命の輪
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
全員ノイの支度が整い、明け時前に私たちも出発だ。
「エリは長距離移動は久しぶりだよな」
「うん。北ヨーン丘陵……だっけ、あれ以来かも」
あの時はこっちにきた翌日で、何も分からないままだったけど……あの日の帰りに見た景色は忘れられないほど綺麗だったな。
「今回はのんびり移動! もちろん、途中で休みながら行くよ」
「国境まで行くわけじゃないから、ゆっくり行っても1日半で着くだろう」
制圧戦ではなく探索に行くので、今回はかなり気が楽。というか、旅行みたいで楽しい。
ヨーン市街地の周辺は草原地帯と少し荒れた遺跡ばかりだけど、1時間ほど走ると大きな川が現れた。
「サンピス川だ!」
この川はギンナザムを南西から北東へと流れる大きな川。
赤い太陽の光をうけた川面から水蒸気が立ち昇っていて、幻想的で美しい。
河原でノイたちに水を飲ませ、おやつを食べさせて、私たちも少し休憩。
「エリ、革工房で店番はしなくていいって言われたんだって?」
「うん……。職人街の女性たちが代わる代わるやって来て、商売にならないって言われちゃった」
「だから言ったじゃん、饒舌のエリはモテるって!」
アイリスがけたけたと笑う。
「お前は不愛想なくらいがちょうどいいって感じだな!」
だって中身はナズナだし、女性と話がはずんじゃうのは仕方がないじゃない。
はっ……まさかエリムレアの不愛想は女性避け……?
「あれ、何するの?」
アイリスが弓の準備をしている。
「ちょっと待っててね」
そっと川下に歩いていく。
「今夜の飯を捕りに行ったんじゃないかな」
「あ、そっか」
携帯食はあくまでも非常食。狩れるときはちゃんと現地調達するって予定だった。
バシャバシャと水音がして、飛び立つ鳥をアイリスが仕留めた。
「うわ、ありゃでかいな」
白鳥くらいある大きな青い鳥……。そういえば、鳥はこの世界に来て初めて見た。
「えへへ、一発で仕留めた」
鳥は既に息絶えていて、アイリスは下処理のための道具を準備している。
「キージェ、照明~」
「ほらよ」
キージェが小さく放った照明魔法のお陰で、獲物の姿がはっきり浮かび上がった。
「これは?」
「キャンピィだ。空を飛ぶものの中じゃかなりデカい方だな」
「へぇ……」
ってよく見ると、鳥じゃなくて獣だ……。
ムササビやモモンガのように手足は飛膜が付いていて、細かい毛が生えている。
「アイリス、この毛皮……」
「あ、そうだね。エリにあげる!」
肉は現地調達と聞いていたので、もしもと思って毛皮を処理する道具類を持ってきていた。
スモノチ狩りの時もそうだったけど、アイリスは獲物をあまり苦しませないし、遺体をそのままにせず、手際よく食材へと変えてしまう。
私は受け取った皮を処理して、組み立てた木枠にかけた。
青い毛皮か……色んな動物がいるなぁ。
毛足は12ミリくらいかな? 中型のぬいぐるみを作るのにちょうど良い長さ。毛は密集していてフワフワ。水を弾くようになっているのかな。
「キャンピィの毛皮って、すごく手触りいいね」
「王都の金持ちに高額で売れるぞ」
「え、いくらくらい?」
「そのくらいの大きさなら最低でも3万ツバン!」
「じゃあ、これは私が買い取るから、みんなに金貨1枚ずつ!」
「別にいいのに」
「ううん、私ひとりじゃ捕れないから」
「……わかった!」
「あんまり気を遣うなよ」
いつも皆に気を遣わせてるのは私の方なんだよ。
アイリスはキャンピィの肉をグランの持って来た大きな桶に収め、手をかざし淡い光で肉を包んだ。
「何をしたの?」
「維持の魔法だよ」
「え、肉に魔法……?」
「うん。まだ……生命活動が完全に終わったわけじゃないからね」
「あ……そっか……」
「だから、腐らないように現状維持!」
「そしてありがたく頂いて、俺たちの命を繋いでいくぞ」
「だな! 残さず食う!」
「そういう事だ! 暗い顔なんかするな」
……みんなの考え方に共感しかできない。
「毛皮もエリが驚くようなものに作り替えてくれるから! でしょ?」
「……うん!」
はじめは野蛮な世界に来てしまったと思ったけど、なかなか捨てたもんじゃないかも……。なんだかんだで丁寧な暮らしをしている気がする。
日本ではやろうと思っても無理だよ……こんなに毎日色んな事に感謝しながら生きるのって。
便利過ぎて当たり前に過ごしていること……多かったな。
……今、この輪の中にいられることが、とてつもない幸せに感じた。同時に、エリムレアに対する感謝、申し訳なさ、色んな想いが溢れてきた。
涙が落ちないよう、立ち上がって空を眺める。短い昼が終わり、そろそろ丘の向こうに陽が沈む。
私にとって東京の夜景のようなこの空は、異世界に来たという象徴だ。
足元に生える小さな草花や、この川の流れも、夜空も、色鮮やかで美しく、愛おしく思える。
グラデーションの空を写した川面に、Vの字に波紋がゆらめく。
『そっか、魚もいるのか』
すべるように飛び立つ何匹かのキャンピィ……
「……水辺の楽園って感じ」
命が輝く美しい世界――
ザバァッ!
「ヒッ!」
水面から巨大な魚が飛び上がり、キャンピィをまとめて飲み込み、大きな水しぶきを上げて沈んでいった……。
「ヒョエェェ……!!」
「あ、川に近づきすぎると危ないよ」
「う……うん」
買ったばかりの本、やっぱり持ってくればよかった……。野外にいる時はみんなと離れないようにしなきゃ……
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