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死にかけ女と猫のぬいぐるみ  作者: 明星 志
第3章 カルツの神殿
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エリート

※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています

「この先は、もう一度階段があって、それを降りたら地下3階だな。良いタイミングだし、明るい内に軽く打ち合わせしつつ休憩にしよう」

「そうだね!」 


 ちょうどお腹も空いていた。


 階段の手前の(はし)っこに移動して、そこで荷物を広げた。


 携帯食ではあるけど、みんなで食べるのはやっぱり楽しい。


「グラン、さっきの光源結晶って何かに使えるのか?」

「欠片を見る限りだと、ガス灯の燃料とかかな。あとは、他の結晶と同じくガラスの原料にはなるだろう」


 そういえば、この世界の窓にも透明なガラスが(はま)っているし、アイリスが使っている薬の瓶もガラスだ。


「ガラスって、光源結晶から作るの?」

「あぁ。細かく砕いて他の結晶や触媒と合わせて一度グニャグニャにしてから型に嵌めるんだ」

「へぇ、そうやって作るのか。初めて知った」

「触媒って、さっきも使ったけど、あれは?」


 ……質問ばかりになっちゃうけど、大丈夫かな。


「色んなものを混ぜ合わせて作った薬の類だ」

「エリが毛皮を加工する時に使ってる粉も触媒だよ」

「え、そうなんだ」

「触媒を作るのには前にエリも一緒に行った骨青(こつせい)結晶や、カルツの糞尿が欠かせないんだ」

「俺達で分かるのはそのくらいかな」

「ふーん……」


 去年の夏休み、テディベアミュージアムに行った時に、近くにあったガラス美術館にも寄ったのだけど、実演コーナーで珪砂(けいしゃ)とか他の材料を混ぜて高温の炉で真っ赤な(かたまり)にしたものからガラス細工を作っていた。


 同じようなものを作るのに、世界が違うと材料も工程も違うんだ……。


 ん。まって……。もしも自分でガラスを作ることができたら、ぬいぐるみの目を作れるかも?


 火を使うし危ないからと思って敬遠していたけど、この世界ではもっと簡単……?


「ガラスを……作りたい……」

「なんだよ急に」

「ぬいぐるみの目を、ガラスで作ってみたくて……」

「ぬいぐるみって何だ?」

「グラン、エリが子供たちに見せてたカルツだよ」

「あぁ……あれか」

「これは、手を入れて遊べるような形にしてあるんだけどね」


 私は鞄からネコチャンを取り出して見せた。


「ここの……目の部分を、ガラスで作りたい」


 自作のグラスアイ、いつか挑戦したいと思っていたから!


「へぇ。カルツか、面白いな」

「夢で見て、思いついたんだって」


 グランの大きな手に嵌めると、みちみちになってしまった……。でも、目を細めるグランの表情も、やっぱり和やかでとても良い。


「今はこんな風にボタンと切った革で代用してるんだけど、ガラスで目が作れたら、もっと神秘的になるかなって……」

「エリの夢の話は、本当にいつも不思議だよな」


 事は急ぎ過ぎると、また怪しまれたり心配されちゃうから慎重に……


「面白そうだし、帰ったらガラス工房にでも行くか」

「ありがとう!」


 ……もしカルツがいたら、このネコチャンを見せたらどうだろう? 興味を持って近寄ってくれるかな。


 ……すぐ使えるように、ベルトに挟んでおこう。




 荷物をまとめて、探索を再開する。


 ランタンへの点火は各々(おのおの)の発火器具を使った。


 キージェは本当に地下だと魔法が使えないんだ……。


「支度が出来たら降りるぞ」


 まずはカルツの目撃地点へ。


「そろそろ音を出さないよう気を付けなきゃね」


「そうだな……。よし、ここからはみんなまとめて影魔法でいこう」

「え、影魔法は使えるんだ」

「あぁ、逆に暗闇のほうが使いやすい。外部に俺達の姿や光と音が漏れにくいようにするから、もう少し近くに来て手を重ねてくれ」


 まるでライブ前のバンドや、スポーツ選手の試合前のように手を重ねていく。


「行くぞ……!」


 キージェが一番上から皆の手をぐっと押すと、手を合わせたあたりからぼんやりと薄い黒いモヤに包まれて行く。


「アイリス捜索時と同じで、大声や大きな音で解除されるから気を付けてくれ」

「接触は?」

「同時にかけた者同士なら大丈夫だ」

「なぁ、キージェ。この上位の影魔法が使える魔導士は、そうそういないぞ」

「え、そうなの?」

「……別に普通だよ」

「いや、謙遜しなくていい。地下で幻炎魔法が使えなくても、これがあれば仲間を大いに援護できる」


 グランが驚きを隠せていない。


 地下深くの探索なのに、メルナさんが魔導士であるキージェにこの案件を紹介したのは、こういう背景もあったんだね。


「やっぱりキージェはエリートなんだね」

「……違うって言ったろ」


 少し冷たい言い方でそっぽを向いてしまった……。もしかして、触れられたくない所だったかな……。


「ごめ――」

「キージェはエリートって言われるのホントに嫌がるよね。誰よりも仲間に対して頑張れる人をエリートって言うんだと僕は思うけどなぁ」


 アイリスがキージェの顔を覗き込む。


「……アイリス、少し黙れ!」


 キージェがアイリスをヘッドロック。


「いててててっ、影魔法解けちゃうよ!」


 オカンタイプのイケメンは、確かに誰よりも仲間のために頑張っている。


「アイリス、良いこと言うね」

「いいから……そろそろ降りるぞ」


 そうか、キージェはもしかして照れ屋なのかも?

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