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死にかけ女と猫のぬいぐるみ  作者: 明星 志
第3章 カルツの神殿
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ネコチャンのビスケット

※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています

「そうだ、これを渡しておく」


 休憩時、グランが私とアイリスに配ったのは遺跡の地図の写しで、そこには赤い印が付いていた。


「最初はカルツの目撃地点を目指すそうだ。×(ばつ)印のついているところだな」

「ありがとう。これ、夜中にグランが描いたの?」

「いや、転写魔法だ。昨晩キージェと見張りを交代する時に写しておいた」

「え、何それ!」

「魔法というより、錬金術というべきかな?」

「錬金……術?」

「あぁ。触媒を使って絵や文字を別のものに複製するんだ」

「それ、私でもできる?」


 だって、型紙のコピーが作れたら、どれだけ便利か……!


「道具と触媒があれば誰でもできるし、後で僕が実際にやって教えてあげるよ!」


 わぁ……! 


「ありがとう、アイリス!」


 手法は違っても、代替え技術があるならすごい嬉しい!


「いたっ!」

「エリ、どうした?」

「何かが頭に……」


 ひゅん、と何かが目の前を横切って、近くに落ちた。


 小石……?


「いてっ!」


 アイリスにも当たったようだ。


禁足地(ロメール)からでていけ!」

「でていけー!」


 振り返ると、子供が2人でこちらを見ていた。


「こら、人に石なんか投げるもんじゃないぞ」


 キージェが呆れて立ち上がった。


「お前らなんか人間じゃないやい!」


 そう言い放つと、大きな木の陰に隠れてしまった。


 肩をすくめるキージェとアイリス。


「もしかして、私たち嫌われてる?」

「古ヨーンの末裔の子供たちだろう。こないだのデジエント征伐のときも似たようなことがあったよ」


 もう慣れっこです、という風なグラン。


「そっか……」


 子供たちは木の陰から顔を出し、様子を伺っている。


 空色と若葉色の服は、ヨーン市街地では目にすることがない鮮やかな色で、独特な形をしている。民族衣装だろうか。


「ねぇ、君たち。一緒におやつ食べない?」


 背の小さい方……弟が出てこようとするのを、お兄ちゃんが引き留める。


「あんな奴に食べ物なんかもらうな!」

「だってぇ」


 私は右手にネコチャンを嵌めて、その手にマヨーさんお手製の大きなビスケットを挟んだ。


「ほらほら、可愛いネコチャンがおやつをあげるよ」


 うーん……裏声、もっと練習しておけばよかった。


「エリ――」

「キージェ、静かに」


 私は少し屈んで背を小さくしながら、木の陰にそっと近寄る。


「はい、これを食べたらお家におかえり」


 木の陰からネコチャンを通じてビスケットを差し出してみた。


 弟のほうが、ニッコリ笑って受け取ると、それを半分に割ってお兄ちゃんに手渡した。


「他の人には内緒だよ」


 弟の方がビスケットをモグモグと頬張りながら頷くと、「仕方がないな!」とお兄ちゃんもビスケットを食べ始めた。


 お礼の言葉なんか要らない。その笑顔だけでいい。


 振り返ると、みんなこっちを見ていて、慣れない裏声が恥ずかしくなって私はそそくさと戻ってきた。


「あんまり構い過ぎないほうが良いんじゃないか?」

「……うん」


 お互いの(わだかま)りを少しでも失くしたいと思っただけ。


 アイリスだけが、静かに微笑んでいた。


「ありがとう、オッサンたち」


 オッサン……?


「誰がオッサンだ!」


 キージェの呆れた叫びに、二人は「わぁ! オッサンが怒ったー!」と笑いながら走って行った。


「……オッサンとは酷いな」


 と、互いに顔をじろじろ見合う。


「俺に言ったんじゃないと思うぞ」

「……私じゃないと思う」

「俺でもない」

「……まぁ、あの年頃の子から見たら、俺らみんなオッサンだよな」

「僕は可愛いからオッサンじゃないし」

「アイリス……可愛い自覚はあるんだ」

「まぁね! 買い物する時、お得だよ?」

「お前はほんとあざといな」


 私も最初は可愛い女の子かと思いました。


「可愛いは正義だからね~」


 そう、可愛いは正義。


 だから、ぬいぐるみは心の(とげ)を抜いてくれる正義の味方だと……いいな。


「よし、じゃあそろそろ行くか!」

 




 林に入って走ること2時間。星明りが遮られて暗い道を、4つのランタンが移動する。


「エリ、疲れてない? 大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ」


 時折、アイリスがみんなに声をかける。治癒士の声かけは不思議と元気になれる。本当に根っからの治癒士気質なのかな。


 遠方の探索は初めてのことでも、ベテラン3人と一緒なら色々心強いな。


「もうそろそろ草原地帯だな!」

「特に何にも出くわさなかったね!」

「え……何かいるの?」

「あぁ。森や林にはそれなり大型の野獣もいるからな」


 ……よかった……さすがに真っ暗闇の中での戦闘は怖い。


 ほどなくして林を抜けると、見えてきたのは小高い丘。


「あれが俺達が潜る遺跡だ」


 丘の横に開いた入り口には柵が設けられていて、付近には警備兵の姿が何人か見える。


 パっと見は日本の古墳のような佇まい。


「へぇ……入り口があんなところにあるんだ」

「だから近年まで見つかりにくかったのかもな」

「楽しみだねぇ!」


 進路には洞窟の部分もあったし、洞窟を利用して作られたのかなあ。とても深いし、何らかの意図があったのかな。


「よし、一旦基地の方に行くぞ」


 そのまま西の方角へと進むと、南ヨーン前哨基地が見えてきた。

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