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死にかけ女と猫のぬいぐるみ  作者: 明星 志
第3章 カルツの神殿
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南部のキャンプ地

※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています

 再びノイに乗り、私たちは南を目指す。


 小さな集落や、畑、流れゆく見慣れない風景に、期待と不安が交互に押し寄せてくる。


 小道の標石に「南ヨーン禁足地群」と記されている。


「おー、やっと南部に入ったな!」

「たまにはのんびり遠征するのもいいもんだなぁ」

「キージェ、良くこの依頼みつけてきたね」

「いや、今回はメルナさんが俺達にどうかってさ」

「じゃあ、ご指名ってこと?」

「あぁ。特命依頼なんだ」

「特命! やったー!」

「特命?」

「特命は総合的に色々求められる依頼の事で、単なる()使()()じゃないものを区別しているんだ」

「報酬もかなり高額なんだよ」

「へぇ……」

「俺は特命依頼は初めてだが、キージェから持ち物の指定が多かったし、なんとなくそうじゃないかと思ってたよ」

「グランは今回うってつけの依頼だよ。俺達も、グランが来てくれたからこそ斡旋してもらえたから感謝だな!」


 いわゆる〝冒険者のパーティ制度〟というものがあって、気の合う者同士だったり技量(レベル)が同じ者同士だったりと、冒険者たちはそれぞれ少人数で行動を共にしている。


 ヨーンに出て来てすぐの一人者などは、先日アイリスに教えてもらった他のグループに参加させてもらう制度など、色々と支援はある。


「俺は、探索は今まで一人で行動することが多かったから、本当にありがたいな」

「グランはドーヴァにずっと付き添いしてたから独りじゃなかったじゃん」

「ば……馬鹿言うな。こっそり見守っていただけで付き添いじゃない」

「そういうのが過保護っていうんだよ」

「じゃあ、今は手が離れたって感じなんだね」

「あぁ。無茶する性格だから、仲間に迷惑をかけてないか気が気じゃないけどな」




 最初の目的地である場所、南ヨーン1号(とりで)に到着。外周は重厚感のある石垣で、古びた門の内側には人の姿も見える。


 この場所は正規軍の南方守備隊の砦で、探索目的の自警団や冒険者も使って良い場所があると、道中でキージェが説明してくれた。


「先日のデジエント征伐の時にも、ヨーン自警団の大半がここで世話になったんだ」


 門をくぐると簡素な(ほり)があり、橋を渡った先には石造りの建物があった。


「ここも禁足地? 城跡みたいだけど……」

「ううん、ここは昔、冒険者たちが作ったキャンプ地」

「それが集落になって、今に至る」

「ヨーン市街地も昔はこんな感じだったみたいだよ」


 へぇ……。

 砦とはいうものの、小さな町のようになっている。


「俺は、ここの小隊長と小屋の管理者に挨拶してくるから、コイツを頼む」

「じゃあ、先に行ってるね!」


 アイリスがキージェのノイの手綱を受け取る。


 ノイを連れて中央の建物の裏手へ進むと、ヨーン市街地の中央広場ほどの草地に点在する小屋がいくつか見える。


「4人だからここでいいか」


 アイリスが2番目の小屋へと入り、腰に下げていたランタンを吊るす。


 野外のほうが、星明りや天然の明月草のお陰で明るいのが不思議なかんじ……。


「さ、ノイの鞍を外してやろう」


 小屋の内側には鞍を置く棚の他は何もない。広さは10畳くらいだろうか。


「へぇ……小さな厩舎」

「厩舎じゃないよ、ここが僕たちが泊まるところ」

「もしかして、ノイも一緒に?」

「うん」


 わぁ、ノイと一緒にいられるんだ!


 大型動物と同じ部屋で一晩過ごすなんて、すごい素敵!


「よしよし、お疲れ様!」

「クゥ~」


 鞍を外して汗を拭いてやると、リラックスしたようだ。先にノイに水と食事を与えてから、私たちの食事の支度。




 小屋の外で焚火をして、アイリスがキャンピィの肉を串に刺して焼く。


 私は少し分けてもらった肉をミンチにして団子にし、固形スープとマヨーさんが持たせてくれた野菜類と合わせてポトフを作った。


「エリ、料理できるんだ」

「実は、マヨーさんに少しずつ教わってるんだ」


 この世界の料理や調味料が分からないから、たまに買い物も一緒に行ったりしている。


「へぇー」


 ……かつてのエリムレアは料理は一切しなかったのかなぁ。


「ねぇ、アイリス。記憶を失くす前の()は、こういう時って何してた?」

「特に何も」

「え、そうだったんだ」

「エリは主に片づけ担当だったよ。そうやって暗黙の役割分担していたかな」


 ふむふむ……。


「一度、肉を切ってって頼んだら剣を持ち出してきたんだよ。それも二刀流で」


 ぷっ……


 やばい、エリムレアが可愛い……! それをライブで見たかったなぁ……。




 食事の支度が終わり、みんなで焚火を囲んで座る。


「いただきます!」


 近場の探索では、休憩の時に食べるのは簡素な食事やおやつだったけど、本格的なアウトドアご飯……とても楽しいし美味しい。


 キャンピィの串焼きは鶏肉のような食感。ちょっとパサつく感じはあるけど、強めの味付けが最高だった。


「美味しいね!」

「あぁ!」

「ポトフのスープとよく合うなぁ」

「それはマヨーさん直伝!」

「明日からは携帯食だから、今日はしっかり食べておいて」

「俺たちは本当にアイリスに生かしてもらってるよなぁ」


 治癒士(ヒーラー)といえば「儚い女の子がローブ姿で」という私の中の常識をアイリスが全て覆した。治癒士が弓で狩りをするなんて、想像つかないよね。


「でも、キージェだって獲物くらい魔法で捕れるんじゃないのか?」

「……できなくはないけどよ」

「できなくはないけど、キージェがやると焼け野原になっちゃうかな」

「うるせぇよ」

「でもほら、照明とかこういう焚火とかさ、細かいところで役立ってるから」

「……俺はランタンやコンロかよ」


 アイリスがたまにキージェを家電製品みたいに使っているのは、ちょっと微笑ましい。


 私が初めてキージェの魔法を見たのは、この世界に来た翌日。


 死ぬと思った時に、目の前のガイダが炎に包まれた時はとても驚いたし、走っていくアイリスに当たらないように、魔法で援護していた。


「そういえば、アイリスはキージェみたいな炎が出るような魔法は使えないの?」

「あー……」


 とても基本的な質問だっただろうか……。もしも誰もが知っているようなことならどうしよう。


「アイリスは、幻炎(げんえん)魔法の(たぐい)のものは使えないんだ」

「それって治癒魔法が得意だから? それとも専攻したのが先だから?」


 それとも、よくある属性の話とか。


 本屋さんに行った時に、魔法の本も見てくれば良かったなあ。


「エリ、この話は……」


 グランが手の平を下に向けて「静まれ」のゼスチャー。


 あっ……


 治癒士拉致事件についてはまだ何も解決していない。治癒魔法の話は他人に聞かれたらまずいんだ……。


 ここは一応戦場だった場所にも近い禁足地だし、正規軍の基地と言っても100%安全じゃないかもしれない。


「ごめん」

「ううん、この話は帰ってからにしようか」

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今回も読んでくださりありがとうございます。

更新するたびに、アクセスがあることを確認して安心しています。本当にありがとうございます。

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