治癒士の魔法
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
「グラン、さっき一応メモは取ったけど、他に何か特筆事項ある?」
「それじゃ、この光源結晶の絵を描けるか? できればいくつか角度を変えてくれると助かるんだが……」
「いいよ。任せて!」
グランが貸してくれた定規を使って、正確な寸法も書きとる。
動物のスケッチに比べたら、直線的な結晶はかなり楽だ。
「俺達も、気づいた点をそれぞれ書いておくか」
「そうだな、後で報告書にまとめる時にすり合わせしよう」
探索って、楽しいなあ。
戦闘があったら嫌だと思ったけど、遺跡の奥深くでまさに冒険している! っていうこの感じが癖になりそう。
いくつかのアングルでスケッチを描き終えると、グランがルーペで観察したことをその横に書いていく。
「エリは記憶を失っていても、本質は変わらないな」
「え?」
「お前はなんだかんだで、探索で気づいたことをメモしていたんだ。地図に色々書いてあっただろ」
あ……。
「た、確かに」
あの書き込みが激しくて、何が何だか分からない地図か……
「報告書には俺がまとめることが多かったが、お前は帳面にも色々書いていたぞ」
「どんな……帳面だった? このくらい?」
あの手帳のサイズを示してみた。
「ううん。もっと大きくて、このくらいかな」
アイリスが手で作った四角い枠は、B5判くらいのサイズ。明らかにあの手帳より大きい。あれ以外にエリムレアが残したものがどこかにあるってこと?
「帰ったら、探してみたら良いんじゃない?」
「そう……だね」
「そうしたら、少しは何か思い出せるかもな」
「……うん」
手帳の手記も気になるけど、どこにあるかも分からない帳面がとても気になる。
「よし、依頼とは別になるが、良い資料ができそうだ!」
それぞれが帳面を閉じた。
「んじゃ、カルツの目撃地点の前に、途中の井戸に寄って行こう」
光源結晶の地点から右手伝いに歩く。左方向に大きく弧を描く回廊を進んで行くと、徐々に暗くなっていく。
「この奥は本当の暗闇だな」
手に持ったランタンが、くっきりと周囲の暗闇との境界線を描いている。
グランを先頭に、キージェ、アイリス、私が続く。地図ではこのまま進むと小さな井戸があって、さらに進むと行きつくのは小さな広間だ。そしてそこが、カルツの目撃された地点。
カルツに会えるといいなぁ……!
井戸は通路の片隅にポツンとあり、そこで少しだけ休憩をすることにした。
グランがポーチから石つぶてを取り出して投げ入れると、ポチャンと音がした。
「投げ込むまでもなく、水面が見えるなぁ」
皆で覗き込むと、たしかにゆらゆらとランタンの光を反射している。
「ひとまず、水はあるみたいだし、水の検査だな」
「そんなことまでするの?」
「あぁ。水については俺達自身が使うし、それも含めての安全確認だ」
「じゃ、僕がやるから、みんなは少し休んでて」
休んでて、と言われたけど私はその作業を傍らで見学させてもらうことにした。
アイリスがロープの先に小さなバケツを結んで投げ込み、水を汲み上げてガラス瓶に移す。
ランタンの光越しに、見た目の不純物がないことを確認して、それをメモしている。
今度はそれを5~6本のガラス瓶に取り分けて、それぞれに何種類かの触媒を少しずつスプーンで入れていくと、色が変わるものもあれば、無色透明のままのものもあった。
子供の頃、夏休みの自由研究で似たようなことやったなぁ。
「アイリス、どうだ?」
「うん、特に変なものは混ざってなさそう。グラン、水を汲もう」
「分かった」
そっか、水だって何が混ざってるか分からないし、ここで今後も色々な人が調査をするに、水があるのと無いのでは持ち物も変わってくる。
グランのタンクに水を汲むと、アイリスが何かの触媒を一包み入れ、また魔法を使っている。
「水を腐らないようにする魔法?」
「……これは……えっと」
言葉を濁すアイリス。
……聞いちゃいけない質問だったかな。
「刑戮の魔法だ」
「ケイリク?」
「つまり、死刑執行だな」
「え?」
治癒士が死刑執行……?
「……治癒士が使う魔法は、生命活動を助けたり維持するものだけじゃない。その命を止める魔法もあるんだ」
あ。もしかして、今のは水の殺菌ってことか。なるほど、アイリス式殺菌ビーム。
「アイリスは薬や食べ物のことだけじゃなくて、水まで任せられるなんて心強いね!」
「エリ……。ありがとう」
安心したような可愛い笑顔を見せた。
「治癒士の最大の武器はこの刑戮の魔法だな。全員が使えるわけじゃないらしいが、治癒士がこれを使えることを明かすことは基本的にない」
「恐れられるし、敵方からは狙われるからだろうな」
「まぁ、僕は使えるって言っても毒虫とか小さい生き物にしか効果がないんだけどね」
もしかして、高名な治癒士は人間も即死させられるとか……? でも、アイリスは悪いことには使わなそうだし、私は怖くないよ。
「いつだったか、この編成で作戦行動中に洞窟内で閉じ込められて水が尽きた時、アイリスがこんな感じで水を確保してくれたんだ」
「グランは、その時初めて一緒に行動したんだよな」
「あぁ。……あの時は、誰にも言わないと約束したにも関わらず、エリが俺の事を監視するかのようにずっと睨みつけてたのを覚えてるよ」
苦笑するグラン。
「仏頂面のエリは本当に怖いからね」
「俺とエリは、俺が毒虫に噛まれて、アイリスが助けてくれた時に知ったな」
「もう4年くらい前だよね。ヨーンに向かう途中で薬草を採っていたら、倒れたキージェを介抱しているエリに出会ったんだ。声をかけたら、エリに〝助けてくれ〟って言われて」
あ……。エリムレアの手記で、初めてアイリスの名前が出てきたあの時のことだ。
「それで、足の中に入り込んだ毒虫をアイリスに退治してもらったんだ」
この世界では、細菌とか微生物が悪さをするという知識はまだなくて、目に見えないものを毒虫って言うのかな?
「へぇ。お前たちの馴れ初めは、初めて聞いたな」
「あの時も〝心強い〟って言われたんだよ。まだ不慣れな土地だったし、僕からヨーンまで一緒に行動して欲しいってお願いしたんだ」
あの言葉足らずの手記……省略しすぎ! でも、エリムレアの解像度が、なんだか少しだけ上がった気がする。
「それが縁で、ヨーンに到着してから今後の探索は一緒に行かないかって誘ったんだ」
「治癒士ってだけで、すぐに声がかかるとは聞いていたけど、本当に即座だったね」
「そりゃ、治癒士がいたらすぐに確保するべきだろ」
「ごめん、そんな大事なことも……忘れてしまって」
「ううん、気にしてないよ」
エリムレアは、大切な想い出だけは、ちゃんと持って行っただろうか。
「キージェ、俺の勝手な想像だが、アイリスを誘ったのは治癒士ってだけじゃないだろ」
「可愛いからだね」
「何言ってんだよ」
「アイリスは治癒士だからと鼻にかけることもしないし、性格が良いからだろうな」
「え、治癒士ってそんな人ばっかりなの?」
「……まあ、疲れちゃうんだろうね。なんとなくだけど!」
確かにアイリスは色んなことを知っているけど、それを自慢することもない。それどころか真の癒し系だと思う。
「さぁ、ひとまず水はこれで大丈夫だから。先に進もうか」
「だな!」
「水は沸騰させれば問題なく飲めたって書いておくね」
「あぁ。それで報告しよう」
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