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死にかけ女と猫のぬいぐるみ  作者: 明星 志
第2章 陰謀の足音
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打診

※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています

「つまり、君たちはアイリスの救出のためにサーギルおよび黒服の商人と戦闘した、ということか」

「……その通りです」


 アイリスだけは別室に呼ばれ、私たちは司令本部にあるピルーコ指揮官の部屋で、事件のあらましについて説明していた。


「……君たちも知っての通り、治癒士は戦場において欠かせない存在だ。アイリスの救出、感謝する」


 座ったままではあるけれど、ピルーコ指揮官は私たちに頭をさげた。


 以前、キージェが話してくれたけど、出世をしたいなら強い治癒士になれというのもなんとなくわかる気がした。


 アイリスはきっとピルーコ指揮官から目をかけられている。


「モデトンについては、意識が戻り次第事情を聴く。一緒に捉えたサーギルと商人については既に取り調べが始まっているが、念のためにこの事はまだ内密にしておいてくれ」

「……承知しました」


 正規軍から派遣されている小隊長の不祥事だし、色々伏せておきたいんだろうな。


「君たちの不満も分かるが、治癒士の拉致事件については以前から……実は首都の周辺で問題になっていることでもある。あの商人から色々聞き出してその背後を探りたいのだ。……協力と理解をお願いしたい」

(おそ)れながら……モデトン小隊長については、事情を聴くだけで終わりではないですよね?」


 キージェが低い声で問う。感情を押し殺しているのが私にも伝わる。


「……もちろんだ。彼についても慎重に取り調べを行う」

「徹底的にお願いします。そのために俺達は彼らを生かして捕え、アイリスはモデトン小隊長に手当ても施しました」

「……あぁ、約束しよう」


 苦虫をかみつぶした顔のピルーコ指揮官……。前に広場で見た時は勇ましく、精悍な顔をしていたけど、さすがにこの不祥事ではそうならざるを得ないよね。


「ところで、エリムレア」

「はい……?」

「一度、自警団を退団させたが……戻って来ないか?」

「え?」


 ……頭が真っ白になる……。


 近々、北東の禁足地の制圧戦があるというし……。


 ……人を斬った感触が手に蘇り、私は右手を握りしめた。


「……いえ、戻る気はありません」


 私の手は……ぬいぐるみを生み出すためにあるから。


「モデトンの代わりに、再びキュストを君たちの小隊長に据える予定だ」


 キュスト隊長を……?


「……前向きに考えておいてくれ」

「……」


 モデトンとサーギルと黒服の行商人の取り調べの進捗次第で、何度か事情聴取を行うと伝えられ、ようやく解放された。




 司令本部の玄関を出ると、アイリスが待っていた。


「みんな、お疲れ様」

「アイリスも、お疲れ様」

「で、探索どうしよう。今から出発する?」


 少しは元気になったようだけど……


「……今日は無理するな。急ぎの依頼じゃないから明日にしよう」

「グランの言う通りだよ、アイリス」


 ようやく緊張が解け、現実に戻った途端に一気にお腹が空いた。


「とりあえず、メシだな!」

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