知りたいことだらけ
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
昼が短いこの世界では、夜中のような星の時間でも活気がある。
人の流れに乗って出店を見て行くと、生地類を売っている店を見つけたのだけど……
「なにこれ!」
「首都で流行ってるんだ。良い柄だろう?」
えー…… 洗剤のCMで見たことがあるバイ菌みたいな模様……。
そして高い!
「恋人にどうだい?」
いやいや、ありえない。無理!
骨青結晶の回収の報酬が金貨1枚で1万ツバンなのに、この生地は1メートルより少し短いくらいの1マールという単位で18万ツバン。これじゃ服を作ろうとしたら仕立て代も込みで大変な金額になっちゃう……。
見回してみても、可愛らしい生地も見つからず、私は肩を落としてその場を立ち去った。
――ちょっとまって。今の私はエリムレアの体だ。可愛い服は不要! よし!
その店の裏手には、フェルト生地を扱ってる店があった。
『カルツのぬいぐるみの手足のパットにはスモノチのスウェードを使ったけど、やっぱりフェルトも良いな』
値段は……1マールで1000ツバン。厚さも強度もちょうど良さそう!
「これ、2マールください!」
「……あれ? お兄さんは冒険者だろ? 職人じゃないのに何に使うんだい」
「えーと、ちょっと縫い物を……」
知らない人にはまだ公表しないほうがいいかな、と思ってそう答えた。
「そうかい、冒険者は若いうちは良いが、年取ったら引退して職人になるのも良い生き方さ。準備しておくに越したことは無い」
布屋のおじさんは、ほほほと笑いながらフェルトを切り分けてくれた。
……そうか、ルートンさんが自警団をクビになった私に、家に来いと言ってくれたのは今後の事を考えてのことだったのかも。……ありがたいな。
「おじさん、この生地の原材料ってなんですか?」
「こいつはワドレンの毛さ」
「ワドレン……?」
「禁足地の地下にいるんだが、お前さんは見たことないかい?」
「どこの禁足地ですか?!」
「えーっと、どこだったかな……北の草原地帯の方だったと思うが……」
「ありがとうございます!」
ワドレンの毛はとても線維が細い。フェルトにできるということは、羊毛と同じでそれなりに毛が長い生き物に違いない! それならば、原毛の状態で手に入れば、綿として使えるだろうし、そうしたら小さい作品も作れるかもしれない!
それだけじゃく、織物の職人さんに依頼してモヘア生地を作ってもらうこともできるかも。
「ワドレンの原毛って置いてないですか?」
「ごめんね、お兄さん。このプッシー生地しかないんだ」
プッシー生地というのは、この世界でいうフェルト生地のようだ。
「そうですか、では原毛は自分で取りに行ってみます」
「あぁ。気を付けてお行き」
並びの店では光沢のある刺繍糸も手に入れた。少し高かったけど、これでカルツのぬいぐるみの改良版はもう少しいい感じになると思う。
本屋さんは市場のはずれの方でかなり広い面積で出店を構えていて、本は机の上に平置きにされている。この区画は同人誌即売会みたい……
冒険者とは違った服装の人……恐らく、学者さんたちが主なお客のようだ。
本を探しながら歩いていると、キージェが一冊の本を立ち読みしているところだった。
食い入るようにページをめくっている。
「キージェ!」
「あぁ……」
「目当ての本見つかった?」
「あぁ……」
ふふっ、完全に生返事だ。
以前、俺はエリートじゃないとは言っていたけど、部屋はほとんど本で埋まっていたし、勉強熱心だ。……邪魔をしたら悪いし、また後で。
さて、私も本探しをしよう!
まずは動物に関する本だ。
さっきのワドレンも気になるし、今後も何か動物を討伐することがあると思う。それには知識が必要だ。もしもスモノチに毒があったらと思うと、今でもゾッとする。
難しい学術書じゃなくて、写真があって、どこに生息していてどんな生態でどの位の大きさで、毒の有無が分かるような、ポケット図鑑みたいなのが欲しい。あ、写真は無理か。
2冊ほど目当ての本を見つけたので、次は工芸に関する本。毛皮をとるために動物を狩るより、やっぱりモヘア生地のようなものを作りたいし、この世界での染色に関する知識も身に着けたい。
さっきのワドレンの毛のフェルトは白だから、染められたらかなり可愛いものになると思う。
日本では、調合済みの染色剤が手芸屋さんで売られていたけど、この世界では自力で染色に必要な物を調達する必要がある。
だって……売られている生地は全部地味なんだもの。雑貨屋さんには地味な染色剤しか置いてないし。
それと、地図!
エリムレアの荷物にあった地図はかなり古くてボロボロで、その上書き込みが多くて何がなんだかもう分からない。
ということで、ヨーン市の地図と大陸の地図を2枚ずつ購入した。1枚は携帯用、1枚は作業机の前の壁に貼って、地図を覚えるため。
できれば「ヨーン市の歩き方」みたいな観光ガイドとかあれば、この地を知るのに良かったのだけど……売っていなかった。
キージェが居座っている魔法書の辺りを見に行こうとする途中、小さな本を見つけた。
青い表紙には風景のイラストが描かれていて、可愛い雰囲気だったので思わず手に取ると、それは絵本だった。
「そっか……子供たちもいるものね」
絵本とはいえ、エンタメ系に触れるのが久しぶりで迷わず他の本と一緒にお会計へ。探索から帰ったら読む!
なんだかんだで荷物が多くなってしまったし、ティーポットは後日、雑貨屋さんに行くことにしよう。
本作を気に入っていただけたら、ブックマーク登録・評価をいただけるととても励みになります。




