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※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
アイリスに誘われて、夜明け前に家をでた。
職人街のさらに奥にある北側の広場は、正規軍の訓練に使われている場所。
「どうせなら、僕たちの好きな食べ物も思い出してよ!」
星明りが反射する石畳の通りを、アイリスがはしゃいで駆けていく。天真爛漫で、見た目はもちろんだけど、本当にかわいい子だなあ。
「市場が開かれるのは、月に1回。お前とは一度も一緒に来たことはなかったな」
「そうなんだ」
「俺は本屋が来る時だけだから。それに、市場に用事が多いのはアイリスさ。行商人がよその町や異国から薬の材料や器なんかを売りにくるんだ」
「へぇ。……今日は本屋さんも?」
「あぁ、後で行く」
そっか、本。……この世界の文字も読めるんだし、私も一緒に行ってみようかな。
アイリスの後を追って歩いていくと、急に視界が広がった。
正規軍の見張り塔からつるされた照明と、ガス灯が煌々と輝いている。
ヨーロッパあたりの華やかな市場とは雰囲気はかなり違うけど、色んな食材や香辛料の香りがあふれ、そして人々も多く賑やかだ。
色々な商品を並べている商人たちは、ヨーンでは見かけない服装の人が多い。
このごちゃ混ぜな雰囲気は、なんとなくデザインフェスタの会場を思い出しちゃうなぁ。
「エリ! キージェ! こっち!」
アイリスに呼ばれたところに行くと……
「ここは?」
「お茶屋さん!」
わぁー! お茶! こういうの求めてた!
「アイリスとキージェが好きなのはどれ?」
大きな机と、机に積み重ねられた木製の棚に、所狭しに瓶や箱が並んでいる。
「えーっとね……」
アイリスが棚に近寄って品物を眺めている。
「いらっしゃい!」
年配の女性の店主が棚の陰からひょっこり顔をだした。
「おや、エリムレアじゃないか。いい男だからお安くするよ!」
もしかして、イケメンの特権というやつ?!
アイリスとキージェが肩をすくめた。
「試飲もできるし、遠慮なく言っておくれ」
そっか、試飲できるなら私も自分用の買おうかな。
瓶のラベルの説明を見ながら、味と香りのどちらで選ぶかで悩んでいると、横からキージェが腕を伸ばす。
「エリがよく飲んでたのはこれだな」
「え? あ、ありがとう」
最初の頃はお礼を言うと気味が悪そうにしてたけど、最近はそれも受け入れてくれている。キージェは不愛想なエリムレアにずっとこんなふうに世話を焼いていたんだし、本当に人のために尽くすタイプなんだろうな。
キージェが教えてくれた茶葉は「ロクガン」と書かれていた。
それぞれ茶葉を選ぶと、店主が優しい笑みで頷く。
「じゃ、お包みするから、その間に一杯飲んでいきなよ!」
「ありがとう!」
出店の裏に木箱をひっくり返した簡素な席があり、その横には小さなコンロが置かれ、青い炎の上でヤカンが湯気を上げている。
陶器製の小さいティーポットに3つ、それぞれの茶葉を入れ、お湯を注いでくれた。
「キージェとアイリスのは?」
「ラッソだ」
「僕のはサクト!」
店主はせっせと茶葉を紙袋に取り分けてくれている。
「よし、そろそろ飲めるよ!」
アイリスの号令でカップに注ぐと、いわゆる紅茶色の飲料が現れた。
実は、先日ラニゴの耳を届けた時に、カーナ先生のところでお茶を断ってしまったのを少しだけ後悔していた。
「あっ、良い香り」
リンゴのような爽やかな香りと、ほんのりシナモンにも似た香りが混ざっていた。一口含めば微かな甘みがあり、それはアップルティーというよりアップルパイのような味だった。
「美味しい!」
「記憶が無くても、好きなものは忘れないんだな」
キージェが少し嬉しそうだ。
エリムレア、日本でアップルティーとアップルパイに出会えますように! 駅前のケーキ屋さんのが絶品だから、お母さん、連れて行ってあげて!
「キージェが飲んでいるのは、ヨーンじゃ一般的に飲まれているお茶だよ。グランもそれで大丈夫じゃないかな。ちなみに、僕が飲んでるのはちょっと甘酸っぱいんだ」
「サクト……だっけ?」
どこかで聞いたような気がするけど……
「うん、エリが大好きな実がなる木」
「前に骨青結晶を取りに行った時、黄色い実を食ったろ」
「あぁ……!」
「……少し、思い出した……?」
アイリスが恐る恐る問いかける。
「……ごめん、サクトはあの時に覚えたばかりだから……ほんとにごめんなさい」
やっぱり、アイリスはかつてのエリムレアが戻ることを望んでいるのかもしれない。
「謝るなよ。お前は俺やアイリスをありのままで受け入れたヤツだ。俺達も今のお前を受け入れているから」
そう言って額を小突く。
「ごめん、えっと……色々あったのに、エリがまた一緒にいてくれるから、僕たちも嬉しいんだ」
「ありがとう。私も二人がいるから心強いよ」
何も分からない私に、疑うことなく色々教えてくれるエリムレアの友人。ありがとう。そしてごめん。複雑な気持ちだよね……本当は。
だから、私はもっと強くならなくちゃいけない。
「さぁさ、お持ち帰りの支度ができたよ」
店主がニッコリ笑って茶葉をくるんだ紙袋を持って来た。
「美味しかったかい?」
「ご馳走様でした!」
「美味かった!」
「とっても美味しかったです!」
「エリムレア、ずいぶん愛想良くなったね。何かいいことでもあったのかい?」
「え、えーと……」
なんて説明して良いのか分からない。
「あぁ、そうか。友達が出来たからだね!」
キージェとアイリスは顔を見合わせてクスっと笑う。
「仲良くしなよ!」
「なんだよ、子供みたいに」
キージェの呆れ声に、アハハと店主の声が響いた。
エリムレアは市場に来て買い物してたんだね。
……少しだけ彼の足跡を辿れたような気がした。
これで、みんなが遊びに来たら美味しいお茶を振る舞える!
今日は職人街がお休みだから、市場でティーポットとか茶こしとか、お茶菓子用のお皿とかも見てみようかな。
それから3人で探索業務や遠征時のための携帯食や消耗品を扱っている区画に行って、あれこれ見て回った。
干し肉や乾パンの他、甘いものや滋養の付くもの、単純に美味しいものなど、それぞれの好物を説明して、それぞれ買い物。
推し食品のプレゼン大会……こういうの楽しい!
「じゃ、僕はちょっと行くところあるから、また後で!」
「気を付けていけよ」
「あとでノイ厩舎前でね!」
走っていくアイリスの背を、キージェが見つめている。
「どうかした?」
「いや、何でもない。……さて、俺は本屋に行くからここで解散かな」
「私はぬいぐるみの材料を探してから本屋に行くから、また後でね」
「おう!」
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え、作者の推しですか?
それは……




