ネコチャンのビスケット
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
「そうだ、これを渡しておく」
休憩時、グランが私とアイリスに配ったのは遺跡の地図の写しで、そこには赤い印が付いていた。
「最初はカルツの目撃地点を目指すそうだ。×印のついているところだな」
「ありがとう。これ、夜中にグランが描いたの?」
「いや、転写魔法だ。昨晩キージェと見張りを交代する時に写しておいた」
「え、何それ!」
「魔法というより、錬金術というべきかな?」
「錬金……術?」
「あぁ。触媒を使って絵や文字を別のものに複製するんだ」
「それ、私でもできる?」
だって、型紙のコピーが作れたら、どれだけ便利か……!
「道具と触媒があれば誰でもできるし、後で僕が実際にやって教えてあげるよ!」
わぁ……!
「ありがとう、アイリス!」
手法は違っても、代替え技術があるならすごい嬉しい!
「いたっ!」
「エリ、どうした?」
「何かが頭に……」
ひゅん、と何かが目の前を横切って、近くに落ちた。
小石……?
「いてっ!」
アイリスにも当たったようだ。
「禁足地からでていけ!」
「でていけー!」
振り返ると、子供が2人でこちらを見ていた。
「こら、人に石なんか投げるもんじゃないぞ」
キージェが呆れて立ち上がった。
「お前らなんか人間じゃないやい!」
そう言い放つと、大きな木の陰に隠れてしまった。
肩をすくめるキージェとアイリス。
「もしかして、私たち嫌われてる?」
「古ヨーンの末裔の子供たちだろう。こないだのデジエント征伐のときも似たようなことがあったよ」
もう慣れっこです、という風なグラン。
「そっか……」
子供たちは木の陰から顔を出し、様子を伺っている。
空色と若葉色の服は、ヨーン市街地では目にすることがない鮮やかな色で、独特な形をしている。民族衣装だろうか。
「ねぇ、君たち。一緒におやつ食べない?」
背の小さい方……弟が出てこようとするのを、お兄ちゃんが引き留める。
「あんな奴に食べ物なんかもらうな!」
「だってぇ」
私は右手にネコチャンを嵌めて、その手にマヨーさんお手製の大きなビスケットを挟んだ。
「ほらほら、可愛いネコチャンがおやつをあげるよ」
うーん……裏声、もっと練習しておけばよかった。
「エリ――」
「キージェ、静かに」
私は少し屈んで背を小さくしながら、木の陰にそっと近寄る。
「はい、これを食べたらお家におかえり」
木の陰からネコチャンを通じてビスケットを差し出してみた。
弟のほうが、ニッコリ笑って受け取ると、それを半分に割ってお兄ちゃんに手渡した。
「他の人には内緒だよ」
弟の方がビスケットをモグモグと頬張りながら頷くと、「仕方がないな!」とお兄ちゃんもビスケットを食べ始めた。
お礼の言葉なんか要らない。その笑顔だけでいい。
振り返ると、みんなこっちを見ていて、慣れない裏声が恥ずかしくなって私はそそくさと戻ってきた。
「あんまり構い過ぎないほうが良いんじゃないか?」
「……うん」
お互いの蟠りを少しでも失くしたいと思っただけ。
アイリスだけが、静かに微笑んでいた。
「ありがとう、オッサンたち」
オッサン……?
「誰がオッサンだ!」
キージェの呆れた叫びに、二人は「わぁ! オッサンが怒ったー!」と笑いながら走って行った。
「……オッサンとは酷いな」
と、互いに顔をじろじろ見合う。
「俺に言ったんじゃないと思うぞ」
「……私じゃないと思う」
「俺でもない」
「……まぁ、あの年頃の子から見たら、俺らみんなオッサンだよな」
「僕は可愛いからオッサンじゃないし」
「アイリス……可愛い自覚はあるんだ」
「まぁね! 買い物する時、お得だよ?」
「お前はほんとあざといな」
私も最初は可愛い女の子かと思いました。
「可愛いは正義だからね~」
そう、可愛いは正義。
だから、ぬいぐるみは心の棘を抜いてくれる正義の味方だと……いいな。
「よし、じゃあそろそろ行くか!」
林に入って走ること2時間。星明りが遮られて暗い道を、4つのランタンが移動する。
「エリ、疲れてない? 大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
時折、アイリスがみんなに声をかける。治癒士の声かけは不思議と元気になれる。本当に根っからの治癒士気質なのかな。
遠方の探索は初めてのことでも、ベテラン3人と一緒なら色々心強いな。
「もうそろそろ草原地帯だな!」
「特に何にも出くわさなかったね!」
「え……何かいるの?」
「あぁ。森や林にはそれなり大型の野獣もいるからな」
……よかった……さすがに真っ暗闇の中での戦闘は怖い。
ほどなくして林を抜けると、見えてきたのは小高い丘。
「あれが俺達が潜る遺跡だ」
丘の横に開いた入り口には柵が設けられていて、付近には警備兵の姿が何人か見える。
パっと見は日本の古墳のような佇まい。
「へぇ……入り口があんなところにあるんだ」
「だから近年まで見つかりにくかったのかもな」
「楽しみだねぇ!」
進路には洞窟の部分もあったし、洞窟を利用して作られたのかなあ。とても深いし、何らかの意図があったのかな。
「よし、一旦基地の方に行くぞ」
そのまま西の方角へと進むと、南ヨーン前哨基地が見えてきた。
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