表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瘴気の魔王アリゲーリ  作者: こんたくみ
6幕.悪魔を呼ぶ手紙
35/68

6-1.悪魔共の夢のあと

part隆志


 正午前だ。朝食を食べている。卵焼きと味噌汁と白米。浅漬けはキャリバンが酒のつまみにしやがった。

 徳利の首を摘まんだまま、赤らんだ顔のキャリバンは、ソファの上にうつ伏せっている。


「うー……」


 完全に酔いが回っているようだ。俺は俺で味噌汁を啜る。滋味が体に染み渡る。面倒事の気配も紛れる。

 あの夢だか現実だかわからない夢を見た後、目に見えて様子が変わったのがキャリバンだ。他の皆は、小さな(いさか)いこそあれ平和なものだ。

 キャリバンはしばしば意味ありげな視線で俺を見てくるようになった。なにかをしようとしているようなのだが、結局はなにもしてこない。背後を狙われるような心地で落ち着かない。

 俺が朝食を済ませると、隅に控えていたミラーレがさっと出てきて、食器を下げてしまった。そんなことはしなくてもいいと何度も言ったのだが、どうしてもやりたいらしい。ミラーレの態度は殊勝だが、心の深層が見えないうえに、ミランダと似た容姿が俺の感性に奇妙な差異を植え付けてしまう。別世界からやって来たミランダみたいだ。掴み所がない。

 部屋に戻ると、ミランダとレギオニステラが対峙していた。レギオニステラの表情は見えないが不遜な雰囲気を醸し出し、ミランダは敵愾心を表情から隠さない。

 ミランダはレギオニステラに敵わないから止めろ、と言いたくなる。しかし言えない。ミランダはどういう訳かヴェルギリと仲が良い。なにかにつけて、ヴェルギリはミランダの味方をする。現に今も、ミランダの白い腕には怪奇的な姿のヴェルギリが巻き付いている。モザイクで自主規制だ、えいっ。


「あ、隆志さま」


 こちらに気が付き、ミランダは腕のモザイクを後ろ手に隠した。レギオニステラはミランダに興味を失い、部屋の隅へ移った。レギオニステラは部屋の隅で佇むのがお気に入りらしい。


「また喧嘩か?」

「いいえ、なんでもありません。ただちょっと……」

「少々私的なことです故、ご容赦を」


 ミランダもレギオニステラも、俺に知られたくないことがあるらしい。俺としては詮索するつもりもないが、本当に妙な感じだ。ミランダの後ろで、ヴェルギリも「なんでもないよ」とモザイクを振っている。


「そのまま阿婆擦れの剣になればいいんです」


 俺の後ろに立っていたエーリアルは、当て付けるように俺の腕を懐に抱き寄せた。「ピキーッ!」と怒ったヴェルギリが、鞭のようにモザイクをしならせる。エーリアルを狙ったそれは、エーリアルを叩くどころか、返り討ちに噛まれてしまった。


「ピキーッ! ピキーッ!」

「止せエーリアル」

「ぺっ」


 吐き出されたモザイクにミランダが慰みをいれる。今日は出かける気にもなれず、俺はいつものようにパソコンの電源を入れた。


――妾が物語を進めておいてやるから。


 夢で聞いたシコラクスの言葉を思い出す。あいつが関わると、いつもひっちゃかめっちゃかだ。あれが単なる夢だったとしても、いや、考えるのは止そう。


「…………」


 物語の進展。鍵はキャリバン。第二魔界の悪魔。


「どう考えてもシコラクス絡みだよなぁ……」

「隆志さま?」

「最近キャリバンの様子が変なんだが知らないか?」

「知りません」

「あ、そう」


 自分から直接、当たるしかない、か。

 パソコンの電源を落とした。「隆志さま?」一階のソファへ向かう。

 リビングにはキャリバンが先程と同じ体勢で居た。ミラーレは台所で食器を洗っていて、ここには俺とキャリバンのみだ。キャリバンは手紙らしきものをじっと見ていた。折り畳んで時空の穴に放ると、ぐい、と酒を飲んだ。


