信仰心
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
食事も片付けも済んで小屋に戻ると、キージェが依頼書と地図を開いた。
「これが、明日潜る遺跡の地図だ」
見る限り、かなり広くて深い遺跡だ……。
「南部はそんなに禁足地は多くないんだが、5、6年くらい前に発見されたのがこの遺跡だ」
「僕がまだヨーンに来る前だなぁ」
「そう、俺達がまだヨーンに来る前の話だ」
5年って言うと、考古学的には最近のお話……になるのかな。
「これはその当時の冒険者が作った地図なんだが、すぐに古ヨーンの末裔とデジエントが手を組んで、ここに入れないようにしてしまったんだ。今回、俺達が受けたのは安全確認と有用資源の調査だ。他の冒険者部隊もいるから、俺達は違うルートを進む」
地図はかなり広いと思っていたけど、さすがに手分けして調査するみたいで、ちょっと安心した。
「まあ、探索そのものは難しいものじゃないが、油断はしないようにな」
「具体的にどんなことをするの?」
「安全確認は、5年っていう時間で崩れた箇所がないかとか、そういう点検みたいな感じだな。あとはデジエントや古ヨーンの末裔の残党の対処」
「不可侵条約を結んだとは言っても、ついこの前の話だもんね」
「一応撤退はしているらしいけど、万が一の場合は戦闘ということもあるかもしれないが、神殿だし、できる限り穏便に済むように……俺達もその……相手への敬意を……忘れないようにな」
「敬意?」
「……あぁ。禁足地の中でも神殿やカルツに関する遺跡は古ヨーンの末裔にとっては特に神聖な場所だ。俺達が調査や資源を確保することを、良く思っていないから争いが起こる」
「……相手にも、その神様にも、敬意を持つって大事なことだね」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
……また何か不味いこと言ったかな……。
「エリ、今なんて」
「え……、敬意……?」
「お前今……神様って」
「え……」
隣に座っていたアイリスが、ぽそりと呟いた。
「エリ……、本当に人が変わっちゃったみたい」
中身が変わったことが……バレ……た?
「いや……そうだな、記憶が無くなってるんだった」
「う、うん」
「お前は……、禁足地を神聖視することに嫌悪感を持っているんだと……ずっと思ってた」
……エリムレアの思想や宗教観か……。
手記を全て読んでおけば良かった。何かヒントがあったかもしれないのに。
「お前はあまりに無口だから、正規軍や自警団の間では古ヨーンの末裔かもしれないと噂されてたんだ」
「え?」
エリムレアが、古ヨーンの末裔?
「自分から古ヨーンの末裔だって言うヤツもいるんだけど、それで密偵と疑われて余計な諍いに発展することもあるからな」
「だから末裔がヨーンで生活する場合、隠していることが多いんだよ」
「エリは無口過ぎて疑われた。それである時エリが言ったんだ。〝俺は神は信じない〟って……」
「ギンナザムやデジエントだけじゃなく、色んな国の多くが、神は存在しないとしている。だから、神殿やカルツを敬う末裔から見たら、俺達は神を否定する仇敵ってことだ」
「エリは遺跡を傷つけるようなことはしなかったけど、普段は喋らないエリが口に出して言うって、よっぽどのことだから強烈でね」
「だから、末裔と見なされることが余程嫌だったのかと」
エリムレアの信仰心か……。
「……話が反れたが、有用資源の調査は、結晶や液化結晶の採取だ」
「結晶……?」
「ほら、前に採りに行った骨青結晶もその類だ」
そういえば、あれも結晶だったっけ。
「さっき言ってた、グランに打ってつけのって……」
「そう、結晶の採集だ!」
グランは鉱石や結晶について詳しい。元々石好きが高じて冒険者になったと、以前話してくれた。
「大発見があるといいねぇ」
「だといいな!」
「それと、俺たちは最深部まで行くことになっているんだ」
「最深部……?」
「地図はここまでしかない。俺達はここにある扉の先に向かう」
キージェが指差したのは小さな扉の記号。その先は何も描かれていなかった。
「わぁー! 手つかずの場所に行くの初めてだし、すっごい楽しみ!」
「アイリス、あんまり浮かれるなよ」
「わかってる!」
手つかずの場所か……一体何があるんだろう。
「今回、探索組合のほうで担当するルートを決めてくれたんだが、バランスのいい編成の俺達にこの最深部をお願いしたいってメルナさんが言ってた」
前衛2名、魔導士に治癒士か……。客観的に見たら確かにバランスがいい。ドラクエでも王道パーティ。
「……装備、もっといつものガチガチのにしてきた方が良かったんじゃ……」
「言ったろ、音が響くと不味いんだよ」
……装備と音を天秤にかけて音を重視って、もしかして耳の良い怪物がいたりするのかな……
「音の事はきいてたけど……やっぱり敵が入り込んでることを恐れて?」
「今から説明する」
キージェは依頼書の下に重ねられていたもう一枚の紙を広げた。
「えっ?」
「キージェ、これって」
「カルツだ」
「え、カルツって……」
「そう、伝説の生き物って言われているアイツだ。これは、前の調査が入った時に目撃したという報告書の写し」
「えー、ガセじゃないの?」
「それを調べるのも、今回の目的の一つ。……当時の報告書に描かれた絵を元に、カーナ先生に生物学的な予想をしてもらったところ、この耳の大きさから音に対して敏感である、ということなんだ」
「それで、この装備なんだね」
「そう。前の調査隊が見た時は一瞬で逃げられてしまったと書いてある。……だから俺達は出来る限り近寄ってその姿をしっかり見て欲しいという、カーナ先生からの正式な依頼も獲得してきた」
「すごい!」
「よかった、ドラゴンとかいたらどうしようかと思っちゃった」
「ドラゴン……?」
「なんだそれは」
いーッ! ドラゴン、いないのか!
「……えっと……夢でみたやつ」
「エリの夢の話、詳しく聞きたいんだよなあ」
「そうそう! どんな夢を見ていたのか、話して欲しいな」
「面白そうだよな」
「ま、まだ頭が少し混乱しているから……そのうちにね」
ボロがでそうだから……だめ。
でも、ドラゴンがいないのは安心だ。
「俺からの説明はこのくらいだ。あとは中に入ってみないことには分からないから、色々と楽しみだな!」
キージェによる説明も終わり、明日に備えて早寝をすることにした。
部屋の中央にランタン。控えめでも灯を絶やさないのは非常時に備えるためだそう。
この砦が南部の禁足地群の中にあることを考慮すると、色々と気を抜けない場所ではあるから、と。
あと、やっぱり出発前のキージェの発言どおり、アイリスと私の身の安全のためかな……。
「見張りは2時間交代ね! 交代の時に、起きる人はこれを飲んで」
そう言って、アイリスが4つの薬瓶を置いた。
「ありがたい!」
「アイリス、これは?」
「眠気防止の薬」
「これが有るのと無いのとじゃ、全く違うんだよなあ」
あー。エナジードリンクみたいなものか!
「アイリス、ありがとう」
くじ引きで決めた順番は、私が一番手。
早速、小瓶の中の青い液体を飲んでみた。
うわ、まずい……! ソーダとかラムネ味を想像しちゃってた。
「こればっかりは、味のほうはどうしても改善できなくって。ごめんね!」
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