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死にかけ女と猫のぬいぐるみ  作者: 明星 志
第3章 カルツの神殿
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命の輪

※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています

 全員ノイの支度が整い、明け時前に私たちも出発だ。


「エリは長距離移動は久しぶりだよな」

「うん。北ヨーン丘陵……だっけ、あれ以来かも」


 あの時はこっちにきた翌日で、何も分からないままだったけど……あの日の帰りに見た景色は忘れられないほど綺麗だったな。


「今回はのんびり移動! もちろん、途中で休みながら行くよ」

「国境まで行くわけじゃないから、ゆっくり行っても1日半で着くだろう」


 制圧戦ではなく探索に行くので、今回はかなり気が楽。というか、旅行みたいで楽しい。


 ヨーン市街地の周辺は草原地帯と少し荒れた遺跡ばかりだけど、1時間ほど走ると大きな川が現れた。


「サンピス川だ!」


 この川はギンナザムを南西から北東へと流れる大きな川。


 赤い太陽の光をうけた川面から水蒸気が立ち昇っていて、幻想的で美しい。


 河原でノイたちに水を飲ませ、おやつを食べさせて、私たちも少し休憩。


「エリ、革工房で店番はしなくていいって言われたんだって?」

「うん……。職人街の女性たちが代わる代わるやって来て、商売にならないって言われちゃった」

「だから言ったじゃん、饒舌のエリはモテるって!」


 アイリスがけたけたと笑う。


「お前は不愛想なくらいがちょうどいいって感じだな!」


 だって中身はナズナだし、女性と話がはずんじゃうのは仕方がないじゃない。


 はっ……まさかエリムレアの不愛想は女性避け……?




「あれ、何するの?」


 アイリスが弓の準備をしている。


「ちょっと待っててね」


 そっと川下(かわしも)に歩いていく。


「今夜の飯を()りに行ったんじゃないかな」

「あ、そっか」


 携帯食はあくまでも非常食。狩れるときはちゃんと現地調達するって予定だった。


 バシャバシャと水音がして、飛び立つ鳥をアイリスが仕留めた。


「うわ、ありゃでかいな」


 白鳥くらいある大きな青い鳥……。そういえば、鳥はこの世界に来て初めて見た。


「えへへ、一発で仕留めた」


 鳥は既に息絶えていて、アイリスは下処理のための道具を準備している。


「キージェ、照明~」

「ほらよ」


 キージェが小さく放った照明魔法のお陰で、獲物の姿がはっきり浮かび上がった。


「これは?」

「キャンピィだ。空を飛ぶものの中じゃかなりデカい方だな」

「へぇ……」


 ってよく見ると、鳥じゃなくて獣だ……。


 ムササビやモモンガのように手足は飛膜が付いていて、細かい毛が生えている。


「アイリス、この毛皮……」

「あ、そうだね。エリにあげる!」


 肉は現地調達と聞いていたので、もしもと思って毛皮を処理する道具類を持ってきていた。


 スモノチ狩りの時もそうだったけど、アイリスは獲物をあまり苦しませないし、遺体をそのままにせず、手際よく食材へと変えてしまう。


 私は受け取った皮を処理して、組み立てた木枠にかけた。


 青い毛皮か……色んな動物がいるなぁ。


 毛足は12ミリくらいかな? 中型のぬいぐるみを作るのにちょうど良い長さ。毛は密集していてフワフワ。水を弾くようになっているのかな。


「キャンピィの毛皮って、すごく手触りいいね」

「王都の金持ちに高額で売れるぞ」

「え、いくらくらい?」

「そのくらいの大きさなら最低でも3万ツバン!」

「じゃあ、これは私が買い取るから、みんなに金貨1枚ずつ!」

「別にいいのに」

「ううん、私ひとりじゃ捕れないから」

「……わかった!」

「あんまり気を遣うなよ」


 いつも皆に気を遣わせてるのは私の方なんだよ。




 アイリスはキャンピィの肉をグランの持って来た大きな桶に収め、手をかざし淡い光で肉を包んだ。


「何をしたの?」

「維持の魔法だよ」

「え、肉に魔法……?」

「うん。まだ……生命活動が完全に終わったわけじゃないからね」

「あ……そっか……」

「だから、腐らないように現状維持!」

「そしてありがたく頂いて、()()()の命を繋いでいくぞ」

「だな! 残さず食う!」

「そういう事だ! 暗い顔なんかするな」


 ……みんなの考え方に共感しかできない。


「毛皮もエリが驚くようなものに作り替えてくれるから! でしょ?」

「……うん!」


 はじめは野蛮な世界に来てしまったと思ったけど、なかなか捨てたもんじゃないかも……。なんだかんだで()()()()()()をしている気がする。


 日本ではやろうと思っても無理だよ……こんなに毎日色んな事に感謝しながら生きるのって。


 便利過ぎて当たり前に過ごしていること……多かったな。


 ……今、この輪の中にいられることが、とてつもない幸せに感じた。同時に、エリムレアに対する感謝、申し訳なさ、色んな想いが溢れてきた。


 涙が落ちないよう、立ち上がって空を眺める。短い昼が終わり、そろそろ丘の向こうに陽が沈む。


 私にとって東京の夜景のようなこの空は、異世界に来たという象徴だ。


 足元に生える小さな草花や、この川の流れも、夜空も、色鮮やかで美しく、愛おしく思える。


 グラデーションの空を写した川面に、(ブイ)の字に波紋がゆらめく。


『そっか、魚もいるのか』


 すべるように飛び立つ何匹かのキャンピィ……


「……水辺の楽園って感じ」


 命が輝く美しい世界――


 ザバァッ!


「ヒッ!」


 水面から巨大な魚が飛び上がり、キャンピィをまとめて飲み込み、大きな水しぶきを上げて沈んでいった……。


「ヒョエェェ……!!」

「あ、川に近づきすぎると危ないよ」

「う……うん」


 買ったばかりの本、やっぱり持ってくればよかった……。野外にいる時はみんなと離れないようにしなきゃ……

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