「おいキャリバン」

「ごふッ!?」


 キャリバンが激しくむせた。えほ、えほ、と咳き込みながらソファから上体を起こし、涙目で俺を見る。徳利を時空の穴に放った。


「なんか用か?」

「ああ、ちょっとお前をデートに誘おうと思ってな」

「ああ、デートね。ええと、そうだな、特にやることもねえし、俺は構わ……デート?」

「date」

「あれか、なんか計画してるから、その日取りを俺に相談したいとか、そういう……」

「ラテン語に由来する、要するに逢引だ」


 ぽけーっと口を開けたまま、俺を見詰めているキャリバン。そのうち表情が、げっ、マジかよ……みたいになって、次いで、えっ、いやいや、それはないだろ、聞き間違いか? みたいになって、えっ!? デート!? おおおお俺が!? ってな風に真っ赤になった。


「暇なら付き合ってくれ」

「つつつつつつ突き合う!?」

「ああ、付き合ってくれ」

「突き合うなんて、俺、剣とか槍は苦手で、せめて棍棒とか……」

「お前はなにを言っているんだ」


 キャリバンは恥ずかしそうに縮こまった。


「デートって、なにすりゃいいんだよ?」

「お前の場合、取り敢えず服だな」

「服なら着てるぜ? ミランダみたいに変態みたいな格好じゃないし」

「いや、お前も十分変態だ。むしろお前の方が変態の王道って感じだ。お前、そのコートの下は下着だろう」

「水着だぜ」

「同じようなもんじゃねえか。おい、ミラーレ!」


 台所の方から、ミラーレがぱたぱたと歩いてくる。


「お呼びでしょうか」

「キャリバンを上に連れていって、まともな服を着せてやってくれ。余所行き用にな。食器は俺が洗っておくから」

「はあ、それは構いませんが、理由をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「ちょっとデートに行くだけだ」

「デ――」

「じゃ、あと頼んだぞ」


 俺はミラーレの肩を叩いて、そのまま台所へ向かった。


part悪魔 


「まさかキャリバン様に先んじられるとは……脅威はキャリバン様のみと思ってはいましたが、先手を取られることは想定していませんでした」


 ソファの上で縮こまるキャリバンに対し、ミラーレは忸怩(じくじ)たる表情で言った。


「お、俺はなんもしてねえよ、旦那がいきなし」

「ともかく、服を見繕えとのお達しですので、そのように致しましょう。二階へ」


 ミラーレの後ろを続くキャリバンは、お縄にされた者のようでもあった。

 部屋に入るなり、ミラーレは事情を説明する。大きな反発が起こるであろうと、ミラーレは身構えた。


「それじゃあ私の服を貸しましょうか? 身長差があって合わないかもしれないけど、参考くらいにはなるかも」

「私は着飾るような服を持っていない」

「変身するのが手っ取りばええ(・・・)でしょうに」

「ピキー」


 淡白な反応に、ミラーレは拍子抜けした。


「ちょっと皆さん、なにも思わないんですか!?」

「姉さん落ち着いて。わかってるけど、なんかさぁ、実感湧かないって言うのかな」

「ミランダ……」


 ミラーレは呆れたと言わんばかり、出来たしわをほぐすように眉間へ指を当てた。


「ちょっと来なさい」


 強引にミランダを部屋の外へ引っ張り出す。ミランダは怒られる気配に唇を結んだ。


「貴女、自分の現状がわかってるの?」

「現状って?」

「私たちは寄る辺のない悪魔なのよ、わかる?」

「隆志さまに仕えているんだから、隆志さまの側に居ればいいじゃない」

「そんな呑気なこと言ってられないでしょう。隆志さまは人間で、ここは人間界。悪魔がいつまでも居て良い場所じゃないわ。それに人間の寿命には限りがある。私たちの生涯からすれば、ここでの一時はほんの一瞬なのよ」


 ミランダは打たれたようにはっとして、ミラーレの顔を見た。


「だからこそ、貴女と隆志さまが結ばれて、少なくとも隆志さまがお亡くなりになるまでの地位を確保して、理想は隆志さまに悪魔へと……ミランダ?」


 ミランダの表情は、ミラーレの話を聞くうちに怒りへと変わっていた。ミランダはきっぱりと告げた。


「姉さん、嫌い」


 ミランダは部屋に戻ろうとする。「待ちなさいミランダ!」伸ばされたミラーレの手を払い落として。

 部屋への扉が閉められる。辛そうな、悲しい表情で立ち竦んだミラーレは、叩かれた手を握り締めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