1-06 異世界転生した恋人が寝取られたので、向こうの世界滅ぼします~苦労人娘も添えて~
鳴島深雪には、木吉和也という彼氏がいる。数年前にタンクローリーとロードローラーの正面衝突に巻き込まれたものの、和也の死体は見つからず。
だからどこかで生きていると確信して、深雪は和也の帰りを待っていた。
しかし数年振りに帰ってきた和也の傍らには、どうにも常人ならざる気配の女がいて……。
「これは、魔王の娘ルル様が、彼氏のチーくんに劣情を催しつつあーだこーだする日常の記録です♪」
「なに怖。誰に喋ってんの?」
「ちょっと和也、誰そいつ?」
「えぇーっと……あの。何から言ったらいいかな」
タンクローリーとロードローラーの正面衝突に巻き込まれて行方不明になり、数年振りに帰ってきた恋人の和也が、困ったようにニヤつきながら、頬をポリポリ掻いている。
「大丈夫ですよカズヤ、私たちの世界を救ったのはアナタです。その旅路と勇気を伝えたら、きっとどんな人にだって通じるはずです!」
そんな和也の腕にしがみつくのは、ふわっと柔らかくウェーブを描いた金髪が太陽のように眩しくて、やたら肌面積が多いのに清楚な雰囲気の白いローブを着た、嘘みたいに起伏に富んだ身体の女。
くそ、なんだその腕にこれ見よがしに押し付けてる肉の塊は!? わたしへの当て付けか!!?
睨みつけながら、まじまじと女を見る。もちろん、憎悪を抱かずにいられない肉塊からは目を背けて──くそ、和也に押し付けるな、離れろ!!
コスプレとは思えない質感のエルフ耳。
見たことないくらい綺麗なエメラルドブルーの目。
そしてそこらのグラビアアイドルでも裸足で逃げ出すプロポーション……ケッ、忌々しい!
エルフっていたんだなぁ……って違う!
「旅路と勇気はいいけど、今までどこ行ってたわけ? なんか雰囲気変わってない? 何年も連絡くれなかったのは何なの?」
「待ってください、カズヤは世界を救う戦いを終えたばかりなんですよ!? とっても疲れてて……、いつ倒れたっておかしくないんです!!」
詰め寄るわたしから和也を守るように立ちはだかるエルフお姉さん。その表情からは、ただ“世界を救った恩人に対する感謝の情”だけとはいえない、もっと深く強い想いが窺い知れる。それに和也も満更でもなさそうで……あーそうですか。そういうことですか。
世界だなんだってのが本当だとして?
つまりこいつは、わたしと連絡とれなくなった数年間、そこのお綺麗なお姉さんとしっぽり楽しく過ごしてたってわけ?
ふーーーん。
ふぅぅーーーん?
「和也、あんた世界救ったんだって?」
「え、あぁ……まあ?」
「だったら、おけ、わかった。ちょっとそこ滅ぼすわ」
確か教え子が読んでるラノベ曰く、死ねば異世界に行けるらしい。わたしは、和也とお姉さんに突き立てるはずだった包丁を、自分の胸に深く突き刺した。
「ぐぅっ……!? ぅ、ごぽっ、お゛ぇ……、」
痛みと息苦しさと、あと諸々。
「何してるんですか!?」
思いの外キツかった痛みに悶えていると、温かい光と共に包丁がスルリと抜けて、傷が癒えていく。痛みもなくなり、スッキリ爽やかな気分だ。
「あなた、カズヤの元カノさんでしょう!? なんでいきなり自分を刺してるんですか! カズヤの成し遂げたことを一緒に祝おうと私は……!」
驚きのあまり芽生えたらしい怒気を込めて、わたしを一喝するお姉さん。つーか今、元カノっつった? 異世界人っぽいナリして、ピンポイントでイラつく言葉使うじゃん。
あとさぁ……。
「てめぇ邪魔してんじゃねえぞ、この乳エルフっ! わたしお前の世界転生して滅ぼすっつってんだわ、邪魔すんなよマジで!? つーかお前らの世界って名前とかあるわけ、教えてくんない? てか教えろよ、そこ滅ぼしてやっから!!」
「な、なに言ってるんですか!? カズヤ、この人おかしい! おかしいですよ! 元カノさん、あなた何がしたいんですか!?」
さすがは世界を救ったとかいうお姉さんと言うべきか。胸ぐらを掴まれてもまったく怯まず、逆にわたしを煽り返してきた。てか、質問に質問で返せって教えてるわけ、お前らの世界じゃ……!?
「質問に質問で返すなし……、うぐぅ……っ!」
もう一度、刺す。
今度はもう、回復なんてされないように。
確実に、絶命できるように、深く、深く。
「ぐぅぁ、おおぉ、ごぽっ、あ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!!」
エルフお姉さんと和也が、身を寄せ合いながらわたしの死に様を見ている。くそ、怯えるのは後にしてお前たちが救った世界の名前を……っ!!
