そっか……」
「ヨギは、薬があれば治癒士がいない場合でも、助けることができるからって」
アイリスがニッコリ笑う。
「今でもとっても感謝しているんだ。ヨギに出会わなければ、僕はとっくに死んじゃってたと思う」
アイリスを、こんな素直で可愛くて良い子に育ててくれて本当にありがとう。ヨギナムさん……!
「私も、ヨギナムさんに感謝しなきゃ」
「エリも……?」
「アイリスが、私を助けてくれたから」
「……エリ、ありがとう。感謝されたくて治癒士をしているんじゃないんだけれど、そう言ってもらえると、少しでもヨギに近づけた気がして……嬉しいな!」
ヨギナムさんは、アイリスの大きな目標にもなっているんだね。
でも、少し哀し気な微笑み。
「ヨギが死んじゃってからは、ずっと一人だったんだ。どうやって生きて行こうかって迷ってた。……でも、ヨギが教えてくれた薬草のお陰で、エリ達と出会えた」
アイリスの生い立ちは、想像よりもずっと大変そうだ。
幼い頃から苦労をしてきているからか、アイリスは見た目よりも芯が強い子だと思う。
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