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死にかけ女と猫のぬいぐるみ  作者: 明星 志
第3章 カルツの神殿
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地下神殿

※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています

 昨晩泊った砦と同じような建造物があり、私たちはそこでノイを預けた。


 私だけは自警団を退団しているため、帰りに預託料を払うのだそう。自警団の福利厚生は、こんな遠い地方にまで有効なんだ……。


 ここからは、荷物は自分たちで背負わなくてはならない。


 大掛かりなキャンプ道具と帰りの食材はここに置いて、予備のザックに必要な荷物を詰め替えた。


 そして、来た道を徒歩で戻る。


 小一時間ほど歩いて、やっと遺跡の入り口に着いた。 




「ただいま到着しました。キージェ・クィンクです」


 キージェが依頼書を見せると、正規軍の警備兵が敬礼をした。


「クィンク殿、特命ありがとうございます。貴殿らはえーと……東ルートですね」

「はい。……内部に不審者等は?」

「この辺りを陣取っていた末裔たちとデジエントは全員が撤退していますし、発見当初から入り口は固めてあったため、内部に侵入者はいません。でも、念のためお気を付けください」

「承知しました。では」

「おや……? フラレット殿!」


 フラレット……? 


 あ、()か!


 というか、こんなところで知り合い?


「あの時は、大変お世話になりました! お元気そうでなによりです」


 あの時……?


『おそらく、2年前の制圧戦のことだ。黙って頷いてろ』


 横からキージェの耳打ち。……近い近い!


 慌ててコクコクと頷いてその場を流す。


「それでは、お気をつけて!」


 私は会釈で応え、キージェの後に続いた。


「キージェ、えっと……ありがとう」

「噂は広まっているかもしれないが、以前と同じように黙っていれば記憶が戻ったと思わせることは出来るだろ」


 あ、そっか。寡黙なエリムレアを演じるのは、黙っていれば良いだけか……


「今の男、ザインというんだが……前に密偵と疑われて左遷された自称・古ヨーンの末裔だ」

「え?」

「今でも正規軍でちゃんと任務に就いているみたいだな」

「そっか……あらぬ疑いだったってことなら、なんだか哀しいね」

「……だな」




 入り口の少し手前で、地下に入る準備に取り掛かる。……ワクワクとドキドキが一緒に押し寄せてきた。ちょっと緊張する。


 カルツのアレの時と同様に、ランタンは1人1つ携帯。


「光源結晶の替えは、最低3つは取り出しやすいところに。長い時間歩くからな」


 光源結晶とは、日本でいう所の固形燃料と充電池の間くらいのもので、火をつけると内部を燃焼して徐々に(から)になる。燃えるのは()()()()という魔導士が使う不思議な力で、ゲームとかでいうMPみたいなものかも。


「予備はたくさん持ってきてると思うが、もし不安なら俺に言ってくれ。今なら充填できる」


 魔法(ステイラ)式充電器キージェ。


「ん? エリ、大丈夫か?」

「ううん、大丈夫!」

「地下2階までは、そんなに暗くないらしいから、そこまでは節約しよう。本格的にランタンを使うのは地下3階あたりからだ」


 地図を見ながら再確認。


「ねぇ、照明魔法は使ったらダメなの?」

「幻炎魔法の類は、星の光が届かないところでは使えないんだ。いざという時に、俺は役に立たない。……覚えておいてくれ」


 キージェが自信なさげに腰にさげた細剣を指差した。


 以前、キュスト隊長から「そんなことでキージェとアイリスを守れるのか」と叱られたことがあった。彼は強い魔導士だし、何故? と思っていたけど、探索で地下に入る時はこういうことがあるからだったんだ……。


 ……こんな大事なことがエリムレアの記憶から無くなっているなんて、複雑だよね……。


「ごめん……もう忘れないから」

「気にすんな」


 少し困った顔で額を小突かれた。


「水もできるだけ節約で。ひとまず3階にある井戸が生きていたら、そこで補給しよう」


 各自の水筒の他、大柄で力持ちのグランが4リットルくらいの給水タンクを持ってくれている。


 最終目的の扉は、地下4階。階段が長いし、降りるのも昇るのも大変そう。




 最終的に装備の点検をして、私たちはいよいよ地下探索に乗り出した。


 内部はキージェが言っていた通り、ランタンが要らないくらいの明るさだった。


「マジかよ……」

「これはすごいな」

「こんなの初めてみた!」

「うん、とても綺麗……」


 白い岩肌のあちこちから突き出た氷柱(つらら)のような結晶が、ぼんやりと白く光っている。


 それは美しすぎて、私たちがしばらく言葉を失うほどの光景だった。


「グラン、これは(なん)だ?」

「恐らく天然の光源結晶の類だな」


 グランが小さなハンマーで叩くと、親指ほどの欠片(かけら)が手のひらに零れ落ちた。


「硬度もそれほど高くないし、ほぼ間違いないだろう」


 グランが単眼ルーペで観察をしている間に、少しずつ光が弱くなって、今はぼんやりと光っている。


「サンプルは帰りに拾うとして、これは楽しみな場所じゃないか!」

「グラン、凄い良い顔してるよ」


 文字通り目をキラキラさせている。


「こういうのを見ると、冒険者になって良かったと心の底から思うよ」

「他にも有益な結晶が見つかるといいな」

「あぁ!」

「幸先いいね!」

「よし、先に進もうぜ」


 道なりに進むと、いよいよ神殿。中に入るとすぐに直径7mほどある円形の踊り場に出た。ここが分岐点で西、南、そして東に下りる階段が伸びている。


 その踊り場の中央には小さな箱が置かれていた。


 いかにも怪しくて、開けたら怪物(ミミック)だったとか、(トラップ)が発動して毒矢が飛び出してくるとかそんな予感しかしない!


「お、なんだろう」


 キージェが疑うことなく箱に手をかけた。


「え、開けて大丈夫なの?」

「あぁ」


 キィと蝶番(ちょうつがい)が軋む音。そして箱が開くと、そこには小さな紙。


「何々……」

『君たちも見たかい? すごい眺めだったな! アイカ』

「……これ、もしかしてさっき見た結晶のこと?」

「恐らく」

「書いたのは今回の調査で先に入ったアイカって人だね。こうして冒険者同士で情報や伝言を残すことはよくあるよ」

「そうなんだ」

「もう1枚あるぞ」

『依頼書に細かいネタバレが書いてないのは、粋な計らいでしたね シャル』


 これは、シャルさんのメッセージか。


 いいなぁ……アナログな世界ならこういう手段もあるんだね。


「俺達も何か書くか。……エリ、書いてみるか?」

「いいの?」

「あぁ」


 筆記具を出したものの、何を書こう。


「先発の人が、帰りに読むことを想定して書いたらいいんじゃないかな?」


「あ、そうだね!」


『とても綺麗でした。皆さんと素敵な光景を共有できて嬉しく思います エリムレア』


 慣れないこの世界の文字で、すこしヨレヨレの文章。でも、私の率直な感想だ!


 写真も撮れたら一番良かったのになぁ。


「よし、じゃあ行くか!」


 私たちは東ルートを進む。


「ここからは先を行く者は居ない。気を付けて行くぞ」


 全員が顔を見合わせて「うん」と頷く。

評価! 入れてくださりありがとうございます!!

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