笑顔になって
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
『キージェ……?』
そうだ、影魔法で隠れているんだ。
もしも、ガイダも同じ魔法が使えたら……。途端に暗闇に対して恐怖が芽生える。
キージェが最初から影魔法で逃げ切る算段だったなら……私は致命的なミスをした。
やっぱり、私は足手まといだ……
その時だった。
奥からガシャンと大きな音が響いて、閃光で左にカーブした通路が浮かび上がる。
光を頼りに通路を走り抜けると、高いドーム状の天井がある広間の中央で、キージェがネコチャンをぶら下げ、もう片方の手を天に向けていた。
「ガイダ! 今日こそとどめを刺してやる!」
手の先に……白い炎。照明魔法……ううん、幻炎魔法……?
ガイダはどこ?
……左だ。閃光を受けて目がくらんでいるのか、私には気づいてない。
「クソ野郎がぁ! 絶対にぶっ殺してやる!」
激昂するガイダ。
「だめ! やめて!!」
シャルの剣を投げ捨て、キージェに襲い掛かるガイダめがけて力の限りを尽くして突進した。
「ぐぁっ……!」
体当たりの衝撃で、ガイダもろとも数メートルほど転がった。
「ぐ……」
ガイダは短く呻いて気を失った。
「う……」
……お腹にズシンと重く鋭い痛みが走る。でもまだだ……
私は我慢して立ち上がる。
「エリ! 血が……大丈夫か――」
「……馬鹿!」
私はキージェの頬をひっぱたいた。
「ごめん……無謀だったよな」
「……ネコチャンを……返して」
堪え切れず、ボロボロと涙がこぼれた。
「え、あ……すまない」
「これは、私が……誰かを笑顔にしたくて作ったの……。誰かを怒らせたり……美しい神殿を傷つけるための道具じゃない」
涙を拭い、横たわるガイダを見やる。
「ガイダ……、ごめん」
瞼が痙攣したあと、ゆっくり開いた。
血走った眼が宙を泳ぐ。朦朧としているのか、焦点は定まらない。
「エリ……」
私はネコチャンを右手に嵌めて跪いた。
「ガイダ、聞いて……、私たちはカルツには会えてない。……ごめんなさい」
「カ……ル……ツ……」
私は、ネコチャンでガイダの頬を撫でた。
「あなた達の神様を、否定するようなことを言って、ごめんなさい。でも、カルツは……きっとこんな風に柔らかで温かい……人の幸せを願う可愛い生き物だと思ってるよ」
ネコチャンを外し、ガイダの手に握らせると、彼は静かに目を閉じた。
ごめん……ガイダ……
ごめん……古の都の人々……
ごめん、カルツ
「ぐふっ……!」
「エリ!」
血を吐き、そのまま倒れた。……さすがにもうダメかも。
きっと……私も限界だ。
「エリ! しっかりしろ!」
キージェに抱き起されると、天井には……美しいつる草模様のレリーフが刻まれていた……。
「エリ! エリ!」
キージェ、近いってば……
でも、キージェの声が遠くに行ってしまう。
ごめんね。良かれと思ってしてくれたことなのに殴っちゃって……
私はまた暗闇を彷徨うのかな……
ネコチャン……あとは頼むね
お母さんの背に揺られている、懐かしい夢を見た。
とてもあったかい背中。
あぁ、そうか。迎えに来てくれたんだね。
私、きっとこのまま日本に戻るんだ……
でも、さよならを言えてないよ……
まだ、みんなと一緒にいたかったなぁ……
「う……」
「エリ……!」
「あれ……?」
「俺だ、分かるか? 記憶は……あるか?」
あの日と同じく、最初に目に入ってきたのはキージェの姿だった。
「キージェ……」
名を口にすると、安堵の表情を浮かべた。……でも、顔が腫れている。
「アイリスから、ネコチャンのこと全部聞いた。……ごめん。謝って済むとは思っていないが……謝らせてくれ。ごめん……」
「ううん。私も、ごめんなさい。……殴っちゃって」
「いや、良い」
「……ごめん、手加減ができなくて」
「いや、これはアイリスに殴られた」
「……え」
あ。
……アイリスは子供たちを笑顔にして欲しいって、願ってたから。
「仲直りして、治してもらってよ」
「いや、喧嘩はしてない。自戒のために、しばらくはこのままでいるよ」
真面目だなぁ……。
「そうだ、アイリスとグランは?」
「二人とも無事だ。今は基地の人の依頼で周辺のスモノチを狩りに出ている。それから、シャルも重傷だが生きているよ」
「よかった……」
「お前は、ガイダに蹴られた腹が……内臓が損傷していたから、まだ起きるなって」
「ガイダは……?」
死んでしまっただろうか……
「それが、お前をここまで運んだあと、瀕死のガイダを回収しに戻ったんだが……その剣だけ残していなくなっていた」
壁に立てかけられていたのは、ガイダの大剣だ。
「ネコチャンは……?」
「ガイダと一緒に……いなくなった」
「そっか……」
自力で脱出したのか、それとも同胞に救出されたのか。でも……なんとなくだけど、もう二度と会うことはない気がする。
「ネコチャンは……ガイダを笑顔にできるかな」
「……だといいな」
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