気持ちを新たに
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
ガタゴトと近くで物音がする……。目を開けると、みんなが装備の支度を整えているところだった。
「よう、エリ!」
「お、起きたな」
あぁ……日本でのことを夢に見てたんだ。
「ごめん、寝過ごしちゃった」
でも……色んな人の言葉で……って、なんだっけ……
なんだか混乱しちゃってる……
雑魚寝に使っていた野営用の敷布も寝袋もそれぞれたたんで収納済。
昨日の食事の片づけは既に終わっていて、綺麗になっている。
「片付けとか、ありがとう」
「良いって。ぐっすり寝てたからそっとしておいた」
……寝かせておいてくれたんだ。
「さて、僕は一旦部屋に戻らなきゃ」
「アイリスは昨日支度する時間なかったからな」
それぞれ身支度を整え、戸締りをしてみんなで家を後にした。
「じゃあ、俺がアイリスの護衛をするから、エリとキージェは先にノイの支度をしててくれ」
「分かった。また後でな!」
さすがに行き先は寄宿舎の部屋だし、グランも一緒なら大丈夫かな……。
中央広場を横切って寄宿舎へ向かう二人の背を見送りながら、私たちは市街地の南にあるノイ厩舎まで歩く。
「なぁ、エリ。違ってたらごめん」
「ん?」
「お前が記憶を失った時、3日ほど寝込んでたって話しただろ」
「あ……うん」
「その時に見ていた夢の話なのか?」
夢で見た、といつも誤魔化しているけれど、あの時はかなり長い時間、真っ暗な闇の中にいたような気がする。
でも……今となっては日本での生活が夢のようなものだから。
「そうだね、長い夢を見ていたと思う」
「そうか。昨日は……その、笑って悪かった。記憶障害ってレベルじゃなさそうだもんな」
キージェ……
「気にしないで。こちらこそ気を遣わせてごめん」
本当に、ごめんなさい。
「お前に刺さっていたのは毒矢だったんだ。本当に死んじまうかと思っていたから、今のお前がどうであれ、生きていて……こうしてまた元気に探索に出られるのは本当に良かったと思う」
気持ちはとても嬉しい。だけど、私は本物のエリムレアじゃない。ごめんね。
でも……
「ありがとう」
「それでなんだが……お前のあの負傷の原因……装備の破損なんだ」
そういえば、アイリスがそんなこと言ってたっけ。
「制圧戦の時なんかは、現地についたら互いに装備の点検もするんだが、あんな壊れ方していたら、さすがに一旦待機命令が出る」
「それじゃあ……」
「つまり、お前の装備点検をしたやつが破損を伝えず……いや、エリが破損に気づかないはずがないから、点検を装って壊していたんじゃないかって思えてな」
「え、そんな……」
でも……ナズナにすら、陥れようとした人がいたくらいだし……。
「今回のアイリスの件で、疑惑が確信になりつつある」
「まさか……モデトンが?」
「あぁ。モデトンと取り巻きに関しては、いつでも誰にでもあんな感じだから、あの頃は特に疑問に思わなかったんだ」
モデトンはやっぱり最悪の小隊長だ。
「あの日は作戦の都合上、お前は正規軍と自警団の混合班で、俺達とは別行動だったんだ。……記憶がないから、その点検をしたヤツの名前も顔も、その時の状況も憶えてないだろ?」
「う……うん」
「……自警団に戻ってくれたら嬉しいとは思う反面、現状維持が良い気がする。アイリスと同様にお前も身の回りには気を付けてくれ」
「でも、私を殺そうとした人がいたなら、今まで機会はあったと思うけど……」
「俺もそう思ってはいる。だが……念のためだ」
そう言って私の胸をトンっと叩いた。
気を付けるって言っても、自警団を退団してから、私はとても平和に過ごしている。
……でも、キージェの言うことも一理ある……か。
「おはよう」
