夢で見た話し
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
みんなお腹が空いていたようで、即決で行きつけの個室のある酒場〝山の蛍亭〟へ向かったのだけど……
「すみませんねぇ。今日はもう満席でして」
「あー、市場の日だから商人さんたちか」
「えぇ、そうなんです。すみません」
店内はとても賑やかで、当分席は空きそうにない。
「色々話したかったんだけど、寄宿舎の食堂じゃなぁ……」
「個室のある店ってここだけ?」
「うん」
「……じゃあ、うちに来る? 個室じゃないけど一軒家だし」
「お! いいね! 俺達の荷物も預けたままだし、エリん家に行こう」
お店の人に頼んで料理を作ってもらい、それを持ち帰ることにした。
「酒は、俺がひとっ走りしてくるよ」
「じゃ、頼んだ!」
グランが酒屋で小さめの樽に入ったお酒を買って来てくれて、私たちはまずはアイリスの無事を祝った。
「みんな、本当にありがとう」
「今更だけどケガとかはない?」
「それは大丈夫!」
本当に良かった……。
「ところでルートンさんは?」
「ご夫婦は別の建物に住んでるから、ここは余程大きな声を出さなければ外には聞こえないよ」
「よし」
果実酒を一口飲んで、キージェが話し出す。
「アイリス、市場で何があったんだ?」
「……今日に限って、異国の商人がたくさん店を出してたんだ」
「確かにいつもより出店は多かったし、……アイリスの家族が異国にいる可能性も考えたら、どうしても情報を集めたくなるよな」
「手がかりが少ないし、毎回期待し過ぎないようにはしてるんだけどね」
アイリスが俯く。
「やっぱり大した話は聞けなくて……。探索の準備をしに帰ろうと思って歩いていたら、見かけない商人が声をかけて来てさ」
「サーギルか」
「うん……僕に似た家族と親しい商人が来てるって言われたんだ」
アイリスの髪は青みがかった藤色で、特徴的だ。
「……いつも商人さんたちが『知り合いにも聞いてみる』って言ってくれるから、それでわざわざヨーンに来てくれた人なのかなって。だから会ってみようと思ったんだ」
……完全にアイリスの心理を利用している。本当に許せない。
「サーギルに連れられて出店まで行くと、〝荷車で休憩中〟って看板がでていたので荷車まで行ったんだ」
「それで……?」
「背後から口をふさがれて、気づいた時は袋の中」
「……絶対に許さない!」
思わず、床を力いっぱい踏みつけてしまった。
「エリ……」
「だって、アイリスの家族を想う気持ちにつけこむなんて、絶対に許せない!」
「俺も同感だ」
「俺もだ」
「みんな……。でも……どうして僕があそこにいるってわかったの?」
「アイリスが厩舎に来なくて、攫われたんじゃないかって勘を働かせたのはキージェ。チョビ髭商人がサーギルだと気づいたのはグラン」
「そうなんだ……ありがとう」
「そしてニセ商人を倒したのはエリだ」
「うん、ありがとう」
グータッチまで含めて、みんなとてもいい連携だったと思う。
「問題は、モデトンがどうして拉致に関わっていたのか、なんだよなあ」
キージェが声のボリュームを下げた。
「あいつ、上官に取り入りたいのに、なんでヨーンの正規軍に背く行為なんかしたんだろね……」
「ピルーコ指揮官は、慎重に取り調べをするから、しばらくこのことは口外禁止だとよ」
「……まぁ、そうなるよな。ヨーン市の中枢ともいえる正規軍の小隊長がこんなことして」
治癒士が減れば、それは味方にとってかなりの痛手なのに。
「治癒士の拉致問題か……。首都の方で問題になってるって言ってたし、政府としても何とかする気はあるみたいだな」
「アイリスが高く売れるって言ってたよね……。一体どこに売るつもりだったんだろう」
「反ヨーン派か、異国か……どちらにしても調べるのは慎重になるなぁ……」
「正規軍のモデトンがどこまで人身売買に絡んでるのか分からないけど、自警団のサーギルと組んでいたし油断はできないな。アイリス、一人で行動するのは控えろ」
「わかった」
寄宿舎にはキージェもグランもいる。だけど……部屋は少し離れてるし、不安も残る。
「モデトンは、さすがに正規軍も退役だよね。……僕たちの小隊どうなるんだろう」
「ピルーコ指揮官はキュスト隊長をもう一度うちの小隊長にするって話してた」
「えっ、ほんと?」
「本当。ピルーコ指揮官の前で、思わず飛び上がりそうだった」
「まぁまだ、確定じゃないけどな」
「うんうん!」
キュスト隊長の名前が出ただけで、この場が明るくなった。
もし私が本当のエリムレアならば、大喜びで自警団に戻ったんだろうな……。
料理を食べ、適度にお酒を飲み、今日はもうここでみんなで雑魚寝でいい。
キージェの野営用の敷布に寝転がってアイリスが言った。
「治癒士を売るってさぁ……僕ならどのくらいの値段になるんだろう」
「何言ってんだよ、呑気だな」
「だってさー、自分に値段が付くって考えたことなかったもん」
キージェが呆れているけど、本当に売られちゃってたら冗談じゃ済まないよ。
「もし異国に売れて行かれたら言葉も通じなくて大変かもよ?」
「え? 何言ってんだよ」
「だって、すごーく遠い所に連れて行かれちゃったら、話す言葉も違っちゃうし、アイリスがお腹が空いたって言っても何も伝わらないよ」
「え?」
「え?」
「え?」
「えっ?」
何か不味いこと言っちゃったかな……
「話す言葉が……って?」
「どういう事?」
「え。言葉……違わないの?」
「違うって何が?」
「ほら……国ごとに言葉が違ったり」
その後に、3人が「何を馬鹿な」と大笑い。もう酔ってるから何でも面白いみたい。
「お前だってカザンのさらに向こうから来たんだろが!」
キージェがお腹を抱えて笑っている。
……もしかして、この世界は……単一言語? 外国語という概念がない?
「えっと……夢でみた……やつ」
「またそれー?」
「エリの得意技だよなー!」
お酒の手伝いもあって、みんなが大笑い。……よかった、冷静に突っ込まれなくて。
エリムレアの手記では、隣国のカザンからヨーンにやってきたとあったけど、もっと遠くの異国生まれの人なんだ……
「明日は移動が長いし、そろそろ寝ようぜ。詳しい打ち合わせはあっちに行ってからだ」
あくびをしながらキージェも寝転がった。
「だな~」
グランもごろりと横になる。
「みんな、おやすみ」
「おやすみ~」
エリムレアがわざわざ国を越えてまでヨーンに来た理由は何だろう。
ヨーンという都市は、冒険者への支援も充実しているし、とても暮らしやすいところだとは思うけど、そもそも何故冒険者になったのかは分からないし、彼の過去を知っている人は少ない。
キュスト隊長ならキージェ達と出会う前の事もご存知かもしれないけど、きっと今でも複雑な心境かなと思うと……その話題は口に出せなかった。
すべてを行動で示すというエリムレア……。
貴方がこの世界を去りたいと願った理由は……何?
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次回から第3章です!