──────
「で、あたしが生まれたってわけ」
あ、どーも。
あたし、ルル。
世界を滅ぼすために転生してきたママと、そんなママの元カレ──勇者カズヤ・キヨシに封印されてとにかく恨みまくってた魔王の間に生まれた娘ってやつです。
カズヤの救った世界を滅ぼしたかったママと、カズヤに復讐したかったパパは出会った瞬間意気投合して、それでわりと早いうちにあたしが生まれたんだけど、もう凄かった、特にママが。
少しでも人間を苦しめたいパパと違って、ママはとにかく世界を滅ぼしたがってて。あたしの存在理由……レゾン・デートルっての? 世界を滅ぼすためにあたしは生まれたんだってずっと言い聞かされてた。
つってもあたし個人はこの世界にも人間にも恨みはないし、何なら魔王の娘ってことで変に遠慮してくる魔族たちよりも人間のが友達多かったし。
あと、まあ、その。
彼氏も人間だし?
だから人間なんて滅ぼさないよって言ったら、なんか怒ったママがチーくん……あ、彼氏ね。彼氏のこと殺したの。信じらんなくない?
だからあたしもママ殺したわけ。 転生者っつっても結局ただの人間だし簡単な魔法で消し炭になったんだけど、ほんとに大変だったのはそこから。
ママが死んで、パパ大激怒。
魔力自体はあたしのが断然上だからやっつけんのは簡単だったけど、パパってほら、勇者にやっつけられても普通に生きてられるくらいにはしぶといんだよね。今も何やかんや静養しながら生きてるし、そんで。
ふぅ、机の上には“依頼”の書状が山積み。
内容は、読まなくてもわかるからいっか。
「残留思念だけで軍隊壊すかね、フツー……」
「ぼ、ぼくは今のルルも普通じゃないと思う」
「ん、なにチーくん? 別にフツーじゃない?」
あ、ママに殺されたチーくんだけど。
普通に生きてます。
ほら、あたし魔王の娘なんで。
死んだ人を眷属として生き返すのもワケないってゆーか。
てか好きな人殺されたら生き返すよね。
で、今はあたしの胸元にすっぽり収まって、頭を撫でられてるとこ。昔からちっちゃくて可愛いんだよね。
「てか、チーくんさ」
「へ?」
「今日ずっとあたしのこと『ルル』って呼ぶじゃん。なんで『ルル姉』って呼んでくんないの? そっちのが可愛いのに」
チーくんは、言ってしまえば幼馴染みだ。
小さい頃はいつもあたしの後について『ルル姉、ルル姉』って甘えてきてくれて。それがまぁ可愛くて! 辛抱堪らなくなったあたしから告って付き合ったって経緯があるんだけど、それは別の話ってことで。
で、そんなチーくんはというと、あたしの言葉に口をパクパクさせながらも、何だか首を振ってあたしを上目遣いにじっと見てくる。可愛い。
「だ、だって! ぼく、一応ルル……の彼氏、だし! だから、その、対等にっていうかさ、彼氏らしくなりたいな……って、うわぁ!?」
「はぁぁぁ~~~~っ!」
何ソレ!??
可愛いんだが!??
え、なに!?
あたしの彼氏可愛すぎか!??
ヤバっ!!
「しよっか、結婚」
「えっ」
「やなの?」
「い、いやなわけないけど! あの、話が急すぎちゃって!」
狼狽える姿も可愛い。
こりゃもう駄目だ。
チーくんが怖がるといけないから我慢してたけど、仕方ない。
頬擦りをやめて、チーくんを見る目にほんの少し魔力を込める。それだけでチーくんの身体はもう動かない。ソファに横たえても、慌てた顔だけして無抵抗だ。
「え、ちょっと何してるのルル姉!? 動けないよ、ねぇ!」
「だってチーくんあたしの眷属だもん。身体の隅々まで主人の力で動いてんだから、こういうのもできるって」
「いや、あのっ、ちょっと? なんか息荒いし、あと目が怖いよルル姉!??」
「チーくんが悪いんだよ、可愛い顔して可愛いことばっか言うから」
「まっ、待って! こういうのって順番とか順序とか手順とかあぅあぅあぅ……!」
「ま、いつかやることだから」
「あわわわ……!」
むぅ、あたしだって多少は緊張してんだけど?
そう言いながらチーくんの服の内側に手を入れたとき。
「ルル様そろそろ討伐の……あ」
「「あ」」
部屋に入ってきたのは、魔王が健在のときからあたしの乳母をやってるリライア。基本年上ばっかりだった居城で数少ない同年代で、乳母ってよりお姉ちゃんみたいな感じで気を許せる相手なんだけど……。
「リライアさ、毎回狙って入ってきてない?」
「いいえ? 『ああ、魔王軍の将来も安泰だなぁ』とか思いながら覗いたりとか? でも面白そうだから乱入しちゃおうとか? そんなのないですよ??」
「OMB」
「OMB?」
「OMB」
てかメイドじゃないし。
ともあれ時間らしい。名残惜しいけどチーくんから下りて……キスしとこ。
「ふぅ、お熱い♪」
「うっさい。で、今度はどこだっけ?」
「王家の墓が並ぶ川縁です。他の要望としては……」
やれやれ。
ま、親のかけた迷惑はあたしが何とかするのがスジ……か? 行き先を思い浮かべて、転移魔法を起動させる。
「じゃチーくん、ちょっと行ってくるね」
「行ってらっしゃい、ルル姉。あの、気を付けてね」
「やばカワ。帰ったら続きしよ」
「えっ」
可愛い驚き顔、いただきました。
これで魔王討伐も頑張れるってワケ!
サクッとやったりますか!