気分を変えて厩舎に入り、いつも私が借りているノイには明るく挨拶。
「クゥ~」
ラニゴ狩りの時は、突然姿を現したラニゴに驚いて落とされてしまったけど、キュスト隊長の剣の捜索が終わるまで、キージェ達が乗ってきたノイ車の横で大人しく待っていてくれたんだよね。
「またよろしくね!」
柵の外に18番の数字だけが書かれていて、名前はどこにもない。
ノイの1頭分の飼育費は、冒険者個人が負担している。傷病などの理由で、他の人に貸す場合も稀にあるそうだけど、基本は一人につき1頭。
『名前つけても良い……のかな』
ノイは馬に似ているけど、少し太めの脚にヤギのような蹄をしていて、山岳地帯やぬかるんだ場所でも歩くことができるタフな生き物。
首筋をポンポンとなでてから、装備を整える。
えーと、今日はいつもの鞍じゃなくて鞄を付けられる遠征用……と。
今回の探索は、南方のデジエント共和国の国境近くにある禁足地へ行く。つい先日戦があったばかりだから、ちょっと怖いんだけど……。
「エリ! エリムレアはどこ!?」
厩舎に女性の声が響く。……何事だろう?
「待て! ドーヴァ!」
何やら事件だろうか……。ノイ房から顔を出してみると、グランと女の人がいた。
「あ! いた!」
目が合うと、ものすごい勢いでこちらに飛び込んできた。
「会いたかった!」
「えっ……!」
……抱き着かれちゃった。って、誰?
「おい、ドーヴァ!」
「あ……あの、この方はいったい……」
「俺の同僚だ」
「……あ、あの怪我してたっていう?」
抱き着いたまま私を見上げた彼女は満面の笑顔。あら可愛い。
なるほど、女の子が彼氏を見上げるアングルは、一層可愛く見えるっていうのに納得しちゃった。
「ドーヴァだよ! 思い出した?」
「え、あ……いえ……」
……もしかして……エリムレアと特別な関係だったりして?
これほどのイケメンだもの、そういう女性がいてもおかしくはない……
「えー、あたしでもダメかぁ」
「すまん……ドーヴァは俺の妹だ。めんどくさいから普段は同僚って言ってるんだ」
「めんどくさいって何よ!」
「似ていないから余計な誤解が生まれるんだ!」
「違うよ、グランが過保護だから誤解が生まれるんだよ」
後ろからきたアイリスが笑っている。
「……ほら、エリが困ってるだろう。手を離すんだ」
「だって、デジエント征伐の時には会えなかったんだもん」
あぁそっか、ドーヴァはエリムレアのファンなんだね。
女性用の寄宿舎は離れたところにあるし、あまり接触する機会はないから、戦とはいえ一緒に出掛けられるのを楽しみにしてたのかな。
「じゃあ、次は一緒に行こうね」
「いいの?! やったー!」
「うるさいと思ったらドーヴァか」
キージェもノイ房から顔を出す。
「うるさくないもん」
年頃は……ジョンナより少し年上……二十歳くらいかな?
日焼けした肌に、冒険者特有の地味装備……だけど、ジョンナたちよりしっかりした良い装備だし、堂々としていて板についている。
「俺達と一緒に出かけるんだったら、普段組んでるやつらにちゃんと許可取って来いよ!」
「エリと一緒って言ったら、みんな一緒について来るよ!」
「それじゃダメじゃん!」
「ほら、お前もそろそろ出発だろう。さっさと行ってこい」
「じゃあ、またね、エリ!」
颯爽と駆けていく後ろ姿は、力強くてとてもかっこいい。
負傷しても、訓練施設に通って復帰して……それでも冒険者を続けているんだね。
「近場で探索らしい。肩慣らしに新人の双子のサポートだそうだ」
新人の双子……もしかしてジョンナとフェンナかな。彼らとはお互いすれ違いで会えてないけど、頑張ってるみたいで良かった。
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