南部のキャンプ地
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
再びノイに乗り、私たちは南を目指す。
小さな集落や、畑、流れゆく見慣れない風景に、期待と不安が交互に押し寄せてくる。
小道の標石に「南ヨーン禁足地群」と記されている。
「おー、やっと南部に入ったな!」
「たまにはのんびり遠征するのもいいもんだなぁ」
「キージェ、良くこの依頼みつけてきたね」
「いや、今回はメルナさんが俺達にどうかってさ」
「じゃあ、ご指名ってこと?」
「あぁ。特命依頼なんだ」
「特命! やったー!」
「特命?」
「特命は総合的に色々求められる依頼の事で、単なるお使いじゃないものを区別しているんだ」
「報酬もかなり高額なんだよ」
「へぇ……」
「俺は特命依頼は初めてだが、キージェから持ち物の指定が多かったし、なんとなくそうじゃないかと思ってたよ」
「グランは今回うってつけの依頼だよ。俺達も、グランが来てくれたからこそ斡旋してもらえたから感謝だな!」
いわゆる〝冒険者のパーティ制度〟というものがあって、気の合う者同士だったり技量が同じ者同士だったりと、冒険者たちはそれぞれ少人数で行動を共にしている。
ヨーンに出て来てすぐの一人者などは、先日アイリスに教えてもらった他のグループに参加させてもらう制度など、色々と支援はある。
「俺は、探索は今まで一人で行動することが多かったから、本当にありがたいな」
「グランはドーヴァにずっと付き添いしてたから独りじゃなかったじゃん」
「ば……馬鹿言うな。こっそり見守っていただけで付き添いじゃない」
「そういうのが過保護っていうんだよ」
「じゃあ、今は手が離れたって感じなんだね」
「あぁ。無茶する性格だから、仲間に迷惑をかけてないか気が気じゃないけどな」
最初の目的地である場所、南ヨーン1号砦に到着。外周は重厚感のある石垣で、古びた門の内側には人の姿も見える。
この場所は正規軍の南方守備隊の砦で、探索目的の自警団や冒険者も使って良い場所があると、道中でキージェが説明してくれた。
「先日のデジエント征伐の時にも、ヨーン自警団の大半がここで世話になったんだ」
門をくぐると簡素な堀があり、橋を渡った先には石造りの建物があった。
「ここも禁足地? 城跡みたいだけど……」
「ううん、ここは昔、冒険者たちが作ったキャンプ地」
「それが集落になって、今に至る」
「ヨーン市街地も昔はこんな感じだったみたいだよ」
へぇ……。
砦とはいうものの、小さな町のようになっている。
「俺は、ここの小隊長と小屋の管理者に挨拶してくるから、コイツを頼む」
「じゃあ、先に行ってるね!」
アイリスがキージェのノイの手綱を受け取る。
ノイを連れて中央の建物の裏手へ進むと、ヨーン市街地の中央広場ほどの草地に点在する小屋がいくつか見える。
「4人だからここでいいか」
アイリスが2番目の小屋へと入り、腰に下げていたランタンを吊るす。
野外のほうが、星明りや天然の明月草のお陰で明るいのが不思議なかんじ……。
「さ、ノイの鞍を外してやろう」
小屋の内側には鞍を置く棚の他は何もない。広さは10畳くらいだろうか。
「へぇ……小さな厩舎」
「厩舎じゃないよ、ここが僕たちが泊まるところ」
「もしかして、ノイも一緒に?」
「うん」
わぁ、ノイと一緒にいられるんだ!
大型動物と同じ部屋で一晩過ごすなんて、すごい素敵!
「よしよし、お疲れ様!」
「クゥ~」
鞍を外して汗を拭いてやると、リラックスしたようだ。先にノイに水と食事を与えてから、私たちの食事の支度。
小屋の外で焚火をして、アイリスがキャンピィの肉を串に刺して焼く。
私は少し分けてもらった肉をミンチにして団子にし、固形スープとマヨーさんが持たせてくれた野菜類と合わせてポトフを作った。
「エリ、料理できるんだ」
「実は、マヨーさんに少しずつ教わってるんだ」
この世界の料理や調味料が分からないから、たまに買い物も一緒に行ったりしている。
「へぇー」
……かつてのエリムレアは料理は一切しなかったのかなぁ。
「ねぇ、アイリス。記憶を失くす前の私は、こういう時って何してた?」
「特に何も」
「え、そうだったんだ」
「エリは主に片づけ担当だったよ。そうやって暗黙の役割分担していたかな」
ふむふむ……。
「一度、肉を切ってって頼んだら剣を持ち出してきたんだよ。それも二刀流で」
ぷっ……
やばい、エリムレアが可愛い……! それをライブで見たかったなぁ……。
食事の支度が終わり、みんなで焚火を囲んで座る。
「いただきます!」
近場の探索では、休憩の時に食べるのは簡素な食事やおやつだったけど、本格的なアウトドアご飯……とても楽しいし美味しい。
キャンピィの串焼きは鶏肉のような食感。ちょっとパサつく感じはあるけど、強めの味付けが最高だった。
「美味しいね!」
「あぁ!」
「ポトフのスープとよく合うなぁ」
「それはマヨーさん直伝!」
「明日からは携帯食だから、今日はしっかり食べておいて」
「俺たちは本当にアイリスに生かしてもらってるよなぁ」
治癒士といえば「儚い女の子がローブ姿で」という私の中の常識をアイリスが全て覆した。治癒士が弓で狩りをするなんて、想像つかないよね。
「でも、キージェだって獲物くらい魔法で捕れるんじゃないのか?」
「……できなくはないけどよ」
「できなくはないけど、キージェがやると焼け野原になっちゃうかな」
「うるせぇよ」
「でもほら、照明とかこういう焚火とかさ、細かいところで役立ってるから」
「……俺はランタンやコンロかよ」
アイリスがたまにキージェを家電製品みたいに使っているのは、ちょっと微笑ましい。
私が初めてキージェの魔法を見たのは、この世界に来た翌日。
死ぬと思った時に、目の前のガイダが炎に包まれた時はとても驚いたし、走っていくアイリスに当たらないように、魔法で援護していた。
「そういえば、アイリスはキージェみたいな炎が出るような魔法は使えないの?」
「あー……」
とても基本的な質問だっただろうか……。もしも誰もが知っているようなことならどうしよう。
「アイリスは、幻炎魔法の類のものは使えないんだ」
「それって治癒魔法が得意だから? それとも専攻したのが先だから?」
それとも、よくある属性の話とか。
本屋さんに行った時に、魔法の本も見てくれば良かったなあ。
「エリ、この話は……」
グランが手の平を下に向けて「静まれ」のゼスチャー。
あっ……
治癒士拉致事件についてはまだ何も解決していない。治癒魔法の話は他人に聞かれたらまずいんだ……。
ここは一応戦場だった場所にも近い禁足地だし、正規軍の基地と言っても100%安全じゃないかもしれない。
「ごめん」
「ううん、この話は帰ってからにしようか」
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