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死にかけ女と猫のぬいぐるみ  作者: 明星 志
第2章 陰謀の足音
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絶対に許さない

※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています

 私たちは少しばらけて距離を保ちながら、モデトンたちの後を追った。彼らは案の定、西の壁際、荷車が並んでいるところへと入って行った。


「アイリスが優先だけど、できる限り証拠を押さえてまとめて処分喰らわしてやろうぜ」


 キージェが私たちに手の平を向けて目を閉じると、急に二人の気配が……薄くなった?


「何かした?」

「作戦行動用の影魔法を俺達にかけた。姿や音声が認識されにくくなるが、完全に消えるわけじゃない。大声を出したり、誰かに触れると解けるから気を付けるんだ」

「これ、さっきも使ってた?」

「あぁ」


 なるほど、だからグランが大丈夫だって言ったのね。


「よし、グランは荷車の反対側へ回ってくれ」

「分かった」


 キージェの言っていた通り、隣の荷車との間には木箱がいくつか無造作に詰まれている。……目隠しのためかな。


 息を殺して、アイリスの乗った荷車の隣の荷車の隣へ忍び寄る。


 地下探索用の装備で良かった……。




「これはこれはアイリス殿、なんとも無様ですね」


 モデトンの声だ。……ほんとむかつくヤツ!


 でも……アイリスの声が聞こえない。


「向こうでご家族に会えるといいですね……クックックッ」


 ……絶対に許さない。


「間違いなくうちの隊の治癒士です。先日も腹を裂かれた剣士を蘇らせましたので、腕は確かです」

「ほぉ……それは良いお値段が付きそうですね」


 やっぱり売るつもりだったんだ。


「こちらは帰りの通行手形です。……お気を付けて」

「では、モデトン殿にはお約束のこちらを」


 商人の男は、肩から下げていた鞄から何かを取り出した。お金の袋だろうか?

 その直後だった。


 行商人の男がもう片方の手で短剣を抜き、モデトンの腹に突き刺した。


「うぐっ……! な、なにを……?」


 モデトンは腹を抑えて地面に倒れこんだ。


「エリ、行くぞ!」

「うん」


 アイリス、無事でいて……!


 私は、両手に剣を構えた。


「絶対に許さない!」

「な、なんだ貴様ら……!」


 サーギルは、倒れているモデトンを置いて一目散に逃げようと走り出した。黒服の商人もそれを追うように走り出す。


「させるかよ!」


 このタイミングで反対から飛び出したグランに正面から腹を殴られ、サーギルは膝をついて倒れた。


「良いぞ! グラン!」


 やはり反対隣の荷車との間にも木箱が積まれていて、サーギル達にはそれが仇になった。


「グラン、ありがとう!」

「おう!」


 グランは、倒れているサーギルを踏みつけ、剣を構える。挟み撃ちだ。


「エリ、先陣切れるか?」

「やる……キージェはアイリスをお願い!」

「あぁ、任せろ!」


 キージェは私の背後で荷台に飛び乗った。


「アイリス! しっかりしろ!」


 無事でいて……アイリス!




 数日前のことだった――


「今日はこの中での訓練だ」


 今日行く予定だった探索の内容を話したら、キュスト隊長が闘技場の中に大きな木製の衝立(ついたて)を持ち込んだ。


「え。この中で……ですか?」

「探索時、狭い地下通路で猛獣や反ヨーンの連中と出くわすことだってあるんだぞ」

「なるほど、その想定の……」

「武器の範囲、自分の動ける範囲と間合いを見極めろ」


 キュスト隊長は「狭いところでは大剣を持つ奴はいない」と言いつつ、いつもの大剣。それでも華麗に剣を持ち換えたり、身を反転させながら衝立に剣をぶつけることなく的確に攻撃を繰り出してくる。


 私の剣は何度も衝立にあたり、思うように動けなかった。


 剣が横に振れない以上、工夫する必要がある。


「エリ、自分の剣の範囲を知っておくのは、どんな戦闘においても重要だ。肝に銘じておけ」




 あの後、何時間も衝立の内側で素振りをしたことが、今役に立つ。

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