不穏な空気
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
お互い買い物を終えたところでキージェと合流し、市場を後にした。
「なんだ、結構色々買ったんだな」
「うん、知りたい事多くて……」
買ったのは、動物の本が2冊、工芸に関する本が2冊、絵本1冊に地図。
「そっか……。どんな疑問でもいいから遠慮なく聞いてくれ。俺達で分かることもあるかもしれないし」
「うん、ありがとう」
職人街の裏通りを歩いて、自宅前で一度解散。
「じゃ、装備整えていくから、また後でね!」
「じゃあな!」
家に戻り、台所の棚に茶葉を納め、本を作業机の上に置いた。
この後、私たちはノイに乗って南ヨーンの禁足地へ行く予定だ。
地下深くの遺跡の探索なので、キージェからはハードレザーの装備でと指定があった。金属の装備は地下空間では音が響くから、という理由らしい。防御力は少し弱いけど身軽なのはとてもいい。
今までは近場の探索しか行ってなかったけど、今回は本格的な遠征で地下神殿の探索。
この日のために、キージェからは装備も含め準備するものを色々と教えてもらった。日数もかかるから荷物もそれなりに多い。
買ったばかりの携帯食と消耗品を鞄に詰め、水を満杯にいれた水筒をベルトのホルダーに納めた。
身支度もだいぶ手慣れてきた!
「よし!」
腰に剣を下げ、鏡の前で気合を入れる。
鏡の中のエリムレアは、今日も本当にかっこいい。いつもの銀色の鎧も良いけど、この黒のレザーの鎧姿も味があって良い。
だけど……
『できればナズナの視点でエリムレアを眺めていたかったぁぁ!』
それほどまでに、イケメンなんだよ。本当に。
野営に使う道具類を入れた大きめの鞄を背負い、家を出てノイ厩舎へ。
入り口では、キージェとグランが既に待機していた。
「グラン、よろしく!」
「よろしく! エリと一緒に行くのは久しぶりだな」
グランは南方のデジエント国境での戦の後、負傷した同僚にずっと付き添っていた。
「同僚さんは、もう大丈夫なの?」
「あぁ。もう大丈夫だ」
一緒に行動をするようになったけど、なんとなくグランだけはまだもう一歩距離が遠い気がする。
完全な憶測だけど、グランにとっては同僚さんのほうが私たちよりも近い位置なんじゃないかな。……なんて思ってみたり。
他愛ない会話を繰り返して待っていたのだけど、アイリスが来ない。
「明け時には出発している予定だったのになあ」
既に太陽が東南の低い空に昇り、街を赤く染めている。
「どうしたんだろな。寝てるのか?」
「ううん、一緒に市場に行ってたんだけど、途中で行くところがあるからって」
「うーん……」
「電話してみようか」
「デンワ?」
しまった……。
「ごめん、こないだ夢で似たようなことがあって……その時に出てきた言葉」
仮に電話があってもアイリスと連絡先を交換した覚えはない。
「……なんだか胸騒ぎがするな」
キージェが低い声でつぶやいた。
「え?」
「エリ、家で荷物を預かってくれ。市場に行く!」
「あ、うん」
職人街へ向かって走り出すキージェの後を、私とグランが追う。
私の家のドアから荷物を投げ入れる。
「武器は外すな。いいな」
「え?」
いったいどういう事?
焦りを帯びたキージェが再び走り出す。
思い返せば、アイリスは他人への気遣いができるしっかり者。無断遅刻なんてありえない……。
明け時を過ぎた市場はさっきよりも活気があって、学者や冒険者、正規軍と思われる人たちがたくさんいた。
「エリ、グラン、良く聞け。アイリスは恐らく……行商人に攫われた」
低く小さな声で放たれたキージェの言葉に耳を疑う。
「なんで……」
「治癒士の拉致の話は聞いたことがあるな」
「こんな……こんなところで……?」
だってここはヨーン市街地だし、何より正規軍の敷地。すぐ目の前に司令本部がある。
「戦場で、瀕死の治癒士が連れ去られることは今までもあったし……ありえない話しじゃない」
「攫うって言っても、一体どこだ……」
「木箱とかは?」
「木箱はさすがに無理じゃないか? さっき俺達が座っていた大きさ以上の木箱は、ヨーン市街地に持ち込むことができない」
箱は規格が決まっているのか……。確かにあの大きさの立方体には、小柄とはいえアイリスの体は納まらない。
「じゃあノイ車とか」
「……あり得るな。何人かでの乗り合いじゃなく、1店で1台の荷車で来ているヤツなら人を荷物に紛れ込ませることもできるかもしれない」
「荷車を探してみる?」
「よし、あっちの壁際だ」
広場の西側に、大きな幌のついた荷車がたくさん停まっていた。ノイたちは休息のためか、今は居ない。
「荷物をおろしたあとは、あんな風に停車させるんだ」
あたりを見回しても今は人影はない。
「俺が見てくるから、ここにいろ」
「え、ちょっと」
「……大丈夫。キージェは上手くやるから」
グランに肩を掴まれ、大人しく見守ることにした。
私とグランは端のほうで見張り、キージェが荷車と壁の隙間へ入って行き、端の荷車から順に中をそっと覗いて戻ってきた。
「どうだった?」
「アイリスはあの真ん中あたりの荷車の中だ……商人風の男が一人乗っていた」
「無事……だった?」
「……だと思う」
「踏み込むか?」
「いや、アイリスを盾にされたら危ない。店番をしている奴を探そう」
「でも、逃げられたら」
「大丈夫だ。ノイは正規軍が別の場所で預かっているし、ヨーン市街地を出る時には荷物を全部あらためた後に発行される通行手形を見せないと、ノイは荷車に繋げない」
「……じゃあ、何かしら手引きしている人がいるのかも?」
「証拠を押さえてとっ捕まえてやる」
私たちは再び市場へ戻った。
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(作者の推しはアイリスちゃんです)




